ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

サンタナの『キャラバン・サライ』は壮大な交響詩

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今晩は、ロンドンVixenです。
今回はサンタナの4枚目『キャラバン・サライ(1972)で行ってみます。

当時サンタナの音楽はメガ・ヒット曲の「ブラック・マジック・ウーマン」「俺のリズムを聞いとくれ(Oye Como Va)」、「君に捧げるサンバ」などは聴いていたものの、アルバムを買ったのはこの『キャラバン・サライ』のみで、たぶんにジャケ買だった感があります。

 

砂漠の夕陽の中を進む隊商の駱駝。

異国情緒あふれる幻想的な写真もさることながら、ラテンの印象の強いサンタナがなぜキャラバン?というイメージのミスマッチが面白い。

「復活した永遠なるキャラバン(Eternal Caravan of Reincarnation)」

コオロギがすだく音と尺八のようなサックスの響きで始まる有名なイントロ。
原題を見る限り、当時のミュージシャンの例にもれずインド宗教に関心を寄せていたサンタナが輪廻転生を脈々と連なる隊商の列に例えているように思います。
ラクダの歩みのように単調なリズムを黙々と刻むウッドベース、鈴のようなシャラシャラというパーカッションの音、キラキラと入ってくるジャズ・ギターの音色と共に満天の星空の下をキャラバンと共に歩んでいくような幻想に浸れます。

「躍動(Waves Within)」

コンガとティンバレスを背景にダグラス・ローチ、ダグラス・ロドリゲス、カルロス・サンタナの3本のギター。

カルロス・サンタナのソロは切なく美しく、ブルースのヴォーカルを聞いているようです。内に秘めた情熱が抑えきれずほとばしり出る様はまさにWaves Withinの曲題にふさわしい。

ドラマーのマイク・シュリーヴはサンタナの初期の7枚に参加しているラテン・ジャズ系のドラマーですがこのアルバム時は23歳の若さ。パーカッションのホセ・チュピート・アリアス、ジェームズ・ミンゴ・ルイスと共にシンコペの効いたリズムを一糸乱れず叩き出している技はさすがです。

続く宇宙への仰視(Look Up (To See What’s Coming Down))」はファンキーなノリのいい曲。
キーボードのグレッグ・ローリーカルロス・サンタナとの折り合いが悪くなったとかでこのアルバムは最後の参加ですが、このオルガン・ソロかなり好きです。

 

4曲目「栄光の夜明け (Just in Time to See the Sun)」はヴォーカルが入る小曲。このアルバムでヴォーカルが入るのは10曲のうち3曲。
夜明け(救済)を待ち望んで暗闇(罪)を彷徨っているような歌詞です。
カルロスのギターソロもファズがかったオルガンもいいし、ホセのティンバレス、ジェームズ・ミンゴのコンガ、マイク・シュリーヴのドラムがやはり素晴らしい。

風は歌う(Song of the Wind)

これは名曲中の名曲ではないでしょうか。
とにかくカルロス・サンタナのソロが圧巻。
神がかっているとしか言いようがありません。
聴いている方が居ずまいを正して聴かなければならないぐらいの迫力があります。

2016年のライブ画像を見るとソロの一部をニール・ショーンが弾いていますが、このアルバムのソロはサンタナの独演でしょう。(近年のライヴは楽しそうだけど凄さに欠けます)。


SANTANA, Song Of The Wind

 


6曲目の「宇宙への歓喜(All the Love of the Universe)」もヴォーカルの入った曲です。
新しい思考が心を浄化し、身体を清める。
宇宙への愛を生きとし生けるものと分かち合う。
明日のことはどうでもいい。
求めている答えを見つけるためには今日だけがあればいい。

太陽を求めて暗闇を歩いている4曲目から70年代初頭の精神世界と宇宙賛美、
「ビー・ヒア・ナウ」の考え方に行き着いたのでしょうか、非常に明るい曲です。

ウッドベースの存在感に存在感がありますが通常のエレキベースの動きもいい。
ドラム、コンガ、ティンバレスのリズム・セクションにカスタネットも加わり異国情緒があります。
ギター・ソロはもちろんオルガン・ソロも好きな曲です。

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7曲目の「フューチャー・プリミティヴ(融合)(Future Primitive)はホセとジェームズ・ミンゴによるパーカッションの曲でバックの効果音(オルガン?)にコンガ、ボンゴ、ティンバレスだけで演じられています。

ストーン・フラワー(Stone Flower)

エキゾチックなイントロに続き、ウッドベースとドラム、パーカッションが心地いいリズムを刻み始めます。
ストーン・フラワーもヴォーカルの入った曲で、アルバム中最も有名な曲です。

石の花に魅せられ歓喜の涙を流す。
この世は素晴らしい場所だ、という歌詞は6曲目に出てくる精神世界のようでもあり、LSDの体験によるものかもしれませんが、当時の思想はアシッドと結びついているのでどちらとも解釈できるでしょう。

このアルバム中最もラテンの色合いが強い曲ですが、オルガンのフレーズにサイケデリックなものを感じます。
ユーチューブでは73年の日本講演での「ストーン・フラワー」演奏の画像が出てますが、スタジオアルバムに比べて今ひとつのように思います。


Santana "Stone Flower"

 

「リズムの架け橋(La Fuente Del Ritmo)」

パーカッショニストのジェームズ・ミンゴ・ルイスの作だけあって、ドラム、ボンゴ、コンガ、ティンバレスウッドベースのリズム・セクションがとにかく圧倒的に凄い。

そこにサンタナのギターとニール・ショーンのギターが絡んで入ってくる。ハモったりユニゾンになったり。

イントロから入っているピアノ、途中で入ってくるエレピのソロ、オルガンのソロ、すべての楽器が一糸乱れず(しつこく同じ表現ですが)イントロから終盤まで突き進む。
凄いです。

果てしなき道(Every Step of the Way)

心地いいキャラバンサライ(隊商宿)から、ウッドベースとパーカッションのリズムで砂漠の道に引き戻されたような気分。

ドラムは全体の調和を乱すことなく変拍子をガンガン入れまくっている。
そしてギター・ソロはやはり凄い。

荘厳にして雄大、苛酷なサハラの景色を脳内に浮かび上がらせます。
途中なぜか人間の叫びのような声が聞こえ、続いてフルートらしき音色、さらにオーケストラ。この後のギターもひたすら凄い。
壮大なキャラバンのエンディングにふさわしい曲です。

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おまけ(キャラバン・サライとは)

『キャラバン・サライ』久々に全体を通して聴いてみましたが、何かこう何処か異次元に行って戻ってきたような、メディテーションから覚醒したような不思議な感覚があります。
ラテン、ジャズ、ロック、フュージョンによる壮大なスケールの交響詩というか。
これはもはやプログレと呼んでも非難はされないでしょう。

さてキャラバン・サライとはペルシャ語で隊商宿のこと。

ウィキペディアには隊商(カールヴァーン)の宿泊施設でバザールやスークに隣接して建てられていたとあります。

カンダハールイスファハンなど今や行くのが命がけの場所が、カリフがイスラム世界を治めていたころ羊毛、綿、絹、穀類、果物などのキャラバンの交易都市として栄えていたようですが、サライはこうした隊商が通る道筋の要所要所にあったのでしょう。

 

外見と内部はこんな感じ(写真はPixabay)

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