ユーライア・ヒープ 「対自核」で喝を入れる
久々に酷い風邪でダウンしました。 38度台の熱が5日ぐらい続いて抗生物質も効かず、ピークが39度3分って一体いつ以来でしょうか。
とは言うもののブログが滞っていたのはそれ以前からなので言い訳にはなりませんが。 好きで始めたのに70数記事で早くも倦怠の波に見舞われておりました。
この辺で威勢のいい音楽を聴いて喝を入れてみましょう。
ロックの曲・アルバム名には不可思議なものが多いですが、「対自核」というのは意味不明さでも断トツといっていいでしょう。
1971年発表のユーライア・ヒープの3枚目、原題は「Look at Yourself」。直訳をすれば「汝自身を見よ」。
ミック・ボックスのアイデアでオリジナルのアルバム・ジャケットは鏡面になるようにアルミ加工になっていました(私の持っているCDは単なるグレーの印刷)。
ケン・ヘンズレーのキーボード、ミック・ボックスのギター・リフ、デヴィッド・バイロンの裏声ヴォーカル。想像しただけで元気が出て来ます
「対自核」(Look at Yourself)
ドラムより太鼓といった方がしっくりのイアン・クラークのドラミングとケン・ヘンズレーのオルガンで始まる表題曲。
重厚なシャッフルは文句なしに好きなジャンルです。
ヘンズレーの作でヴォーカルも本人ですが、バイロンが裏声でコーラスに入っています。
キーボードのソロ、さらにファズの効いたギターのソロ。
「何から逃げているんだ
誰も追って来てないじゃないか
怖がってないで
ちゃんと自分自身を見ろよ」
という歌詞ですが、畳み掛けるリズムに追われて何だか走りたくなる。
終盤、ドラムのビートをバックに入ってくるパーカッションはアフロ・ロックバンド、オシビサのメンバー。
やがて全楽器が混然一体となって収束へと向かいます。
2曲めの「自由への道」(I Wanna Be Free)
ハモンド・オルガンをバックにバイロンとヘンズレーのハーモニー、そこにベースがいい感じで入ってくる序盤の美しさ。
ギターの掛け合いもバイロンのファルセットのスキャットもいいし、個人的にはポール・ニュートンの高音部のベースのうねりがツボです。
「7月の朝」(July Morning)
ブルガリアで毎年7月1日に黒海の浜辺に集まって日の出を見るお祭り。
そこに出かけて活力に満たされて家路を辿る男の歌ですが、本場のブルガリアでは80年代にユーライア・ヒープの「7月の朝」がヒットしたためにお祭りのJuly Morningという呼び名が定着したとWikipediaにあります。
黒海に昇る太陽 (日本海でも太平洋でも画像はそう変わりませんが)
美しい曲をバイロンがヴィブラートのかかった声で歌っています。
特に良いのは民族音楽を思わせるもの悲しいメロディをキーボードで演奏する中盤と終盤。
終盤のマンフレッド・マンのミニ・ムーグが入りビンビンと飛び交いながらうねっていく様はまさに圧巻。何とも快感です。
「対自核」の魅力をさらに上回る聞き応えのある曲です。
この曲、日本とヴェネズエラでシングル・カットされた、とありますがレコード会社も10分半に及ぶ曲をよくシングルにしたなという感じです。
というか、この曲と「対自核」をシングルで買うぐらいなら迷わずLPの方を買うでしょう、普通。
1972年のライヴ録音。この時のベースはゲイリー・セインですね。
続く4曲目の「瞳に光る涙(Tears in My Eyes)」
始まりと終わりがツェッペリンみたいな曲だと思ったら(思ったのは私だけかも、ですが)、ヴォーカルを違和感なくプラントの金切り声に脳内変換してました。
中盤のアコギとムーグ、高音部のスキャットが入る部分のギターが美しい。ちらりとヴァイオリンのような音が聞こえたのはシンセサイザーでしょう。
「悲嘆の翳り(Shadow of Grief)」
悪い女に塵のように扱われ、足蹴にされてきた男の恨み節なのですが、かなりダークな曲です。
ドラマチックなキーボードがカッコよく、ところどころパイプオルガンのような音を出しています。
オルガンとギターの掛け合いからギターソロへの移行もいい。
不穏なメロディを奏でるギター、ベース、オルガン、ちょっとサバスがかっています。
終盤のムーグもうまくはまっていますが、ムーグで悲鳴のような音を出しているのかと思ったら途中からバイロンの声のようで、どちらなのか分からない。不思議なエンディングです。
対自核、7月の朝に続いて好きな曲です。
6曲目の「当為」(What Should be Done) も摩訶不思議な邦題がついたメロウな曲。
ファズを効かせたギターは悪くないけど、アルバムの中では今一つ面白味に欠けるように思います。
最後の「ラヴ・マシーン(Love Machine)」はヒープらしい曲。
骨太のシャッフルで、「対自核」と対をなしている印象です。
ミック・ボックスのギターソロも冴えているし、バイロン独特の裏声も堪能できます。
ボーナス・トラックに「対自核」と「当為」の別バージョンが各2曲入っているのは蛇足ですが、「Why」という曲は秀作です。
ヒープにしては意外なジャズがかった曲で、鼓動のようなベースもヘヴィーにファズをかけたギターも心地よい。
このアルバム辺りからユーライア・ヒープの全盛期に入っていきます。
ケン・ヘンズレー自身もヒープのサウンドのアイデンティティを確立したアルバム、と言っています。
個人的には1枚目も「ソールズベリー」も好きなので優劣はつけがたいのですが。
ちなみに日本語版のウィキペディアを見ていたら、「対自核」はザ・ピーナッツが、「7月の朝」は西城秀樹がカヴァーをしていたので驚きました。
ザ・ピーナッツがクリムゾンの「エピタフ」をやっているのは知っていましたが、「対自核」まで歌っていたとは。おそるべし、伊藤姉妹。
いや、でも、十分想像つきます。