ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックをひたすら聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く

ジェネシス『フォックス・トロット』が今年のトリです

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今晩は。ヴァーチャル・パブのロンドンきつね亭です。

ジェネシスはずっと食わず嫌いできたバンドでした。

曲の構成も詞も面倒そうだったのに加え、70年代のピーター・ガブリエルの可愛くなくなったエリマキトカゲみたいなステージ・メイクと衣装がグロテスクで好きになれなかったのですね。

ですが、きつね亭の表看板をに図柄を無断借用させていただいている以上、無視も出来ません。というわけで今回は『Foxtrot (フォックス・トロット)』でいってみます。

内容に入る前にこのジャケットの図柄ですが、表紙はマダム然としたキツネが流氷だか岩だかの上で余裕のポーズを取っていますが、裏面では岸辺にキツネを追いつめた狐狩りの貴族らしき数人が猟犬とともに描かれています。

 

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一人はなぜか白いハンカチで涙をぬぐっています。その隣の騎乗の二人はどうみても人間ではない。一人はサルのような耳の異形で、もう一人は緑色の顔をした宇宙人らしき面相です。

奇妙な面白いイラストですが、ジェネシスのメンバーからは自分たちの音楽に合わない、絵にプロの技巧を感じないなどと至極評判が悪かったようです。

今日はフォックス・トロットという名のカクテルで、弊店のはレモン・ジュースとオレンジ・リキュールが入ります。

「Watcher of the Skies (ワッチャー・オブ・ザ・スカイズ)」

パイプ・オルガンにも似たメロトロンの荘厳で一種悲壮感のある音のイントロがしばし続いた後に、オルガン、ベース、さらにドラムがタカタ、タッタッタ、タカタ。タッタとスタッカートのリズムを刻み始めるモールス信号だと言う人もいます。

最初からえらい密度の高い曲です。やがてベースとリズムギターにモールス信号をまかせてドラムが違うリズムを叩き始めている。ポリリズムというのですか、なるほど。

めちゃめちゃ威圧感のある曲なのだけどそれぞれの楽器の音がとても美しい。フィル・コリンズのドラム、難易度の高いことしてると思うけど音が軽妙洒脱で綺麗です。ギターの入り方もネックをグワーと擦り上げるところもカッコいい。

歌詞は人類が滅亡したあとの地球を訪れる宇宙人の視点で描いています。「おそらくトカゲは尻尾を切ったのだ」という歌詞は「地球が存続のために人類を切り捨てた」という意味でしょう。

「空を見つめる者」は人ではなく地球外生命。

とするとあのモールス信号の拍子は人間が最後に放ったSOSを暗示していたとか。

YouTubeで当時のコンサートを見ると、宇宙人を演じるピーター・ガブリエルが頭の横にコウモリの羽根(これじゃ宇宙人じゃなくて悪魔だ)をつけています。途中でタンバリンをお面の代わりに顔に当てて妙なパントマイム。

意外に愛嬌があります。強烈なインパクトのある曲なので多くのコンサートの第1曲目として演じられたというのも納得できます。

「Time Table (タイム・テーブル)」

地球外生命の視点だった前曲に続き、この曲の主役は長い年月を経て歴史を見てきたオーク材のテーブル。

昔々、王と王妃が黄金のゴブレットで葡萄酒を飲み、勇者は貴婦人を涼しげな木陰に誘い‥武勇が尊ばれ伝説が生まれ、栄誉が命よりも重んじられていた頃、とキャメロット的な世界が語られる一方、サビの部分では何故我々人間っていうのは死ぬまで分らないんだろうね、時代は移ってもやっていることは同じ、自分たちの戦いがいつも崇高だと信じているなんて、と人間の愚かさを自嘲的に歌っています。

トニー・バンクスのピアノを中心に展開する心地いいメロディ。途中ベースの高音がキーボードと美しく絡んでいる箇所があるんですが、このチリチリというキーボードが何なのか分らない。

ネットで調べてみたらやはり「分らない」という投稿がいくつかあって、中には「トイ・ピアノ」を使っているんじゃないかなどという意見も。
多くの人が「これはピアノの中の弦をギターのピックで弾いている音だよ」と回答していて、おそらくその辺りかもしれません。演奏者による真相解明はなされていないらしいです。

続く3曲目の「Get'em out by Friday(ゲッテム・アウト・バイ・フライデイ)」はピーター・ガブリエルが1人3役の声色を使い分けて、賃貸集合住宅を買収して店子を追い出したい企業家、追い出しを請け負っている業者(Winkler)、当惑している借家人の夫人を演じています。巻き舌で借家人に迫っているウィンクラーのアクの強さに笑える。ステージで見たらガブリエルの表情の七変化もみられてさぞ面白いでしょう。この曲はオルガンも秀逸、ドラムのリズムも凄い。

「Can-Utility and the Coastliners (キャン・ユーティリティ・アンド・ザ・コーストライナーズ)」

12弦ギターのアルペジオで始まる美しい曲。
メロトロンが奏でる弦と笛の透明感、中盤以降のオルガン・ソロが何ともいいです。
途中でフィンガー・シンバルの可愛らしい音が入っています。

11世紀初めにデンマークイングランドノルウェーを束ねた北海帝国の王、デーン人のクヌート大王の故事がテーマになっています。

クヌート王はある時玉座を海辺に置いて、打ち寄せる波に向かって「退け。我の足も衣も濡らすな」と命じました。もちろん波は王様の命令など知ったことじゃありませんからどんどん打ち寄せて来ます。
王様は波から飛び退いて、臣下に向かって「見ただろう、王の権力なんてどれほどの物でもない。天、地、海を従わせる神だけが永遠の権威なのだ」と言ったそうです(参照Wikipedia)。配下の国々にただ追従する愚かさを教えようとしたエピソードとして知られます。

表題のCAN-UTILITYはCANUTE大王の名前の綴りと現代のユティリティ(公共事業)をもじっていますが、現代のビジネスとの関連性は不明です。

 

ピーター・ガブリエルのアクの強いヴォーカルに少々お腹いっぱい、というタイミングでスティーブ・ハケットのアコギ曲「Horizons(ホライゾンズ)」が入ります。
エスの「ムード・フォー・ザ・デイ」のようなスパニッシュ・ギターのテク見せまっせ、の曲ではなく、懐かしく緩やかで、次に控える大作「サパーズ・レディ」を前にした箸休めのような曲ですね。

「Supper's Ready (サパーズ・レディ)」

一言で感想を言うと、これは圧巻です。
7つのパートに分かれた23分の組曲ですが、何度聴いてもよいというか、聴けば聴くほど味わい深い。

最初は久しぶりに会ったカップルの奇妙な違和感から、農民とエセ科学宗教家との小競り合い、ヨハネの黙示録ウィリアム・ブレークのニュー・エルサレムのような世界と曲のテーマが途方もなく広がる一方で、第1章と最終章に繰り返されるメロディは耳になじみやすく全体を綺麗にまとめるのに成功しています。

印象に残るのは、まず第1章目「ラバーズ・リープ」の終盤です。ガブリエルのボーカルが終った後、ハケット、バンクス、ラザフォードの12弦ギターのアルペジオが続く中、エレクトリック・ピアノとコーラスが入ってくる。
どこか中世の村をイメージするようなフォークの調べが、川のせせらぎのようでもあり、精巧な細工のようでもあり、何とも繊細な美しさです。

第4章の終盤でナルキッソスが花(水仙)に変えられてしまった、というギリシャ神話の一説が歌われ、ガブリエルが「花(Flower)?!」とう台詞とともに花の被りものを付けて出てくる。

そこから始まる舞台喜劇のような章「ウィロー・ファーム」のヴォーカルは達者につきます。「チャーチルがドラッグの格好をして」という部分には苦笑ですが、次から次へと繰り広げられる連想ゲームのような言葉遊びの文学性、表情豊かな歌唱は舞台芸術としても第一級といえるのではないでしょうか。ガブリエルは当初苦手意識があったのに、いつのまにか憎めない印象になってきて度々笑わせられたり。

しかし何と言ってもインパクトがあるのはそれに続く「アポカリプス9/8」という章。タイトル通り8分の9拍子でリズム・セクションが入っていますが、ここのフィル・コリンズのドラミングとバスドラの音がすさまじい。

そこに入るオルガンソロ。トニー・バンクスはこの部分はキース・エマーソンのパロディで作った、と言っていますが、そこは今ひとつぴんときません。
リズム・セクションの力強さとオルガンのコンビネーション、はじめ4分の4拍子で繰り返すキーボードのフレーズは東洋風の響きもあり、石棺から兵馬俑が出て来て行進を始めそうな、そんな迫力です。

 


Genesis - Melody '74 Live - Supper's Ready (1st Gen. Copy) Remastered

まとめ

ピーター・ガブリエル時代のジェネシス、面白い。面白すぎる。
人類滅亡後の地球から、王侯貴族の集う大広間、北海帝国の海辺、農民とエセ科学宗教家との争いへと視聴者を誘うイマジネーションの幅にも、それを支える演奏技術の確かさにも感服。

とくにバンクスのキーボードとコリンズのドラムが。そしてガブリエルのドタバタと被り物をかぶりながら演じている芸人のような茶目っ気と曲にぴったりあったヴォーカルにも。

繰り返し聴きたい密度の濃いアルバムでした。

さて暮れも押し迫りました。

皆様どうぞよいお年をお迎えください。
2018年もロンドンきつね亭にご来店をお待ち申し上げております。