ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

巨人、ドラキュラ、中世の村-空想旅行が楽しめる正統派プログレ『ジェントル・ジャイアント』

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さて今回はイギリスのプログレ・バンドGentle Giant (ジェントル・ジャイアント)で、1970年のリリースの1枚目『Gentle Giant』です。

バンド名は物語の登場人物で、旅の楽団に出会いその音楽に魅了される巨人に由来しているとのこと。

当時のメンバーはフィル(トランペット、サックス)、デレク(v)、レイ(b)のシャルマン3兄弟ケリー・ミリア(kb)、マーティン・スミス(d)、ゲイリー・グリーン(g)。

ジャイアント(Giant)

パイプ・オルガンを思わせるハモンドの荘厳な響きで始まる1曲目。

うねって動きまくる硬いベースの音はシャルマン兄弟の末弟レイ

この曲、ベースもスミスのドラムも圧巻です。

オルガンのメロディはこれぞプログレ、というコード展開。

メロトロンが入る後半は映画音楽を思わせる壮大さがあります。

巨人というのは何かの比喩のようで、新しい世界観、期待の高まり、成功、傲慢といった要素(パーツ)でジャイアントができている、彼の掌に乗って世界を見よう、と歌っています。

このブログで60年−70年代初頭の音楽を集中的に聞いているせいか、あ、またドラッグの比喩かと想像してしまいますが実際のところは分かりません。


Gentle Giant - Giant


続く2曲目の「Funny Ways(ファニー・ウェイズ)」

英国フォークというかトラッドというか、12弦のアコギ、チェロ、レイのヴァイオリンの奏でる旋律がもの悲しく、寂寥とした中世の村の景色を想起させます。
中途でジャジーな部分が入り、ゲイリーのギターソロが聞かれます。

「Alucard」(アルカードまたはドラキュラ)

重いリズムにミニ・ムーグを効かせたヘヴィーなプログレ

不穏な旋律のハーモニーも決まっているし、この曲のオルガン・ソロがすごくいい。
一度聞いたら忘れないフレーズの繰り返しです。

金縛りにあっているような状態で、邪悪な指、とか生ける屍、死にいく人々の叫び、という不吉な夢想をしているような歌詞ですが、タイトルのAlucardはドラキュラ(Dracula)を後ろから綴り直したアナグラム

確かに嵐のドラキュラ城で恐怖が押し寄せてくるようなイメージの曲です。

 


Alucard - Live in Paris


4曲目は「Isn’t it Quiet and Cold (イズンティト・クワイエット・アンド・コールド)」

3曲目のおどろおどろしさから打って変わって、「バスに乗り遅れて一人歩くことになった。今までは一緒に歩く人がいたのに、今はたった一人」という日常の憂鬱(メランコリー)を歌った曲。

レイのヴァイオリン、ゲイリーの12弦、客演のクレア・デンツのチェロ。

ホンキートンク・チューニングのピアノが物悲しい音色を奏で、ヴァイオリンのピチカート、シロフォンの可憐な音色が花を添えています。

発表当時は「ビートルズのよう」と評されたようですが、タートルズのような、あるいは古いイギリスの民謡のようにも聞こえます。

Nothing at All (ナッシング・アット・オール)

アルバム中最も人気のある曲ではないでしょうか。

アコギのアルペジオとベースに乗せて歌われる旋律とハーモニーがとにかく美しい。
正統派イギリスのフォークといったメロディですが、もちろん美しいだけでは終わるわけもなく、左右のギターの巧妙な絡みから中盤はドラム・ソロに入っていく。
スミスの渾身のドラミングにかぶさってミリアーピアノのソロが入っていく様はまるで嵐の中でピアノが鳴っているかのよう。
クラシカルな旋律を奏でていたピアノがドラムの嵐の中で徐々に乱れていって不協和音の洪水に。
予想通りに最後は冒頭の穏やかなハーモニーに戻っていきます。

 


Gentle Giant Nothing At All


次の「Why Not (ホワイ・ノット)」は楽しい曲です。

冒頭部分はヴォーカルをグレッグ・レイクに変えたらELPかクリムゾンの1枚目でも行けそうな感じ。

短いオルガン・ソロに続き、おそらくメロトロンであろうフルートにのせてイギリスというより中世西欧の田舎を思わせる旋律のヴォーカル。

さらに二転三転して最後はギターがビンビン飛ばしてハードロックに突入。
キーボードもなにやらジョン・ロードの様相を呈してきます。

 


Gentle Giant Why Not


最後はThe Queen(ザ・クイーン)」と題されたイギリス国歌(God Save the Queen)のアレンジ。

ドラム・ロールから始まり、トランペット、キーボード、ファズを効かせたギター、大きくアレンジしている訳ではなくオーソドックスな国歌ですが、終わったと思ったら小さな虫が歩いているようなおまけが付いていて笑えます。

女王陛下にもお気に召していただけるのではないでしょうか。

 

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よく技能的に優れていると言われるジェントル・ジャイアントですが、とにかく面白い。

キーボード、ギター、ベース、ドラムのみならずヴァイオリン、チェロ、シンセサイザー、ブラスなど多様な楽器などを駆使して、ドラキュラ城から中世の村、バスに乗り遅れて一人歩くしょぼくれた男などを脳裏に浮かび上がらせてくれます。

何度か聞けば次々に新たな面白さが発見できそうなアルバムです。


また「Nothing at All」をはじめ要所要所のハーモニーの美しさは特質に値するでしょう。