ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

キャラバンの『夜ごと太る女のために』

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キャラバン『ピンクとグレー』が良かったけど、次に何を聞けばいい?」と周りのロック好きに聞いたところ、二人からお勧めとして挙がったのが『夜ごと太る女のために』でした。

 

『To Girls Who Grow Plump in the Night』(原題は「女」というより「娘たち」ですが)は1973年の作品。

このアルバム制作の前にマッチング・モールに行っていたデイヴ・シンクレアの代わりに一時入っていたキーボードのティーヴ・ミラーが脱け、さらにベースとメインヴォーカルを担当していたリチャード・シンクレアパイ・ヘイスティングスと音楽の方向性で対立して辞めています。

 

アルバム参加メンバーはパイ・ヘイスティングス(g、v)、リチャード・コフラン(d、percussion)、ジョン・ペリー(b、v)、ピーター・ジェフリー・リチャードソン(viola)、そして戻ってきたデイヴ・シンクレア(kb)です。

モリー・レイン・ヒュー/ヘッドロス(Memory Lain, Hugh/Headloss)

このアルバムからシングル・カットした曲はないようですが、第1曲目はかりにシングル化しても売れたであろうポップス調のノリのいい曲。

ギター・リフの後のドスドスというベース音は、トーキングヘッズサイコキラーのベースを思わせる心地よさ。

やがてヴォーカルとヴィオラが同時に入ってくる。

ヴィオラが正式メンバーってどうなの?という疑念を吹き飛ばす絶妙なフィット感で、第2のヴォーカルというか、それを超えるというか。

中盤のベースの高音部も好きだが、何と言っても中盤以降の聞きどころはパイの兄ジミー・ヘイスティングスフルート・ソロ。心を洗われるような美しさです。

ヴォーカルのハモリも綺麗だし、ギターとキーボードの掛け合いも楽しい。
サックス、コンガなど聴くたびに新たな発見があり毎回堪能できる楽しく面白い曲です。

 

2曲目の『ホーダウン(Hoedown)』はコンガのリズムも軽やかにアップテンポのヴォーカルがハモリながら進行していくフォークロック調の曲。
途中からヴィオラがカントリー風のフィドリングをやっているのが面白い。


3曲目「サプライズ・サプライズ」は意のままにならないもどかしい恋を歌った曲ですが、レゲエ風のリズムに甘いメロディ。

パイの甘いヴォーカルも悪くないのですが、これはリチャード・シンクレアの声でやってほしかった。
それにしても何と洒脱なベースでしょう。
ジョン・ペリー、センスがいいなー。

後半ヴィオラの存在感ありですが、ピアノも効いています。

4曲目「C’Thlu Thlu (シースルー・スルー)」。

ラヴクロフト怪奇小説に出てくるモンスターから題名を取っており、歌詞も何やらおぞましい存在から必死で逃げている悪夢のような内容です。

シンセサイザーが、森の中を飛び交っている人魂(ひとだま)を思わせる背筋の凍るような音を出しています。

ダークで重いパートとアップテンポのハードロックが交互に現れる構成で、終盤近くでデイヴ・シンクレアの絶妙なオルガン・ソロにたどり着きます。

「ドッグ・ドッグ(The Dog, the Dog, He's at It Again)」

1曲目の「メモリー・レイン」と並んで人気のある曲です。

この曲の魅力は、これぞキャラバンというデイヴ・シンクレアシンセサイザーの妙技の凄さを見せる中間部分と、それをサンドイッチのように挟むメロディアスなソフトロック調の部分でしょう。

「ねえ、あんただってこの世が罪にまみれてるなんて本気で信じちゃいないだろ。
でなきゃここに来てやしないもんなあ。(この程度のことを罪だと思うほど、世間知らずじゃないんだろ)」

という色事師(わる)が誘惑しているような、デカダンスの匂いがする歌詞ですがパイはあくまでも淡々とソフトに歌っています。ジョン・ペリーとのハモも実に綺麗。

ヴィオラが彩りを添えています。

中間のデイヴのソロ部分は何度聞いても飽きません。
デイヴのシンセサイザーも凄いけど、ベースも凄いし、ヴィオラも。
全員が神がかった演奏です。

貼付したBBCのプロモ・テープでは聞かれないのですが、後半で複数のヴォーカル・パートがどんどん重なっていく部分に引き込まれて中毒になりそうな魅力があります。

プロモではオルガンを弾くデイヴの手さばき、一見の価値があります。

聴き終わって、これはすごいなとため息が出る曲です。

 


Caravan - The Dog, The Dog, He's At It Again [1973] (Promotional Film)


6曲目の「Be Alright」はプロペラ飛行機の飛来音で始まるハードロックで、ベーシストのジョン・ペリーがヴォーカルを担当。ギターのソロがいい。


続いて演奏される「Chance of a Lifetime」はアンニュイな曲でパイのヴォーカル。ヴィオラのソロが注目です。

「イノシシの館~狩へ行こう~ペンゴラ~バックワース~狩へ行こう」
(L’Auberge du Sanglier/A Hunting We Shall go/ Pengola/ Backwards/Hunting We Shall Go(reprise)」

最後の目玉はインストゥルメンタル曲。

このアルバムで最もプログレらしい曲です。

「イノシシの館」アコースティック・ギターヴィオラシンセサイザーで出しているらしいストリングスの音がかぶさって異国情緒の入ったブリティシュ・フォーク。

爆音とともにハードロックの「狩へ行こう」に変わり、ペンゴラ」に入ってからはオルガン・ソロ、ベース・ソロ、ギター・ソロ、ヴィオラ・ソロと次から次へ聞きどころが入っていきます。ベースのソロ分で後ろでヴィオラトレモロをやっているのがいい感じです。

シンセサイザーとピアノで幻想的な旋律を奏でるバックワーズ」は、オーケストラが入って壮大な背景の中シンセサイザーのソロが入る。ここでもベースが実にいいセンスです

 


Caravan - 07 - L'Auberge Du Sanglier / A Hunting We Shall Go / Pengola / Backwards / A Hunting....

 

5曲入っているボーナス・トラックの中で好きなのは「Delek's Long Thing」という最後の曲で、ピアノにベース、さらにシンセサイザーとドラムが入っていく冒頭部分、ジャズに入ってファズの効いたオルガンが冴える中盤、終盤のオルガンソロまで11分と名前通りに長いけれどいい曲です。

 

ジャズ系の音楽を指向していたリチャード・シンクレアと別れ、広範囲に売れる曲を目指したパイ・ヘイスティングスのキャラバンはデイヴ・シンクレアの出戻りとリチャードソンヴィオラとの出会いが功を奏したと言えるでしょう。

個人的な好みを言えば、もう少しジャズがかっても良かった気もします。