ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

ツイン・リードが圧巻、ウィッシュボーン・アッシュの「アーガス」

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ウィッシュボーン・アッシュ(Wishbone Ash) といえば、アンディ・パウエルテッド・ターナーのツイン・リードギターで有名ですが、この3枚目『百眼の巨人アーガス(Argus)』(1972)は特にツインリードの魅力がいかんなく発揮された必聴の名盤です。

 

全曲いいのですが、特に「戦士」「剣を捨てろ」はギターという楽器が嫌いでない限り聴いておいて損はありません。


アーガス自体はギリシャ神話に登場する巨人ですが、このアルバムの曲には登場しません。

アルバムのジャケットといい、後半の数曲といい、どちらかといえば中世の叙事詩を思わせます。

 

ちなみにダース・ベーダー似の後ろ姿のジャケットはヒプノシスの作。

『アーガス』のアートワークをえらく気に入ったジミー・ペイジが『聖なる館』にヒプノシスを起用したという逸話があります。

 

このアルバムの参加メンバーはギターのアンディとテッドの他に、ほとんどすべての曲の作詞者でリード・ヴォーカルとベースを担当するマーティン・ターナー(テッドとは血縁はない)とドラムのティーヴ・アプトン

「時は昔(Time Was)」

恋を失った男が生き方を見直さなければ、とぼやいているような内容の一曲目。

アコギの美しいアルペジオとコーラスにイギリスの草原で風に吹かれるような爽快感。
英国フォークの前半から後半はアップビートのロックに突入。

アンディ・パウエルのギター・ソロがこれでもかというぐらい冴えわたります。
動き回るマーティンのベースがギターに絡んでいくのも粋。

ライナー・ノーツにはパウエルがザ・フーの演奏に参加した時期があったため、初期のザ・フーの雰囲気が入っている、と書いてありますが、そう言われればそうなのかなという感じです。

「いつか世界は(Sometime World)」

世の中から忘れられた人間が、同じような人間に出会うという内容の歌詞。

ここでもパウエルの美しい音色のリードが聞かれますが、何と言っても圧巻なのは中盤に二台のギターがリズムを刻む間に始まるベースのソロ

縦横無尽に動き回るベース、そこに絡んで入ってくるギター。

個人的に躍動感のあるベースが好きなので、ここのソロは何度聞いても楽しい。
アプトンの洒脱なドラミング、そして3−4名のコーラスの美しさも特筆に値します。


ブローイン・フリー(Blowin' Free)

マーティン・ターナースウェーデン人の元恋人のことを歌った歌で、長い金髪がトウモロコシ畑のように風に揺れる様をBlowing Freeと表現しています。

手に入ったと思ったのに遠くにいる彼女は「You can try」とからかうような態度。

「Ash Anthem」と呼ばれ、ファンの間ではアッシュの代表曲として国歌扱いされるぐらい有名ですが、曲調は60年代のポップスを思わせます。

一度耳についたら離れず一緒に歌いたくなる楽しげなハーモニーとテッド・ターナーのスライド・ギターの魅力に異論はありませんが、個人的には同じシャッフルならおまけトラックに入っている「ジェイル・ベイト」の方が好きかも、です。

 


Wishbone Ash - Blowin' Free - 1973


ザ・キング・ウィル・カム(The King Will Come)

ここの「王」はイエス・キリストのことで、キリストの再臨とこの世の終わりの審判の様子が描かれています。炎の中、ラッパと太鼓の音と共に王が来たり裁きの日が訪れる。

昼と夜がチェス盤のように交互に現れ、人は滅び、人は救われる。
天は落ち、地はただ祈るのみ。

ヨハネの黙示録のようなおどろおどろしい歌詞ですが、曲調は英国のトラッド風で吟遊詩人が叙事詩を物語っているような印象があります。

テッド・ターナーディストーションのかかったギターソロの表現力は凄まじくミケランジェロのシスティナ聖堂の天井画をギター一本で表現していると言っても過言ではありません(というのは冗談です)。

重厚かつ歯切れのいいドラミングも心地よく、好きな曲です。


続く「木の葉と小川(Leaf and Stream)」はアコギとエレキによる英国フォークの美しい曲。ギターで出しているのか所々にフルートに聞き紛う音が入っている。


こうした小品に至るまで、このアルバムはよく出来ている。


「戦士(Warrior)」と「剣を捨てろ(Through Down the Sword)」

このアルバムのクライマックスは終盤の2曲。

虐げられた村の者たちが敵に隷属するよりも、鋤を剣に替えて戦士となろうという「戦士」

アンディ・パウエルのギターが憂いを込めて哭きまくっています。

そして敗者も勝者もいない長い戦いを終えて疲弊した戦士が、何かの答を得るために死の淵に立った自分を回顧している「剣を捨てろ」

2台のギターがハモリながら始まって、やがてツインの絡みに突入

何、これ。
あまりのすごさに言葉を失い、ただただ圧倒されます。

例えていうならば、太古の森で2頭の美しい竜がこの世の終わりを憂いて呼応しながら鳴きあっているかのようで。

何度聞いてもこれはすごい。
曲が終わっても溜め息しか出ません。


Youtubeにライヴ映像がありましたが、敢えて貼りません。
これは本当にスタジオ録音でじっくり聞いて欲しいです。

圧巻です


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ボーナス・トラックは「Jail Bait」「巡礼」(ともに『巡礼の旅』収録)、「フェニックス」(『Wishbone Ash』収録)のライブ盤。

どれも素晴らしいのですが、「剣を捨てろ」の感動の余韻にしばらく酔っていたい、という気分からするとリマスターじゃない方がよいかもしれません。

とはいえ、やはり好きな「ジェイル・ベイト」のリンクを貼ってしまいます。

アルバム・ジャケにはヴォーカルはマーティンと書いてありますが、どの映像でのテッド・ターナーが 歌っています。


Wishbone Ash - Jail Bait - 1971