ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

プロコル・ハルム『グランド・ホテルの夜』で酔いしれましょう

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今晩は。ヴァーチャル・パブきつね亭です。
今日の名盤はプロコル・ハルムです。

そこの若い方、イスラム過激派の話じゃありませんよ。あれはポコ・ハラムですから。

 

プロコル・ハルムといえば、ある程度の年齢の方であれば、特に洋楽が好きでなくてもきっと1曲はご存知でしょう。そうです、「青い影」原題は「A White Shade of Pale」。

私が若い頃は部費集めのダンス・パーティ(俗称ダンパ)というのが時々ありまして、大学の1年生なんかだと上級生にパー券を押付けられて、大して行きたくもないダンパにやや強制的に行かされたものです。ダンス曲の合間に照明がすっと落ちて、チークタイム(うわあ)が始まると、決まって流れた曲がなぜかこの「青い影」だったものです。

ちなみに青い影はミリオンセラーどころか一桁上の一千万枚売れたそうです。ラジオの深夜放送などでもよく流れた曲でした。


『グランド・ホテルの夜』はかなり好きなアルバムで、プロコル・ハルムの6枚目のスタジオ録音、1973年の作品です。

今日はちょっと豪奢にシャンパンの代名詞ドンペリのヴィンテージで行きましょう。たまには、ね。


グランド・ホテルの夜(表題作)

今夜は絹のシーツにくるまって寝よう。高級なワインを飲んで、レアの肉を食べて。キャンドルの明かりにシャンデリア、銀の皿にクリスタル‥‥。

今度はオテル・リッツの食事、金の食器、鏡張りの部屋、ベルベットの緞帳、とパリの豪華な夜を表す言葉を尽くせば尽くすほど、成金臭が半端ない。

言葉の端々に「ギャンブルで財産はあっという間に膨れ上がり、そして消えて無くなる」などと言っています。挙句の果てに「そういえば、ヨーロッパ女の妻(一夜妻?)はどこに消えたんだろう」「フランス女は喧嘩好きだから、早朝につねったり噛み付いたり」と滑稽な展開です。

ピアノの単純な繰り返しの上にヴォーカル、ベース、さらにドラムが入ってきて、ギターが粋な入り方をしたかと思うと、すぐにストリングス、コーラスが入ってワルツが始まる。リッツでの晩餐のシーンでは、ドラムのシンバルでしょうか、食器の触れ合うが聞こえます。

さらにワルツのモチーフが入り、今度はどんどんとテンポが上がって、いきなりオーケストラが哀愁に満ちたメロディーをドラマチックなまでに盛り上げていく。さらにワルツ、また円舞のテンポが上がって今度はギターのソロ。これがなかなかいい。

ワルツの繰り返しの合間にドラマチックなオーケストラの旋律、ロックの部分が次々に現れて面白い。

狂ったような円舞曲とオーケストラのメロディが大袈裟であればあるほど、滑稽というか、猥雑というか、デカダンというべきか。フランスの艶話をイギリス人が語っているような不思議な楽しさがあります。


表題作の次は「Toujours L’amour (トゥジュール・ラムール)」。永遠の愛という皮肉な題とは裏腹に、女が勝手に出て行って、取り残された男の歌です。ネコを連れて置手紙を残して彼女は出て行った。「フランスのヴィラを借りようかな。フランス娘と恋が芽生えるかも」、あるいは「スペインに行きリボルバーを買って自分の頭を吹き飛ばす方がいいかな」という剣呑な歌詞。

初期のビートルズにありそうな旋律の曲。ピアノ、さらにオルガンが効いていてギターのソロもいい。

ラム・テール(A Rum Tale)

小曲ながら好きな曲です。ピアノとベースが刻む3拍子が心地よく、メロディも可愛く美しくどこか懐かしい。途中から入ってくるオルガンもいい。作曲者のゲイリー・ブルッカー自身も、「メチャクチャ美しい曲を書いた」と言っている自信作です。

女に骨抜きにされた男が、南の島でも買ってラム酒漬けで暮らそうか、回想録でも書こうかと言っています。

 


Procol Harum: A rum tale

 

4曲目のTV 「シーザー(TV Ceasar) 」。湿った印象のギター・ソロが印象的です。
テレビの皇帝マイティ・マウスが各家庭の壁の穴に潜んでいて人間を観察しているよ、という歌です。

ビッグ・ブラザーが見張っているオーウェルの小説のような状況でありながら相手がネズミだけにコミカル。大仰なオーケストラ仕立、大真面目なヴォーカルの語り口でシュールな曲です。

 

次の「スーヴェニア・オブ・ロンドン(A Souvenir of London )」では、2重のアコギとパーカッション、マンドリンにズシンと響くバスドラにのせて、ブルース調のヴォーカルが「嬉しくないロンドン土産」について歌います。親に言えず税関でも申告できない、医者に見せなければならないこの「お土産」はVD(性病)ということで、この曲はBBCで放送禁止になったという逸話が残っています。

6曲目の「Bringing Home the Bacon」はロックらしいロックです。途中のギター・ソロがいい。

「For Liquorice John」は恥辱にまみれ精神に異常をきたした男の歌で、最期は手を振りながら海に沈んで言ったという救われない歌詞。変拍子が面白く、後半のオルガンからのドラマチックな展開がプロコル・ハルムらしい。


ファイアーズ(Fires(Which Burnt Brightly))

粒ぞろいの作品中、表題作、ラム・テールと並んで好きなのがこのファイアーズです。

この戦いは負ける寸前で、大義名分は亡霊と化している。かつて煌々と燃えていた火は勢を無くしている。規律と進軍ラッパは塵にまみれ…。

悲惨な描写の背景に流れるのは冒頭からのピアノの旋律の美しさ。効果的なオルガン・ソロ。

さらに何と言ってもゲスト出演しているクリスティアーヌ・ルグランのソプラノ・ヴォーカルがいいのです。特に後半のスキャットは圧巻で何度も聴きたくなります。

 

下は2006年のライブ録音。ルグランのソプラノの代わりに合唱が入っています。


Procol Harum - Fires (Which Burnt Brightly) // Denmark - 2006

 

最後は「ドクター、私が病気なの分かりません?金ならいくらでも払うから何とかしてくれ」という歌詞が壮大なシンフォニーにのせて歌われるという「Robert's Box」でアルバムは幕を閉じます。


最後に

ピアノのゲイリー・ブルッカーが全曲を作曲し、作詞は楽器を演奏しないメンバーのキース・リードが担当しています。クリムゾンにおけるピート・シンフィールドの小規模版といった役割でしょうか。

死、病、失望といったテーマが何とも仰仰しくドラマチックな演奏や、美しいメロディに載せて歌われる辺り、プロコル・ハルムのブラックユーモアというべきか英国人らしい皮肉じみたものを感じます。