アメリカという名前のバンドの1枚目
今晩は、ロンドンVixenです。
今回はアメリカのファースト・アルバム『アメリカ(America)』でいきたいと思います。
アメリカ、と言っても若い方はご存知ないかもしれません。
70年代初頭に主に活動したトリオで、メンバーはデューイ・バネル、ジェフ・ベックリー、ダン・ピーク。
ジャンルはフォーク寄りのフォーク・ロックで、アコギ2台+ベース+ドラムあるいはパーカッションというのが典型的な構成で、ハーモニーの美しさが特徴です。
このファースト・アルバム『アメリカ』は1971年の作。
曲調からしてアメリカ西海岸のグループと思っていたのですが、アルバムの裏表紙がどう見てもロンドンのキュー・ガーデンの温室にしか見えない。随分と似た場所が米国にもあるんだなーと思って今回ウィキペディアを見たら、メンバーはロンドンにあるアメリカン・スクールの同級生と書かかれていて妙に納得しました。
『アメリカ』は12曲による構成でどの曲も美しいのですが、特に好きな曲をピックアップしてみます。
「川のほとりで(Riverside)」
小気味のいい6弦のアコースティック・ギターのストロークに、12弦のアコギがかぶさっていき、アコギによるリードギターのソロ。
ドラムは入れずパーカッションとギター、ベースでリズムを刻みます。
そして見事なハーモニー。
「You stay on your side and I’ll stay on mine
You take what you want and I’ll take the sunshine」
(君は君の思うようにすればいい。俺は俺のやり方でやる)
と清々しいまでのアイデンティティの表現。 曲調はあくまでも爽やかです。
「サンドマン(Sandman)」
外は霧が濃いね。飛行機は全部着陸している。
室内は火が焚かれている?じゃその側に行こう。
不思議だよね。僕は向こうにいて、君はここにいた。
ビールを飲む暇さえなかったよね。
君はサンドマンと呼ばれる男から逃げていたし。
サンドマンとは子供の目に砂をかけて眠らせるという妖魔ですが、そんな仇名が付いている男などロクな人間ではなさそうです。
Am-F-Emというコード展開で前曲と違って暗いけど印象に残る曲。
デューイのヴォーカルの後のハーモニーはやはり綺麗に決まっています。
ベース・ラインとエレキのソロが好きな曲です。
「名前のない馬(Horse with No Name)」
ヒットした曲で日本でもよく知られていると思います。
名前のない馬を駆って砂漠を旅して行く。
はじめに蝿のうなり音。
2日目には皮膚が赤くなり、
3日目には水の枯れた川を通り過ぎる。
9日目には砂漠が海に姿を変えたので馬を解放した。
植物、鉱物、鳥たち。
海は砂漠で地下に生命が満ち溢れている。
表面だけ見ると全く気がつかないが。
歌詞を見ると人生と精神の変化を歌っているように思われます。
主人公が街のしがらみを離れて色々なものに気づいていく様子。
時代背景は体制から解放され「自由」や「アイデンティティ」を求めて行くヒッピー文化の時代です。この曲もそんな精神的な解放を感じさせます。
もちろん当時のことですから、馬=ドラッグによる自己解放のことを表現したのかもしれません。
この砂漠のイメージはサハラやゴビではなく、アメリカ西部の砂漠のイメージで、確かにメンバーの一人はアリゾナやニューメキシコで幼少期を過ごしたらしいのですが、直接のイメージになったのは何とサルバドール・ダリの絵に出てくる砂漠とエッシャーの絵の馬らしい。
ネットが普及すると当時知らなかったことが色々出てきますよね。
12弦ギターとヴォーカルで始まり、すぐベース、パーカッション、ドラムが入り、馬のギャロップを思わせるリズムが曲全体を貫く。パーカッションの心地よいこと。
人によっては曲調もヴォーカルも単調(昔友人からはお経のようだと言われた)と思うらしいけど、砂漠を彩っていく景色が目にイメージとして浮かぶかなり好きな曲です。
「僕には君が必要(I Need You)」
花が水を必要なように。冬が春を必要とするように。
私はあなたを必要とする。
ハーモニーが本当に美しい小品です
どこかビートルズの曲にありそうですが、途中まで「サムシング」に似ているのではないでしょうか。
「ドンキー・ジョー(Donkey Jaw)」
ベトナム戦争時代を反映したプロテスト・ソングです。
まず絡み合うアコギのアルペジオの流麗さに圧倒され、そこにさらにベースとパーカション(この曲の題名になった「ロバのあご骨」で正式名はヴィアブラ・スラップ(Vibra Slap))が加わってインストゥルメンタルとしても聞き応えのある曲です。
が、ヴォーカルが始まるとその歌詞の激しさにゾクリとします。
サタン(悪魔)よ、私たちの国を魅了するな。
子供達の命が失われないと分かってくれないのか。
激しく訴える前半に比して、転調した後には哀願するように「Does it take the children to make you understand」が繰り返されます。
時代が変わった今でも心に刺さる曲です。
終わりに
ジャケットの写真にあるように当時のメンバーが若い。
ギターが好きな3人の男の子が集まって「ここ、このコードでいい?」とか話しながら曲作りしているような雰囲気が伝わってきて初々しさが好ましい。
アメリカはこのあと「マスクラット・ラヴ」や「金色の髪の少女(Sister Golden Hair)」などのヒットがありますが、やはりこの1枚目が一番良いように思います。