ロンドンきつね亭 私的ライナー・ノーツ

60年代後半から70年代の黄金期のロック名盤・名曲をひたすら聴く

ギルモアが入ってシドが去ったピンク・フロイド『神秘』の聴きどころ

f:id:londonvixen:20171030131559j:plain

今晩は。ヴァーチャルパブ倫敦きつね亭です。

本日の名盤は、ピンク・フロイドの2枚目『神秘(A Sauerful of Secrets)』。
デヴィッド・ギルモアが参加しシド・バレットが抜けた初期のピンク・フロイドどのような変貌を遂げたかを見て参りましょう。

ピンク・フロイドのレーベル会社は73年『狂気』の成功に乗じて、初期の2枚『夜明けの口笛吹き』『神秘』をカップリングした2枚組のアルバム『ナイス・ペア』を出します。
きつね亭はこの『ナイス・ペア』のLPを聞いていましたので、1枚目と2枚目が同じ路線のアルバムだったような印象が記憶に残っていました。

今回あらためて『神秘』を聞いてみると、自分の印象がだいぶ間違っていたことに気づきました。

 

では『神秘』の聴き所を見ていきましょう。
今日のお供はアルバムに登場する夢見る「クレイグ伍長」さんにちなんでジン・トニックにいたしましょう。

「光を求めて」(Let there be more light)

このアルバムのハイライトは「光を求めて」「太陽讃歌」、「神秘」の3曲です。

堅いベースのソロ、ドラムのシンバルの音、さらに中東か東洋を思わせるオルガンのメロディーで第一曲目の「光を求めて」が始まります。

囁くようなロジャー・ウォーターズとリック・ライトのボーカルが「遠く遠く彼方で」「人々は彼のことばを聞く」「その日が訪れる」「何か方策を講じる」と平坦なリズムを繰り返すのを受けて、

オルガン・ファズの爆音とともに「ついに偉大な船が炎の輝きを放ち人類に接触するべく舞い降りる」とギルモアのボーカルが入ります。

ここで視聴者はその後ウォーターズらとともにピンク・フロイドの顔となっていくデイヴ・ギルモアの第一声を聞くことになります。

「わあ、ついに来た。恐怖の大王」とノストラダムスの大予言(古い!)的な驚愕シーンなのですが、声がまだ若くて薄いので力強く歌っているわりに今ひとつインパクトに欠けます。

この大王様、地上任務に就く兵士の目に映るのは「ルーシー・イン・ザ・スカイ」なんですね。ビートルズの曲をもじっているところにフロイドの遊び心が伺えます。

この曲は後半にギルモアのギター・ソロが聞かれます。滑らかなギターは、あピンク・フロイドなんだなと妙な感触です。

「太陽讃歌」(Set the Controls for the Heart of the Sun)

この曲はシド・バレットを含むピンク・フロイドの5人全員が参加しています。

発表当時の批評は「退屈で平坦」と散々だったようですが、どうしてどうして、当時の人は耳がどこについていたのか?と言いたくなる位おもしろい曲です。

力強いゴング、ティンパニのバチで叩いているドラムに、ヴィブラフォンの透明な音色、セレスタのキラキラ音が色彩を添えています。

ぶつぶつ呟くウォーターズのボーカルはお経のようで、晩唐の詩人である李商隠の詩をベースにしたという詞によく合って崇高な印象を醸し出しています。

光を求めて」のリック・ライトとウォータ―ズの囁き、この曲の呟きボーカル、のちの「エコーズ」のギルモアの平坦な繰り返しボーカルも、ピンク・フロイドの定番になっていてで何だかすごく落ち着きます。

途中から海鳥の声が効果的に入っており、シンセサイザーが楽器リストにないのでオルガンかな?と思ってWikipediaを見たところシド・バレットのギターとのこと。
うーん、すばらしい。

この曲は「ウマグマ」のライブがいいと聞いているので期待大です。バレットのギターが聞けないのは寂しいですが。

f:id:londonvixen:20171030134429j:plain

 

神秘 (A Saucerful of Secrets)

この曲を初めて聞いたときに思い浮かんだのはダンテの「神曲」です。

延々と地獄巡りがあって、最後は天界にあがっていって教会のオルガンと賛美歌で魂の癒しがある、というような。

聴き直すにあたってWikipediaを見てみたら、戦争の悲惨と戦後の鎮魂を表している、というウォーターズの説明がありました。
あたらずとも言えども、そう遠くなかったという気が‥。

組曲形式になっていて、第1楽章から第3楽章まではファルフィッサ・オルガン、スライド・ギター、ギターのディストーション・ペダル効果を駆使した不安な旋律が延々と奏でられます。

実際に戦争を表す第2楽章からはドラムのシンコペーションが不穏な空気を盛り上げていく。

第3楽章のオルガンにいたっては深淵から聞こえてくるようで、浮かばれない霊の恨み・苦しみを聞かされているように思えてきます。
ひらたくいってしまうとお化け屋敷かホラー映画の効果音に近い。

最後の3分間では、オルガンの音色が教会のオルガンの音色に転じて、魂を浄化するようなメロディーを弾き、霊達もようやく天国に受け入れられたようです。

上から目線で大変申し訳ないのですがこの「神秘」を聴いて、「あ、これはひとつ脱けたな」と思いました。

ひとつのドアが開かれた、そんな印象です。これはバレットのフロイドから、新生フロイドへの通過門だったのではないでしょうか。

 

下は「神秘」のポンペイ・ライブの動画


PINK FLOYD - A SAUCERFUL OF SECRETS - LIVE AT POMPEII

シド・バレットの存在と不在

このアルバムでは、シド・バレットは「太陽讃歌」に参加している以外に自作の「ジャグバンド・ブルース」のボーカルとギターを演じています。

不思議な曲で、シドは「私のことを考えてくれてご親切に。私がここに存在しないということを明確にしてくれて大変にありがとう」と皮肉にしかとれない口調で歌っています。

この曲を他のバンド・メンバーが一緒に演じて、このアルバムに入れたのが一種のミステリーです。

このアルバムには「シーソー」と「追想」(ともにリック・ライト作)というノスタルジーをテーマにした曲が入っています。

前作の「マルチダ・マザー」に通づるものがあり、シド・バレットが作詞・作曲したと聞いても信じてしまうかもしれない。

しかしギターはもちろん、曲のアレンジが『夜明けの口笛吹き』と大きく乖離しており、やはりシドはもうピンク・フロイドの一部ではないのだ、とあらためて認識することになります。

終わりに

カリスマ的な中心人物を失った組織がどのように生き延びてきたのかというのはおもしろいテーマです。

そうしたバンド(あるいは企業)の多くが当時の生彩を欠いた形で存続する中で、ピンク・フロイドはかえって昇華し次のステージに進んでしまっている。

そこにオリジナル・メンバー3名およびギルモアの並々ならぬ才能と創造性を感じるのです。

さて、このアルバムが発表された1968年に出たシングルでベスト・アルバムにしか収録されていない曲があります。
日本でもヒットした良い曲です。
夢に消えるジュリア(Julia Dream」-下記の動画でご覧下さい。


Pink Floyd - Julia Dream [Original, High Quality Stereo Sound, Subtitled]