ロンドンきつね亭 私的ライナー・ノーツ

60年代後半から70年代の黄金期のロック名盤・名曲をひたすら聴く

キャラバン「グレイとピンクの地」でカンタベリー系にデビュー

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今晩は。ヴァーチャル・パブの倫敦きつね亭です。

なぜかご縁がなくて全く聴いていない音楽の領域というのがあって、カンタベリー系(The Cantebury Scene) というのがまさにそのジャンルでした。


プログレを真面目に聴いていなかったといえばそれまでですが、全くレーダーに引っかからなかったというのも不思議で、最近までカンタベリーといえばチョーサー、ぐらいしか連想できませんでした。


あ、一応英文学出身です。


売り方が地味なのか、これがアルバム・ジャケがイエスのようにロジャー・ディーンとか、ピンク・フロイドのようにヒプノシス辺りを採用していたら
ミーハーに飛びついていたような気もしますし‥。(後期キャラバンでヒプノシスをジャケに起用)

いえ、ひとえにプログレ不勉強の所為です。

 

という訳で、今回キャラバンの『In the Land of Grey and Pink(グレイとピンクの地)』でカンタベリー系ロックにデビューを飾りたいと思います。


まずこのアルバム・ジャケがトールキンの物語のようなメルヘンチックな柄で、フォークロア系のとっつき易い曲が多いのではないかと踏んだのですが、この読みは半分当たり、半分はずれました。

 

では聴いてみましょう。
今日は、第2曲目のタイトル「Winter Wine」にちなんで、秋から冬のジビエ料理にも合うマルベックはいかがでしょうか。

ポップスもバラードも全楽器が楽しい

聴き始めてすぐ頭をガーンと殴られたような衝撃‥‥はありません。


第1曲目「ゴルフ・ガール(Golf Girl)」と第3曲目「ラブ・トゥー・ラブ・ユー(Love to Love You (and tonight Pigs Will Fly))」は可愛らしいポップス調の曲です。


ゴルフ場の紅茶売りの女の子が可愛かったので3杯紅茶をお代わりしてたら雨が降ってきて二人で雨宿りをしてキスをした。何ですかこれは、という歌が第一曲から出て来て、微妙なガッカリ感が。


もっとも二度目に聴いてみてガッカリはすっかり解消されました。出てくる楽器出てくる楽器が楽しい。サックスあり、ピアノあり、ピッコロの高音の実に美しいソロが入り、オルガンのソロ。 チェレスタみたいな音も聞こえますが合成音?チャカポコいってるのはテンプル・ブロックみたいな打楽器なのでしょうか。


3曲目は何やらきわどい歌詞ですが、ノリのいい曲であのテンプル・ブロック(みたいに聞こえた)楽器が最初からリズムを取っています。この曲もフルートとピッコロが美しい。


どちらも妙にクセになる、しばらくすると又聴きたくなる不思議に楽しい曲です。

 

第2曲目の「ウィンター・ワイン(Winter Wine)」と第4曲目の表題作「グレイとピンクの地(In the Land of Grey and Pink)」は、これぞイギリスという安心感のある英国正統派フォークの流れを汲んだ作品です。


アコースティック・ギターの美しい調べから始まって、芳醇な美酒がもたらす幻想の世界をリチャード・シンクレアの声が吟遊詩人のように描きます。

1小節入るピアノのフレーズ、ギターと聞きまがうデイヴィッド・シンクレアのオルガンの圧倒的なソロ、「ベルがなって」という歌詞のところで入る鈴の可愛い音色、と聞き所は多いものの、この曲で圧巻なのは何と言ってもリチャード・シンクレアのベースライン。

このベースを聴けただけでこのアルバムを買ってよかったという気になれます。

第4曲目の「グレイとピンクの地」。

この曲もケルトを思わせる美しい旋律です。少し前に取り上げたストローブスの曲にも似ていて、デイヴ・カズンズもリチャード・シンクレアもこうしたバラードものに向いた声質です。

ピアノのソロが雨音のようで可憐です。

 

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シンクレアxシンクレアの圧倒的なパワー

アルバムのどの曲もリチャード・シンクレアの圧倒的なベースラインが支配していますが、圧巻なのは前述の「ウィンター・ワイン」、「グレイとピンクの地」と「9フィート・アンダーグラウンド」。


なんてセンスがいいベースなんだろうと。自分が学生だったら必ずコピーしてみたくなるベースラインです。


昔のライブの画像を見たら、このベースを弾きながらボーカル部分を歌っているんですね。Wow! きつね亭が選ぶベーシスト10傑(まだ選んでいませんが)に必ずランクインされると思います。

 

リチャードのベースと双璧をなすのが従兄のデイヴィッド・シンクレアのキーボード。キーボードが弱い、あるいは存在しないプログレ・バンドというのも考えつきませんが、この人はすごい。


シンセサイザーやメロトロンも使っていますが、何といってもオルガンのソロ、ピアノ・ソロがカッコよすぎます。


キーボードに明るくないのでハモンドとの違いが分かりませんが、オルガン・ソロの部分はFarfisa社のオルガンに目一杯ファズを効かせているのでエレキ・ギターに似た音になっているとか。


自分がギタリストだったら泣きたくなりますよね。ちょっと、そこ俺がソロやる場所だろ!」って。


ロック史のなかで、なぜこの人がキース・エマーソンリック・ウェイクマンと並んでメジャーじゃないのか。 いや、単に自分が知らなかっただけなのかもしれませんが。

 

インプロヴィゼーションの魅力

最後の「9フィート・アンダーグラウンド」はジャズ・フュージョン系の20分以上におよぶ大作。


ベースとドラムスの下地の上に、オルガン、サックス、ギター、またオルガン、シンセサイザー、ボーカル、ピアノ、メロトロンが次々と登場する。

それぞれおそらく即興でやっている部分が多いのだと思うが、入り方、間合いが天才的に仕組まれています。


とくにオルガンとベースが絡む場面が何カ所もあるが後半のクライマックスは「いいもの聴かせていただきました」と御礼を言いたい気分です。


楽器のリストに「キャノン(大砲)」と載っていたけれど、大砲の音入っていましたっけ? 


「9フィート・アンダーグラウンド」の意味が分からないけれど、ふつう「6フィート・アンダー」というと6フィート掘られた穴に葬られた棺に入っている(つまり死んでいる)ことなので、9フィートはそれより深いけれど同じ意味で死者の立場から現世に遺した女性を思って歌っている歌なのか?歌詞が抽象的なのでこの部分は分かりません。

 

最後に

密度の高いアルバムで聴き終えると心地よい疲労感があります。
とくに最後の「9フィート・アンダーグラウンド」は23分弱の曲だけど、徹頭徹尾テンションが高いので飽きることがありません。


初めてのカンタベリー系ロック、楽しい経験でした。