ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

夏だ!祭りだ!『ウッドストック』その 2ーCCR、ジャニス、ザ・フー

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今晩は、ロンドンVixenです。

先週に続き今回はウッドストック・ボックスの2枚目です。

1969年8月に開かれた「愛と平和の祭典」ウッドストックの音楽フェスは40万人の若者を集めた一大イベントで会ったことは先週お伝えした通りです。

今回2枚目の出演者は
キャンド・ヒート
CCR
ジャニス・ジョプリン
スライ&ファミリー・ストーン
ザ・フー
なかなか豪華な顔ぶれです。

キャンド・ヒート(Canned Heat)

キャンド・ヒートはアメリカのブルース・ロックバンドで、ウッドストックの参加メンバーは
ボブ・ハイト(v)、アラン・ウィルソン(g、harmonica、v)、ハーヴェイ・マンデル(lg)、ラリー・テイラー(b)、アドルフォ・ド・ラ・パラ(d)

2日目の夕刻、ヤスガー農場が夕陽に染まる中ヘリコプターで会場に駆けつけました。

開口一番「Oh My Goodness 」と言っているので聴衆の巨大な規模に仰天したのでしょう。

「Leaving This Town」は、ゴテゴテのブルース・ロックバンドというイメージを裏切らない曲です。

ズッタ、ズッタというブルース系の重いシャッフルは文句なしに好きです。

ギターのソロが泥臭いところもたまらなくいい。

「Going Up the Country」はのちにシングル・カットされた短い曲。

ブルース・ミュージシャンのヘンリー・トーマスの曲のカバーです。

「さあお前、早く荷物をまとめろよ。今日出発するからね。
どこへ行くか分からないけど。アメリカだって出て行くかもしれない。
新しいゲームが始まっていて、俺はそれに参加したくないからね」
という反体制的な歌詞にアレンジされています。

2台のギターがビュンビュン飛ばしていて、リズムセクションも気合い入っています。
ドラムのシンバルのカンカンいう音が小気味いい。

CCRクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル

CCRの曲は私が中学ぐらいのときはラジオでもしょっ中かかっていました。
その頃ほんの一時期ギターを手にしたのですが、コード進行が単純な「雨を見たかい」プラウド・メアリー」などは格好の練習曲でした。

一番好きだったのは「コットン・フィールズ」だったりするのですが。

いかにもディープ・サウス(深南部)のバイユー・カントリーを思わせる曲の数々ですが、トムジョンフォガティ兄弟も他の二人もカリフォルニアの生まれ育ちなのが面白いですね。

 

「コモーション(Commotion)」グリーン・リヴァー(Green River)」は共にジョン・フォガティの作でのちにアルバム『グリーン・リヴァー』に収録されました。

特徴なギター・ソロで始まるコモーション」はアップビートの後ノリの曲で、都会の慌ただしい生活のストレスを歌っています。

「グリーン・リヴァー」CCRの代表的な曲の一つ。

昔懐かしい川の光景。ナマズに噛まれた丸太。ウシガエルの鳴き声。トンボ。月の光の下で踊る裸足の娘たち。

緑色に濁ったバイユー(米南部の川)やミシシッピ・デルタ、スペイン苔が垂れ下がる木々といった光景を想像できる歌ですが、モデルになったのはジョン・フォガティが子供の頃によく遊んだカリフォルニアの川べりとのこと。

久しぶりに聴きましたが、独特のギターのフレーズと訛ったような歌い方が忘れられない曲です。リズムは裸足の娘でなくても踊り出したくなります。

「ナインティ・ナイン・アンド・ア・ハーフ」ウィルソン・ピケットのカバーで「お前の愛が昼も夜も100%ほしい。Ninety-Nine and a Half (99.5%)じゃダメだ」と恋人にいっている曲。

ブルース・ナンバーですがあまりCCRらしくない曲です。

「I Put a Spell on You」ジェイ・ホーキンズのブルース・ナンバーのカバー。
ジョン・フォガティの歌唱力、ギター・ソロの魅力がいかんなく発揮されています。

 

CCRは1972年に解散。ジョン・フォガティスチュ・クック(b)ダグ・クリフォード(d)の音楽的見解の相違との事ですが、おそらくジョン・フォガティのワンマンバンドでやって行くのに嫌気がさしたのでしょう。

作詞・作曲、リード・ヴォーカル、リード・ギターをやっているフロントマンのジョンは我儘を通そうとする部分もあったでしょう。

現在アメリカでもツアーをやっているCCR(Creedence Clearwater Revisited) はスチュとダグが参加しているバンドです。

ジョンは現在もソロで活動。ジョンの兄トム・フォガティはしばらくソロ活動をやっていましたが、輸血によるHIV感染という不運にみまわれ、48歳で他界しています。’

CCRの出演箇所を網羅した47分の長い映像です。


Creedence Clearwater Revival (Live at Woodstock '69) FULL

 

ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)

前にも書きましたがジャニス・ジョプリンは女性シンガーとして私の中で不動の一位を占めています。

あくまでも独断ですがブルースを歌わせて彼女の右に出る女性ヴォーカルは皆無でしょう。

さてジャニスは日曜の午前2時からの出演でした。

このCDでは3曲のみの抜粋です。

「トライ(Try)」
バック・コーラスもブラス隊も入ったフル装備のバンドをバックに、ジャニスの声はまさに場を圧しています。本当にうまい。
ギターのカッティング・ワーク、ベースの動き、キーボードの入り方もいいです。

「ワーク・ミー・ロード(Work Me Lord)」
私はここで独り、誰にも愛されずに。
どんなに頑張ってもなぜか元の場所に引き戻されている毎日。
神よ、私がここにいることを忘れないで
どうか見捨てないでください。
という悲痛な歌詞を心の奥から絞り出すように歌っています。

「ボールとチェーン(Ball & Chain)」
のちにジャニス・ジョプリンの代表曲のひとつになった曲。
前曲と同じく打ちのめされて失意の底にいる人間の歌で、何をやって上手くいかない、ボールとチェーン(囚人をつないでおくような鉄の球と鎖)がいつも自分を引きずり落とすという歌。
後半、無伴奏で節をつけて語っているところが凄い。まさに鳥肌ものです。

ジャニスはこの日絶好調ではなかったようで、そのステージを見たザ・フーピート・タウンゼント

モントレーの彼女はよかったけど、今日は絶好調とは言えなかった。出演まで散々待たされてその間にヘロインをやっていたせいだろうね。だけど不調の時でさえ彼女は信じられないぐらい凄いよ」

と記しています。

ジャニス・ジョプリンウッドストックのわずか14ヶ月後、ジミ・ヘンドリックスの死の1ヶ月後、26歳でこの世を去っています。

ジャニスのウッドストック動画(出演箇所の抜粋)


Woodstock - 16/08/1969 - Janis Joplin

 

スライ&ザ・ファミリー・ストーン(Sly and the Family Stone)

スライ・ストーンとその一家はサンフランシスコ出身のバンドで、ウッドストックでは「Dance to the Music」を含む3曲のメドレーをやっています。
そういえば昔々ディスコで聞いたような。
好みのジャンルかというと微妙なので軽く飛ばします。

ザ・フーThe Who)

2枚目のラストはThe Who
ロック・オペラ『トミー』のラスト「俺たちはしないよ(We’re Not Gonna Take It)」からカットされた「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」です。

指導していた宗教団体の信者たちの造反にあって全てを失った三重苦の青年トミーの内なる叫び。「See me, feel me, touch me, heal me」の有名なリフレインで始まる美しい曲。ロジャー・ダルトリーのヴォーカルにタウンゼントの声が綺麗にハモっています。

ザ・フーは午前4時からの出演でこの「See Me, Feel Me」を演じている最中に、夜が明け太陽が昇ってきて会場に不思議な効果をもたらした、という逸話がウィキペディアにあります。このシーンはウッドストックの記録映画にも挿入されているらしい(憶えていません)。

いい曲ですが、個人的にザ・フーの楽しみはキース・ムーンのドラミングとエントウィッスルの自由闊達なベースなのです。

その点でこの曲以外にもう1曲楽器を生かした曲をCDに収録して欲しかった、ということでWoodstockで演じた同じく『トミー』スパークス(Sparks)」の画像を貼ってみました。

 


The Who - Sparks (Woodstock)

おまけ

ジャニスの「ミー・アンド・ボビー・マギー」をバックにウッドストックの会場の様子。会場の雰囲気が伺えます。

 


Bobby McGee ~ Janis Joplin ~ Woodstock '69

夏だ!祭りだ!『ウッドストック』第1回ー反戦フォークとマウンテン

 

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今晩は、ロンドンVixenです。

今でこそ一般的になっているロック・フェスですが、その元祖と言えばウッドストックモントレー・ポップ・フェスそしてイギリスのワイト島フェスあたりでしょう。

 

ウッドストックは1969年の8月15日から3日間、ニューヨーク州の農場に40万人の若者を集めた歴史的なイベントで、「愛と平和の祭典」として反戦、カウンター・カルチャー、ヒッピー文化という時代背景を体現したものでした。

 

1994年には25年目の節目として「Woodstock II」が開かれました。来年は50周年なのでまた大規模な音楽祭が開かれるのでしょう。

1999年に開かれた30周年のWoodstock IIIは暴力、放火、レイプなどが横行し、初回のハッピーな雰囲気とは程遠いものだったようです。

 

私は大昔、1969年ウッドストックの記録映画を観た記憶があります。
内容はほとんど忘れましたが、オープニングでCSN&Yの曲「Woodstock」をバックにステージの櫓(やぐら)を組み立てているシーン、ジミー・ヘンドリックスが演じたアメリカ国歌は強い印象に残っています。

 

ウッドストックといえば冒頭の写真がジャケになったアルバムが有名です。
私はこのジャケのレコードは持っていませんが、25周年記念のボックスを入手しました。(箱といっても4枚のCDと小冊子がついた簡素なものです)

今回から4回にわたってウッドストック特集としてCDを聞いていきたいと思います。

 

1枚目の参加アーティストは、
リッチー・ヘヴンズ

カントリー・ジョー・マクドナルド

ジョン・セバスチャン
ティム・ハーディン
メラニー
アーロ・ガスリー
ジョーン・バエズ
サンタナ
マウンテン

どういう編集の基準か、1枚目はフォークの大御所が集まっていますね。

2枚目からCCRジャニス・ジョプリンザ・フーテン・イヤーズ・アフター、ジェファーソン・エアプレインとロックの色彩が濃くなります。

反戦フォークと希望の世界

リッチー・ヘヴンズからジョーン・バエズまで、所々ベースやドラムは入るものの基本的にギター一本の弾き語り。

ベトナム反戦から理想の世界、日常のささやかな喜びなど、若さゆえのナイーヴさはあるものの当時の若者の「自由」と「平和」に対する熱い思いが溢れています。

ボックスの小冊子でも白人と黒人が抱き合っている写真がフィーチャーされていますが、今のPolitically Correctといった建て前以前に、音楽と平和を愛する者には人種など関係ない、という楽観的な理想世界(ある意味セサミ・ストリート的な)が展開されています。

そうした新しい価値観に眉をひそめたであろう当時のアメリカの親世代の保守的な世界観。親が反対しようが、親世代へのアンチ・テーゼを胸に40万人の若者は一路ウッドストックを目指します。

それは当時の彼らにとって生まれ変わるような経験だったに違いありません。

フォークの中で印象に残るのは、労働組合の活動家であったため殺人罪の嫌疑をかけられ証拠が不十分なまま処刑されたスェーデン系移民「ジョー・ヒル」を歌ったジョーン・バエズの歌。

社会運動的なテーマは今の時代にはそぐわないかもしれないけど、バエズの伸びのある声が不条理な死と不屈の希望を美しく歌っています。

一方(と比べるのも何ですが)、がっかりなのはメラニー
ミキシングのせいもありますが、声もいま一つ、音程も合っているのか外れているのかよく分からない。

マウンテン

ロックのファンにとって1枚目の目玉はマウンテン(Mountain)

「ブラッド・オブ・ザ・サン(Blood of the Sun)

「想像されたウェスタンのテーマ (Theme For an Imaginary Western)」でしょう。

マウンテンは何度かメンバーチェンジをしていますが、ウッドストックに出たのはレスリー・ウェスト(g)、フェリックス・パッパラルディ(b)、スティーヴ・ナイト(kb)、ノーマン(N.D) スマート(d)のメンバーです。


「ブラッド・オブ・ザ・サン」。
特徴的なギターのリフで始まるブルース系のハードロック。かなり好きです。
ギターとベースがユニゾンになったり、ギターのソロが入っている時のベースが面白い動きをしていたり、レスリーフェリックスのコンビネーションがすごくいい。

「想像されたウェスタンのテーマ」
オルガンで始まるメロディアスな曲。
後半のレスリーのギターが切なくて泣かせます。ああ、巧い。

ちなみにマウンテンにはウッドストックの会場である「ヤスガーの農場」を題に冠した「Yasgur's Farm」という曲があります。

これも良い曲ですが、残念ながらCDには収録されていません。

 

動く映像がなくて残念。


Mountain live at Woodstock, the real versions

 

フェリックスはいいベーシストでしたが聾唖(ろうあ)が理由でバンドを去り、42歳という若さで妻に拳銃で射殺されてしまいます。事故か事件かは不明なままであるといいます。

ちなみにレスリー・ウェストですが、巨体で有名だった彼は近年は痩せてちょい太めぐらいのいい感じの外見に変わっています。

 

次回は2枚目、キャンド・ヒート、ジャニス・ジョプリンCCRの登場です。

アメリカ国内の移動はファースト・クラスをお勧めする件

今晩は、ロンドンVixenです。

今回は音楽と関係ない話です。

先週ポール・ロジャーズとジェフ・ベックのコンサートを観に南カリフォルニアに行った話は前回書いた通りですが、行き帰りのフライトの待遇格差についてお話ししたいと思います。

 

今回はサンノゼからロサンゼルス(LAX)の往路がアラスカ航空のファースト・クラス、復路が同じくアラスカ航空のエコノミーでした。

何故往復で買わなかったの?という話ですが、元々行きは電車(アムトラック)で行こうと考えていたのです。ゆったり車窓を眺める旅も良いのではないかと。

が、切符を予約した後にアムトラックが直通ではなく、バス2回、電車1回の乗り継ぎまた乗り継ぎでおよそ12時間かかることを発見。

 

いくら何でもこれは疲れそう。と急遽電車をキャンセルしアラスカ航空のサイトからフライトを予約。ファースト・クラスとエコノミーがあまり値段が違わないので、思い切ってファースト・クラスに乗ることにしました。

 

座席は1A。最前列の一人掛け席というのも気に入りました。

 

さて当日、搭乗するとまずは各席に小さなペットボトルの水。

さらに1時間弱のフライトなのに機内サービスが。

「Ms XXX、本日はチーズとフルーツのプレートがございますが、お召し上がりになりますか?」と男性アテンダント

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流石にここまで豪華ではありませんが。

もちろんありがたく頂戴します。

「お飲み物は何にいたしましょう?」

この場合、白ワインやシャンパンもおしゃれですが、優雅なティータイムも悪くありません。

「紅茶は何がありますか?イングリッシュ・ブレクファストかダージリンはありますか?」と私。

「どちらもございませんが、アール・グレイかミント・ティーはいかがでしょう?」

 

やがてやってきた2種類のチーズとマスカット、イチゴ、リンゴが載ったチーズ・プレートとアール・グレイ。

眼下にカリフォルニアの赤茶けた砂漠の中に時折現れては消えるコバルト・ブルーの湖の幻想的な風景を眺めながら、上空のリッチなお茶タイムを過ごしました。

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こんな湖がいくつも砂漠の中に隠れている。

そして帰路。 もうチェックイン・カウンターの対応からして違います。

「え、荷物をチェックインするの?25ドルね。キャッシュ・オア・クレジット?」と畳み掛けるカウンターの女性。

 

ちょーっと待ってください。小さなスーツケースひとつチェックインするのに25ドル?

前の仕事ではアメリカ国内便も何度も使ったけど、荷物を預けてお金を請求された記憶はないし、ここ数年でお金を請求することになったのでしょうか。
往路では荷物を預けても料金を取られていません。

 

「え、25ドル?」と唖然としている私に、「嫌なら機内に持ち込んだらいいわ」とにべもない。

 

結局、搭乗間際になって「当機は満席のためキャビンに皆様方のお荷物が入りきらない可能性がございますので、通常25ドル請求するところ、本日特別タダでお荷物をお預かりできます」と言うアナウンスが流れ、無料で預けることができましたが。


機内ではお茶もコーヒーもスナック菓子も出ず、アテンダントさんが注いで回るお水のみ。


長々と何が言いたかったかと言うと、お値段とサービスが全く正比例していないということです。

往路ファースト・クラスが146ドル(約1万6千円)。
ゆったり空間の一人掛け。
チーズとフルーツ・プレートの優雅なお茶タイム。
作り物めいているものの、客室乗務員の目一杯のスマイル。
荷物のチェックインは当然無料。

 

復路エコノミーは126ドル(約1万3千9百円)
ギチギチではないが二人掛け。
サービスは水。
荷物のチェックインに25ドル取ろうというポリシー。

 

もちろん便によって値段が違うので単純比較はできません。

が、20ドルの差であってもファースト・クラスの客にはファースト・クラスのサービス、エコノミー客にはエコノミーのサービスを提供するエアライン。

たかが20ドル、されど20ドル。

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ちなみにアラスカ航空は結構評判がいいです。アメリカ国内では北米ヴァージンとコードシェアを始めたので顧客もますます増えるでしょう。

 

ポール・ロジャーズとジェフ・ベックのコンサートに行ってきました。

今晩は、ロンドンVixenです。

金曜日に南カリフォルニアのアーヴァイン(Irvine)までポール・ロジャーズジェフ・ベックが出演するコンサートに行ってまいりました。

LA郊外のトーランスからLA在住のロック友達の車に乗せていただき渋滞をくぐること約2時間、アーヴァインの郊外に砂漠を切り開いて作ったような野外演技場(Amphitheatre)にたどり着きました。

 

前座は女性歌手とギターの伴奏者の二人組。この女性シンガー自信がないのか謙虚なのか「皆さん、私の名前は聞いたことないでしょ。これからポールやジェフが出るけどまず私の歌を聞いてね」と二度も繰り返す。

たしかに熱唱なんだけどインパクトがあるかといえばかなり微妙。
今ひとつ華がないデボラ・ボーナムさん。

前座のステージも終盤になってから、またまた

「名前も知らない私の歌を聞いてくれてありがとう。えーと私の甥はドラムやっているんです」 

ここで苗字を思い出して「え、もしかして」と思った人は多いはず。
「彼ジェイソンのお父さんはレッド・ツェッペリンにいた人で‥。」

ご本人はジョン・ボーナムの年の離れた妹さんでした。

 

続いて登場したのはハートアン・ウィルソン
こちらはメチャクチャにパワフルで華がある。

私はハートの全盛期を知りませんが、ギタリストの妹ナンシーと組んだバンドのヴォーカルで「女ロバート・プラント」と呼ばれていたらしい。

確かに当時のライブ画像を見るとすごくかっこいい、というか68歳の今も凄まじいエネルギーと場を圧するオーラ、歌唱力です。

オープニングはザ・フーの「リアル・ミー」、さらにヴァニラ・ファッジ「キープ・ミー・ハンギン・オン」、イーグルスの「ライフ・イン・ザ・ファスト・レーン」のカヴァーの他、自身のヒット曲「バラクーダ」、最新アルバムからの数曲など。

45分という持ち時間があっという間に過ぎるほど楽しませてくれました。

 

ポール・ロジャーズのステージを拝見するのは3度目ですが、期待を裏切られたことがありません。

今回は2017年にイギリスでスタートした「フリー・スピリット」ツアーの一環で、1967年にロジャーズコゾフがフリーを結成した記念という話。

「Little Bit of Love」からアンコールの「オール・ライト・ナウ」の会場大合唱に至るまでお馴染みの「ファイアー・アンド・ウォーター」「スティーラー」「ミスター・ビッグ」「マイ・ブラザー・ジェイク」などフリーの1枚目からラストアルバムまでの代表曲、さらにアメリカでも大ヒットしたバッド・カンパニーの「Can't get enough」、「シューティング・スター」を交えて熱演。

 

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もっとやって欲しかった。

彼もアンと同じ68歳ですが、いつまでも現役でいてほしいし、これからも何度でもステージに接したいミュージシャンです。

さて他界したコゾフアンディはともかく存命のサイモン・カークが参加していないのは何故なんでしょう。体力的にきついから断ったのか、もともと誘われていないのか事情は分かりません。サイモン元気かな、と気になります。


大トリのジェフ・ベックが登場したのは午後10時過ぎ。

私は70年代前半までのブルース系のジェフ・ベックが特に好きでフュージョンになって以来CDを買っていないのですが、最近はオーケストラを入れたり常に新しい音楽を追求しているようですね。

今回はギター、ベース、ドラムのトリオにチェロを加えた編成でした。

ベーシストは元プリンス・グループにいたロンダ・スミス
ジェフ・ベックの「ライヴ・イン・トーキョー」(2014) にも出ているみたいです。

タラ・ウィルケンフェルドも渋いベースですが、ロンダの方は攻撃的と言えるぐらい個性の強いベーシストです。(何となくカーリングのメガネ先輩を連想)

 


RHONDA SMITH EXPLOSIVE BASS SOLO JEFF BECK BAND UTRECHT MAY 25TH 2014

 

もちろん主役のベックは全く衰えることなく歌いかつ語る表現力抜群のギターを堪能させてくれました。

往年の曲ではジェフ・ベック・グループの「Going Down」、BBAの「Superstition」を演りましたが、ヴォーカルのジミー・ホールが妙に癖があるし全然うまくなくて残念。

ど素人の私が言うのは僭越なんですが。(ロンドン公演のSuperstitionがユーチューブにアップされていますので、ご興味のおありの方はそちらへ)

ジェフ・ベックとポール・ロジャーズのコラボが見られると思っていた友人と私はここだけは少々拍子抜けでした。

 

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約4時間半に渡るコンサートはアン、ポール、ジェフの才能に圧倒され、非常に密度の高い時間でした。

サンタナの『キャラバン・サライ』は壮大な交響詩

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今晩は、ロンドンVixenです。
今回はサンタナの4枚目『キャラバン・サライ(1972)で行ってみます。

当時サンタナの音楽はメガ・ヒット曲の「ブラック・マジック・ウーマン」「俺のリズムを聞いとくれ(Oye Como Va)」、「君に捧げるサンバ」などは聴いていたものの、アルバムを買ったのはこの『キャラバン・サライ』のみで、たぶんにジャケ買だった感があります。

 

砂漠の夕陽の中を進む隊商の駱駝。

異国情緒あふれる幻想的な写真もさることながら、ラテンの印象の強いサンタナがなぜキャラバン?というイメージのミスマッチが面白い。

「復活した永遠なるキャラバン(Eternal Caravan of Reincarnation)」

コオロギがすだく音と尺八のようなサックスの響きで始まる有名なイントロ。
原題を見る限り、当時のミュージシャンの例にもれずインド宗教に関心を寄せていたサンタナが輪廻転生を脈々と連なる隊商の列に例えているように思います。
ラクダの歩みのように単調なリズムを黙々と刻むウッドベース、鈴のようなシャラシャラというパーカッションの音、キラキラと入ってくるジャズ・ギターの音色と共に満天の星空の下をキャラバンと共に歩んでいくような幻想に浸れます。

「躍動(Waves Within)」

コンガとティンバレスを背景にダグラス・ローチ、ダグラス・ロドリゲス、カルロス・サンタナの3本のギター。

カルロス・サンタナのソロは切なく美しく、ブルースのヴォーカルを聞いているようです。内に秘めた情熱が抑えきれずほとばしり出る様はまさにWaves Withinの曲題にふさわしい。

ドラマーのマイク・シュリーヴはサンタナの初期の7枚に参加しているラテン・ジャズ系のドラマーですがこのアルバム時は23歳の若さ。パーカッションのホセ・チュピート・アリアス、ジェームズ・ミンゴ・ルイスと共にシンコペの効いたリズムを一糸乱れず叩き出している技はさすがです。

続く宇宙への仰視(Look Up (To See What’s Coming Down))」はファンキーなノリのいい曲。
キーボードのグレッグ・ローリーカルロス・サンタナとの折り合いが悪くなったとかでこのアルバムは最後の参加ですが、このオルガン・ソロかなり好きです。

 

4曲目「栄光の夜明け (Just in Time to See the Sun)」はヴォーカルが入る小曲。このアルバムでヴォーカルが入るのは10曲のうち3曲。
夜明け(救済)を待ち望んで暗闇(罪)を彷徨っているような歌詞です。
カルロスのギターソロもファズがかったオルガンもいいし、ホセのティンバレス、ジェームズ・ミンゴのコンガ、マイク・シュリーヴのドラムがやはり素晴らしい。

風は歌う(Song of the Wind)

これは名曲中の名曲ではないでしょうか。
とにかくカルロス・サンタナのソロが圧巻。
神がかっているとしか言いようがありません。
聴いている方が居ずまいを正して聴かなければならないぐらいの迫力があります。

2016年のライブ画像を見るとソロの一部をニール・ショーンが弾いていますが、このアルバムのソロはサンタナの独演でしょう。(近年のライヴは楽しそうだけど凄さに欠けます)。


SANTANA, Song Of The Wind

 


6曲目の「宇宙への歓喜(All the Love of the Universe)」もヴォーカルの入った曲です。
新しい思考が心を浄化し、身体を清める。
宇宙への愛を生きとし生けるものと分かち合う。
明日のことはどうでもいい。
求めている答えを見つけるためには今日だけがあればいい。

太陽を求めて暗闇を歩いている4曲目から70年代初頭の精神世界と宇宙賛美、
「ビー・ヒア・ナウ」の考え方に行き着いたのでしょうか、非常に明るい曲です。

ウッドベースの存在感に存在感がありますが通常のエレキベースの動きもいい。
ドラム、コンガ、ティンバレスのリズム・セクションにカスタネットも加わり異国情緒があります。
ギター・ソロはもちろんオルガン・ソロも好きな曲です。

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7曲目の「フューチャー・プリミティヴ(融合)(Future Primitive)はホセとジェームズ・ミンゴによるパーカッションの曲でバックの効果音(オルガン?)にコンガ、ボンゴ、ティンバレスだけで演じられています。

ストーン・フラワー(Stone Flower)

エキゾチックなイントロに続き、ウッドベースとドラム、パーカッションが心地いいリズムを刻み始めます。
ストーン・フラワーもヴォーカルの入った曲で、アルバム中最も有名な曲です。

石の花に魅せられ歓喜の涙を流す。
この世は素晴らしい場所だ、という歌詞は6曲目に出てくる精神世界のようでもあり、LSDの体験によるものかもしれませんが、当時の思想はアシッドと結びついているのでどちらとも解釈できるでしょう。

このアルバム中最もラテンの色合いが強い曲ですが、オルガンのフレーズにサイケデリックなものを感じます。
ユーチューブでは73年の日本講演での「ストーン・フラワー」演奏の画像が出てますが、スタジオアルバムに比べて今ひとつのように思います。


Santana "Stone Flower"

 

「リズムの架け橋(La Fuente Del Ritmo)」

パーカッショニストのジェームズ・ミンゴ・ルイスの作だけあって、ドラム、ボンゴ、コンガ、ティンバレスウッドベースのリズム・セクションがとにかく圧倒的に凄い。

そこにサンタナのギターとニール・ショーンのギターが絡んで入ってくる。ハモったりユニゾンになったり。

イントロから入っているピアノ、途中で入ってくるエレピのソロ、オルガンのソロ、すべての楽器が一糸乱れず(しつこく同じ表現ですが)イントロから終盤まで突き進む。
凄いです。

果てしなき道(Every Step of the Way)

心地いいキャラバンサライ(隊商宿)から、ウッドベースとパーカッションのリズムで砂漠の道に引き戻されたような気分。

ドラムは全体の調和を乱すことなく変拍子をガンガン入れまくっている。
そしてギター・ソロはやはり凄い。

荘厳にして雄大、苛酷なサハラの景色を脳内に浮かび上がらせます。
途中なぜか人間の叫びのような声が聞こえ、続いてフルートらしき音色、さらにオーケストラ。この後のギターもひたすら凄い。
壮大なキャラバンのエンディングにふさわしい曲です。

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おまけ(キャラバン・サライとは)

『キャラバン・サライ』久々に全体を通して聴いてみましたが、何かこう何処か異次元に行って戻ってきたような、メディテーションから覚醒したような不思議な感覚があります。
ラテン、ジャズ、ロック、フュージョンによる壮大なスケールの交響詩というか。
これはもはやプログレと呼んでも非難はされないでしょう。

さてキャラバン・サライとはペルシャ語で隊商宿のこと。

ウィキペディアには隊商(カールヴァーン)の宿泊施設でバザールやスークに隣接して建てられていたとあります。

カンダハールイスファハンなど今や行くのが命がけの場所が、カリフがイスラム世界を治めていたころ羊毛、綿、絹、穀類、果物などのキャラバンの交易都市として栄えていたようですが、サライはこうした隊商が通る道筋の要所要所にあったのでしょう。

 

外見と内部はこんな感じ(写真はPixabay)

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おぞましくもメチャ実力派、ブラック・サバスの1枚目『Black Sabbath』

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今晩は、ロンドンVixenです。

前回の爽やかなアメリカにうって変わり、今回は禍々(まがまが)しさ全開のブラック・サバスでいってみます。

かなり最近まで、ブラック・サバスというのはマリリン・マンソンのような本物の悪魔崇拝者の集団だと思っていました。 

それが「ブラック・サバス」(1963)という映画が盛況なのを見て、「オカルトって受けるんじゃね?」とかで軽くバンドのコンセプトを決めたと聞いて、これはデーモン閣下のノリだったのかと。

 

実際ベースと作詞担当のギーザー・バトラーは当時かなり真面目に黒魔術に傾倒していて、住んでいた部屋を漆黒に塗りつぶし壁に十字架と悪魔たちの肖像を掛けていたらしい。ある夜オジー・オズボーンに借りたラテン語の魔書を置いたあたりに黒い人影が立ち、慌てて起き上がって見ると人影も書物も消えていた、という逸話がウィキペティアに載っています。

ヘビメタの元祖としても知られているバンドですが、当時はユーライア・ヒープと並んでツェッペリン、ディープ・パープルに次ぐ英国ハード・ロックバンドという評価であったような記憶があります。

1枚目『黒い安息日Black Sabbath』は、1969年10月16日にたった一日、12時間で収録されました。

ジャケットの背景、中央に立つ黒衣の女がイヤーな雰囲気を出しています。

黒い安息日Black Sabbath)

雨と雷鳴、教会の鐘の音のSEで始まる1曲目。
教会の鐘はゴシック・ホラーのお約束。
聖と邪は表裏一体。神がいるなら悪魔もいる。

歌詞はバトラーが出会ったような大きな黒い姿で火のような目を持つ悪魔との邂逅。

ギター・フレーズのリフレインにかぶさってユニゾンするベースのスライド音のかっこよさ。

時として和太鼓のように轟くドラムの音色が曲の不穏な空気を体現しています。これだけ表現力のあるドラムもまた珍しい。

そして中盤のヘヴィメタ・ギャロップを経て絡み始める左右のギターの見事さ。とくにギター・ソロには、曲のおどろおどろしさにも関わらず、美しい!と歎息するばかりです。

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魔法使い(The Wizard)

「ウィザード」という曲は、ロード・オブ・ザ・リングの老魔法使ガンダルフにヒントを得て作ったらしい。
良い魔法使いが歩いていくと邪悪なものは力を失い、悪鬼たちは彼が近づくのを恐れる。
「涙を喜びに変え、行く先で人々に幸せを与え魔法使いは歩いて行く」という歌詞です。

 

ジーのハーモニカがバグパイプのような鄙びた音色でイントロを務め、ギターのリフにベース、ハーモニカがユニゾンで被さるヘヴィー・ロックの真髄のような曲。

ビル・ワードのドラムは自由奔放にドラムソロをやっているようでいてきちんとリズムを支えている面白いドラミング。

ここでもヴォーカルの合間に入ってくるトニー・アイオミのギターのフレーズにセンスを感じる。歌詞に沿っていて、悪魔が尻尾を巻いて退散する滑稽な様子が想像できます。

 


Black Sabbath - (1970) The Wizard (Live 2005) (Sous Titres Fr)

エヌ・アイ・ビー(N.I.B)

魔王ルシファーが人間の女性に恋をして真剣な愛を持つというファンタジー

N.I.Bは何の略かと当時様々な憶測が飛んだようですが、ドラマーのビル・ワードが当時生やしていた顎髭の先が尖っていたことをNib(ペン先)と呼んだだけ、というオチらしい。真偽はともかく。

クリームのSunshine of Your Loveを思わせる重厚なリフが続くノリのいい曲。
耳について離れなくなります。

このバンド、ギターもベースもドラムも本当にかっこいい。
途中リッチー・ブラックモアを思わせるアイオミのギター・ソロ。

オジー・オズボーンについてはここまで、上手いの?という疑問があった。どの曲も呻いているような苦しそうな歌い方で、第1曲めの悪魔に出会って怯えている場面には確かに合っているが、あまり好みのシンガーじゃない、と思っていた。が、映像をみて少し考えが変わった。

この人は確かにカリスマ性があり魅せるフロントマンというヴォーカルの条件を満たしている。

 


Black Sabbath - "N.I.B." Live Paris 1970

 

ア・ビット・オブ・フィンガー/眠れる村/警告(A Bit of Finger/Sleeping Village/Warning)

私が持っている米国版はヨーロッパ版と違って、この3曲が組曲のように途切れなく入っています。

陰鬱なギターのアルペジオ

どこまでがA bit of Finger」なのか分からないまま「眠れる村」へ。
平和な村の夜明け前を歌っているはずなのに背筋にぞわっと違和感。
黒い安息日よりも却ってこちらの方が不気味だったりします。

 

シンバルとベースの音を境にギターの重録の絡みが始まります。
聞き応え満点のギターの凄さ。
ベースも踊っています。

ギターの重厚なリフにベースが相和して曲は「警告」へ。

このブルース・ナンバーでギターはあたかもセカンド・ヴォーカルであるかのように歌いまくっています。

この曲のオジーのヴォーカルは決して悪くないんだけど、アイオミのギターの凄まじい表現力のおかげで影が薄くなっているような印象。

ブルース・シャッフルに突入。ああ重い。
ベースもドラムもめちゃ好き。
そして華麗なギターが終盤まで主役を張っています。

ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルの目くるめく饗宴に、何度聞いても曲が終わった後に「すごい!」とため息が出るのみです。


最後に

オカルトとかゴシック・ホラーとか色物で分類されるには勿体ない、凄いテク、センス、パワー。本当にすばらしい。

もしあなたがギターを始めたばかりの10代の少年(少女)ならこのアルバムのトニー・アイオミはぜひ聴いていただきたいです。世の中に優れたギタリストは多いですが、その連山の一つの峰に位置しているであろうアイオミのギター。
ちなみにアイオミ先生は確かユーチューブでギター講座もやっているはず。

このアルバムの米国版にはなぜか「Evil Woman」が入っていません。それだけが残念です。

 

 

アメリカという名前のバンドの1枚目

 

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今晩は、ロンドンVixenです。
今回はアメリカのファースト・アルバム『アメリカ(America)』でいきたいと思います。


アメリカ、と言っても若い方はご存知ないかもしれません。

70年代初頭に主に活動したトリオで、メンバーはデューイ・バネル、ジェフ・ベックリー、ダン・ピーク。

ジャンルはフォーク寄りのフォーク・ロックで、アコギ2台+ベース+ドラムあるいはパーカッションというのが典型的な構成で、ハーモニーの美しさが特徴です。


 

このファースト・アルバム『アメリカ』は1971年の作。

曲調からしアメリカ西海岸のグループと思っていたのですが、アルバムの裏表紙がどう見てもロンドンのキュー・ガーデンの温室にしか見えない。随分と似た場所が米国にもあるんだなーと思って今回ウィキペディアを見たら、メンバーはロンドンにあるアメリカン・スクールの同級生と書かかれていて妙に納得しました。


アメリカ』は12曲による構成でどの曲も美しいのですが、特に好きな曲をピックアップしてみます。

 

「川のほとりで(Riverside)」

小気味のいい6弦のアコースティック・ギターストロークに、12弦のアコギがかぶさっていき、アコギによるリードギターのソロ。

ドラムは入れずパーカッションとギター、ベースでリズムを刻みます。
そして見事なハーモニー。


「You stay on your side and I’ll stay on mine
You take what you want and I’ll take the sunshine」
(君は君の思うようにすればいい。俺は俺のやり方でやる)

と清々しいまでのアイデンティティの表現。
曲調はあくまでも爽やかです。

 

サンドマン(Sandman)」

外は霧が濃いね。飛行機は全部着陸している。
室内は火が焚かれている?じゃその側に行こう。
不思議だよね。僕は向こうにいて、君はここにいた。
ビールを飲む暇さえなかったよね。
君はサンドマンと呼ばれる男から逃げていたし。

 

サンドマンとは子供の目に砂をかけて眠らせるという妖魔ですが、そんな仇名が付いている男などロクな人間ではなさそうです。

Am-F-Emというコード展開で前曲と違って暗いけど印象に残る曲。

デューイのヴォーカルの後のハーモニーはやはり綺麗に決まっています。

ベース・ラインとエレキのソロが好きな曲です。


「名前のない馬(Horse with No Name)」

ヒットした曲で日本でもよく知られていると思います。

 

名前のない馬を駆って砂漠を旅して行く。
はじめに蝿のうなり音。
2日目には皮膚が赤くなり、
3日目には水の枯れた川を通り過ぎる。
9日目には砂漠が海に姿を変えたので馬を解放した。
植物、鉱物、鳥たち。
海は砂漠で地下に生命が満ち溢れている。
表面だけ見ると全く気がつかないが。

 

歌詞を見ると人生と精神の変化を歌っているように思われます。

主人公が街のしがらみを離れて色々なものに気づいていく様子。
時代背景は体制から解放され「自由」や「アイデンティティ」を求めて行くヒッピー文化の時代です。この曲もそんな精神的な解放を感じさせます。

もちろん当時のことですから、馬=ドラッグによる自己解放のことを表現したのかもしれません。


この砂漠のイメージはサハラやゴビではなく、アメリカ西部の砂漠のイメージで、確かにメンバーの一人はアリゾナやニューメキシコで幼少期を過ごしたらしいのですが、直接のイメージになったのは何とサルバドール・ダリの絵に出てくる砂漠とエッシャーの絵の馬らしい。

ネットが普及すると当時知らなかったことが色々出てきますよね。

 

12弦ギターとヴォーカルで始まり、すぐベース、パーカッション、ドラムが入り、馬のギャロップを思わせるリズムが曲全体を貫く。パーカッションの心地よいこと。
人によっては曲調もヴォーカルも単調(昔友人からはお経のようだと言われた)と思うらしいけど、砂漠を彩っていく景色が目にイメージとして浮かぶかなり好きな曲です。

 

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「僕には君が必要(I Need You)」

花が水を必要なように。冬が春を必要とするように。
私はあなたを必要とする。

ハーモニーが本当に美しい小品です
どこかビートルズの曲にありそうですが、途中まで「サムシング」に似ているのではないでしょうか。

 

「ドンキー・ジョー(Donkey Jaw)」

ベトナム戦争時代を反映したプロテスト・ソングです。

 

まず絡み合うアコギのアルペジオの流麗さに圧倒され、そこにさらにベースとパーカション(この曲の題名になった「ロバのあご骨」で正式名はヴィアブラ・スラップ(Vibra Slap))が加わってインストゥルメンタルとしても聞き応えのある曲です。

が、ヴォーカルが始まるとその歌詞の激しさにゾクリとします。

サタン(悪魔)よ、私たちの国を魅了するな。
子供達の命が失われないと分かってくれないのか。

激しく訴える前半に比して、転調した後には哀願するように「Does it take the children to make you understand」が繰り返されます。
時代が変わった今でも心に刺さる曲です。


終わりに

ジャケットの写真にあるように当時のメンバーが若い。

ギターが好きな3人の男の子が集まって「ここ、このコードでいい?」とか話しながら曲作りしているような雰囲気が伝わってきて初々しさが好ましい。

アメリカはこのあと「マスクラット・ラヴ」や「金色の髪の少女(Sister Golden Hair)」などのヒットがありますが、やはりこの1枚目が一番良いように思います。