ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

ミュージシャン本人が買うなと言う名盤デイヴ・メイソンの『ヘッドキーパー』

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今晩は。ヴァーチャル・パブ倫敦きつね亭です。

今夜のCDはデイヴ・メイソン。

トラフィックのギタリストだった人ですが、スティービー・ウィンウッドがブラインド・フェイスに入る一足前に音楽的見解が合わないとして袂を分っています。

そもそもトラフィックは皆で一緒に曲を作る習慣だったらしいのですが、メイソンさん一人で作詞作曲してきては「お前はこれやって、お前はこれね」と仕切る傾向があったらしく、ウィンウッド以下トラフィックの面々が「私共は貴方様のバックバンドではございませんので悪しからず(=俺らオメーのバックバンドじゃねーし)」と言ったとか。以来他の著名ミュージシャンと組んだりしながらソロとして今に至っていますが、一時期フリートウッド・マックにいたこともあるらしい。

 

今回の『ヘッドキーパー』(1972)はソロ活動を始めて3枚目のアルバム。
前半(A面)はハリウッドのサンセットスタジオ、後半(B面)は同じくハリウッドのナイトクラブ、トゥルバドールでのライブ収録です。

スタジオ録音のバックコーラスにはリタ・クーリッジ、スペンサー・デイヴィス、グラハム・ナッシュ、キャシー・マクドナルドと豪華な顔ぶれです。

実はこのアルバム、デイヴ・メイソン本人はかなり不満だった様子。スタジオ5曲、ライブ5曲で構成も曲の内容も中途半端、不完全な状態で出されてしまったというのが理由で、契約に署名したのに「買うな」とファン宛のメッセージまで発表したらしい。

買うな、と本人が言っているアルバムってどうなの?
きつね亭は買うなという声明を知らずに70年代に買ってからLP、CDで楽しんでおります。このアルバムは一般の評価も決して悪くなく、聴かないでと言っているのはどうもご本人だけのような気がします。

さて今回はカリフォルニア産カベルネ・ソーヴィニヨンでいってみましょうか。

「トゥ・ビー・フリー(To be Free)」

1曲目はピアノの伴奏から始まる美しく明るいメロディの曲。途中でオルガン。

サビのハモリがいい。

過去の迷いを振り捨てて、男女がこれから向き合おうとしている時期。
恐いなら少し立ち止まっていいんだよ、時間をかけて心を解き放てばいい、と相手の女性に語りかけています。

前半分のハーモニーは自身の多重のようですが、後半ベースとドラムが入った後の力強いハーモニーは女性歌手を含む複数の声が入っていますので、リタ・クーリッジ達が参加しているのでしょう。

曲全体を通してピアノのこぼれる様な音色が美しい。

「ヒア・ウィー・ゴー・アゲン (Here We Go Again)」

小品だがこれもとても美しい。
アコギ、パーカッション(ネジ巻きみたいな音も)とマンドリン(楽器リストに載っていないけど入ってるはず)の澄んだ音色。
バックで高い声を出しているのはグラハム・ナッシュでしょうか。

「ヘッドキーパー(Head keeper)」

不思議なタイトルの表題曲。ヘッドキーパーってネット辞書で調べると「動物園の飼育係長」‥‥はい?

女性の一挙手一投足に強くなったり心細くなったり、活力を得たり死にたくなったり、彼女を奴隷のように束縛したり、天に昇るぐらい解き放ったり、だけど心を弄んだりしない純粋な気持ちを持っていて、という歌詞で、ようは恋する男の心境を歌っています。女性からみるとちょっと面倒な人ですね。

12弦らしいアコギとピアノの印象的なイントロで始まる曲は、中盤でピアノとエレキギターのソロがそれぞれ入ります。
後半ブルースのメロディに移行してからのピアノとギターの絡み合いがすごくいい。
それをしっかり支えるベースとドラム。このアルバムのバンドはキーボードもリズムセクションも相当の実力の持ち主に違いありません。

 

さて後半のライブ録音では、5曲のうちトラフィックのナンバーが2曲入っています。

「パーリー・クイーン(Pearly Queen)」

トラフィックの名曲中の名曲「Pearly Queen」の作詞作曲にデイヴ・メイソンは関与していないのでこれはカバー。
ジプシーの血を引くエキゾチックで神秘的な美女に出会ったという歌です。
煌めく衣装を主人公に売りつけたり、「見たこともないほどの大酒飲み」で、「時がくれば運命に出会えるだろう」などと語ったりする彼女はそこら辺のちょっと可愛い女性ではありません。
トラフィックのスティービー・ウィンウッドのスタジオ録音版はスローテンポで重く、主題のミステリアスな女の熱い魅力を表現しています。
デイヴ・メイソンのライブ・バージョンはアップテンポで、ウィンウッドの粘り着くような歌い方ではなく、なんとなく淡白な女王様です。
ただしオルガンがめちゃグルーヴしているのと、ギター・ソロがいい。ドラムもキレキレでカッコいいです。

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「ワールド・イン・チェンジズ(World in Changes)

米国のコメント欄を見ているとこの曲が一番好きと言っている人が多いのですが、このライブ版の主役はソロのオルガン。
相変わらずドラムもいいなと思います。難を言ってしまうと曲がドラマチックな割にデイヴ・メイソンの声に特徴がないのが物足りなかったりします。

フィーリング・オールライト(Feeling Alright)

デイヴ・メイソンが作詞作曲したトラフィックのヒット曲です。
きつね亭的にはこの曲が一番好きです。
トラフィックのバージョンとかなり違って、こちらはファンキーで、電子ピアノ、パーカッション、ドラム、ベースで取っているリズムが心地いい。
コンガらしい打楽器が張り切っています。メイソンの声もこの曲には違和感なくはまっています。

ということで

メイソンさん自身は気に入らなかったかもしれませんが、いい曲にあふれたアルバムです。

キーボード(ピアノとオルガン)が印象的な曲が多く、リズム・セクションものっています。ただしギタリストが主役のアルバムかというと要所要所のソロは別として「あ、ギターいたんだ」的な印象なんですね。

ちなみにアマゾン・ジャパンのコメント欄を見てみたらコメントゼロ。 何故?と思って値段をみたら、国内版4400円、国内中古で4280円、輸入中古で1500円。これは値段高すぎじゃありませんか、アマゾンさん。