ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

ジャケ買いのQuicksilver Messenger Serviceの「ホワット・アバウト・ミー」

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イックシルヴァー・メッセンジャー・サービス(QMS)というバンドについては、殆ど何も知りませんでした。

名前ぐらいは聞いたことがあるものの、どんな音楽をやっているのかも知らないまま、近所の中古書店のLPビニール盤コーナーで、このジャケットを見た瞬間、これは「買い」と判断しました。実際にはそのあとCDをオンラインで購入したのですが。

「あの時代」にしかあり得ないイラスト、デフォルメされたサンフランシスコの街並み。

私的にはトップ・キーボーディストの5傑には入るであろうニッキー・ホプキンスが参加しているとなれば、聴かないわけにはいきません。

もっともニッキーはこのアルバム収録中にQMSから離れたようで10曲中6曲のみの参加になっています。

 

QMSの音楽はサイケデリック・ロックと位置付けられ、知名度こそジェファーソン・エアプレーンやグレートフル・デッドに及ばないものの、当時のサンフランシスコ近辺のミュージック・シーンをもっとも端的に体現したバンド、とのこと。

 

当時の主要メンバーは創始メンバーのデイヴィッド・フライバーグ(b)、ゲイリー・ダンカン(g)、ジョン・シポリナ(g、percussion)、グレッグ・エルモア(d)、ジェシー・ファローの別名義で大半の曲の作詞作曲を手がけバンドの曲作りの中心であったディノ・ヴァレンティ(vo、g、percussion)。

 

ニッキー・ホプキンスは1969年のShady Love、1970年のJust for Loveとバンド5作目になるこの「What about Me」に参加し、彼がハワイでの収録中に抜けた後のキーボードはマーク・ナフタリンが担当しています。

 

ホワット・アバウト・ミー(What About Me)

第1曲目の表題作は、ヴェトナム戦争当時らしいプロテスト・ソングです。

あなたは水を汚染し、緑の木を伐り、子供達はあなたが与えた食物で病気になる。
私はあなたの工場で働き、あなたの学校で学び、刑務所に収容され、あなたの軍隊にも入った。

「あなたは私に何をしてくれるんだ(What you gonna do abut me?)」というリフレインの「You」はおそらく政府、ニクソン政権でしょう。

 

J. F. ケネディの就任演説に「国があなたに何をできるかではなく、あなたが国に対して何ができるかを考えてください。」という有名な一文がありますが、この歌詞はそれに対する皮肉な返礼のように思えます。

 

すっと入ってくるメロディが悪くないですが、録音のせいかハーモニーの部分が綺麗でないのが少々気になります。

ブラス隊も頑張っているし、所々に入っているギター、サックスのフレーズもいいけど、何といっても華を添えているのはフルートで、シリアスなプロテスト・ソングを可憐なフルートの音色のが彩っているのが不思議な調和をもたらしています。

 


What About Me?--Quicksilver Messanger Service

 

ウォント・キル・ミー(Won”t Kill Me)

4曲目。南部のブルースのようなギター・イントロからディキシーランド・ジャズのような展開。

ニッキー・ホプキンスのピアノが冴えています。
この手のラグタイム系にかけてはこの人のピアノは逸品です。

 

長い髪のレディ(Long Haired Lady)


5曲目。これも作詞作曲はジェシー・ファローことディーノ。

生粋のアメリカ人ですが、アメリカというより英国風のフォーク。
美しい曲です。

想像の中をかける幻想的なユニコーンだとか、長い髪の乙女(maiden)だとか、「暗く冷たい海辺に我は佇む。わが船はそなた(thee) への贈り物を積めり」などと古典的な詞の題材や言い回しも旋律もイギリス風。

 


Quicksilver Messenger Service - Long Haired Lady

 

スピンドリフター(Spindrifter)

7曲目はニッキー・ホプキンス作のインストゥルメンタル
高音が葉にきらめく朝露のようにコロコロと美しいのに、低音が歪んで聞こえて気になります。
このアルバムのリマスター版が出ているのかは不明ですが、改善されているといいのですが。

オール・イン・マイ・マインド(All in My Mind)

耳に心地よいジャズ・ナンバーです。
ニッキーのピアノ・ソロもシポリナかダンカン(どちらか不明)のギターソロもいいですが、フライバーグのベースの動きが魅力的で、時にウッドベースのような音を出しています。
コンガとおそらくギロだと思われる打楽器が添えているボサノバ風のテイストも気持ちいい。


コール・オン・ミー(Call on Me)

最後の「コール・オン・ミー」はメロディアスなバラードの部分とファンキーな部分で構成されている曲。

ブラスもパーカッションも総力全開で迫力満点です。(というかミキサーさん、パーカッションの音がちょっと大きすぎ)

ベースもいいし、ワウファズ効かせたギター、ナフタリン氏のピアノもいい。

 

ファンキーなセクションはタワー・オブ・パワー!という印象です。

ディーノのヴォーカルはファンキーな曲に案外合っています。
スタジオのコーラスはメンバーがやっているようですが、ステージなら黒人女性3人のコーラス隊あたりが後ろでリズムを取りながら歌ってそうな感じです。
コーラスとブラスの録音がもう少しクリアならもっと良いのに…残念。


終わりに

偶然に見つけたアルバムでしたがニッキー・ホプキンスを別にしても結構楽しめます。
もちろんニッキーのピアノが同アルバムの魅力の一つであることは間違い無いですが。

前作のJust For Loveも聞いてみようかという気になってきました。