ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

イエスの1枚目『YES』は聴く価値があるか

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今晩は、ヴァーチャル・パブの倫敦きつね亭です。
めっきり寒くなってきましたね。

 

さて今日はイエスの『YES』を聴きたいと思います。

何か釣りのようなタイトルをつけてみましたが、ピンク・フロイドを1枚目からやったのでイエスも最初から聴いてみようという単純にそれだけの理由です。

今時イエスの一枚目を聞くかどうか真剣に迷っている人もまずいないでしょうから、釣りになっていませんが‥。

 

エスはメンバーの出入りも出戻りも多いバンドで、今誰と誰がいると聞いてもすぐ忘れるし、次のツアーの時には違うメンバーが入っていたりするので最近はもう何が何だか分かりません。

第一アンダーソンもスクワイアもいないバンドをイエスと呼んでいいのか正直微妙なものがあります。

この1枚目はジョン・アンダーソン(v)、クリス・スクワイア(b)、ビル・ブルーフォード(d)の他にトニー・ケイ(k)、ピーター・バンクス(g)が入っています。

このアルバムの雰囲気で今夜はカクテル・コスモポリタンを選んでみたいと思います。

 

ビヨンド・アンド・ビフォア(Beyond and Before)

ギター・ソロのイントロに続き、来ましたクリス・スクワイアのリッケンバッカーのゴリゴリのベース。
このゴリゴリ音のズシンズシンがないとイエスっていう気がしないですよね。
ジョン・アンダーソンの重複ハモリングのボーカルも美しい。
ジョン・アンダーソンという人は歌が上手いのかどうか正直分からないのですが、例えていうなら聖歌隊の人が風邪をこじらせて嗄れ声になってしまったというような声質。
この嗄れているのに透き通った不思議な声質がイエスの曲にフィットして耳に心地よいんですね。

アイ・シー・ユー(I See You)

ロジャー・マッギンとデヴィッド・クロスビーが作ったバーズの曲のカバーです。

『こわれもの』に入っているサイモンとガーファンクルの「アメリカ」のカバーに当時はへえと思いましたが、もともとイエスはかなりカバーを手がけているしい。
このアルバムでも「エヴリ・リトル・シング」が入っているし、「エリナー・リグビー」もYoutubeにアップされています。

この曲、バーズの曲の中でもかなりジャズがかっている方ですが、イエスのバージョンはさらにジャズ色が強い作品になっています。
この曲のビル・ブルーフォードのドラムは必聴。ベースももちろん、びんびんにグルーヴしています。
ギターはインプロビゼーションのソロ・パート以外のほうがむしろジャズ・ギターらしく冴えている。

初期のバーズはディランの曲のカバーを多くやっていて、実は本家のディランよりもバーズのバージョンが好きなのですが、この曲に関しては本家のバーズよりもイエス・バージョンのほうが好きです。

ルッキング・アラウンド(Looking Around)

けたたましいキーボードではじまるこの曲は、旋律的にはのちのイエスに近いように思います。
リズム・セクションの重厚感もボーカルのハモりにも『危機』『こわれもの』に通じるものがあるものの、比べてしまうと曲全体にどこか粗さがあるのが否めません。

 

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一番上の赤と青のロゴはUK版のジャケット。US版の表紙はこれです。ジョン・アンダーソン以外のメンバーがかなり可哀想。

ハロルド・ランド(Harold Land)

シャッフルのリズムとオルガンから楽しく始まる曲ですが、ボーカルが入る辺りから俄然シリアスな曲調になります。

ハロルド・ランドは兵隊として戦地に赴きます。請求書の支払いを済ませ、牛乳配達も止めてもらって、帽子をかぶって、じゃ行ってくるから、と最初は呑気なものですが、
寒さと雨と泥の中を行進し、戦って地獄を見ます。戻って来たハロルドは、恋人も若さも失い、胸に勲章を下げていますが、たった2年の間に遥かに老け込んでしまっています。

エスにしては珍しい叙事詩です。雨の中の行進の場面の重厚なリズム・セクションが泥を跳ねながら進む軍歌の重々しい響きを思わせます。
ボーカルも美しいが、ボーカルと一緒に入ってくるピアノが美しい。

エヴリ・リトル・シング(Every Little Thing

ずいぶんと大胆にアレンジにしたものです。冒頭の部分などもはや別の曲の感があります。

ジョン・アンダーソンの多重ハモリングがいいですね。とくに"Can't stop thinking about her now” "Yes, I know that she loves me now" で語尾が上がっていく部分の声が美しい。

バンクスのギターのキレもいい。

ビートルズのカバーしているミュージシャンは膨大な数のようですが、この曲のイエス・バージョンかなり好きです。

 

とくに印象に残った上記以外にもアコギとピアノにブルーフォードのビブラフォンが効果的な「昨日と今日」、メロディが美しくキーボードと柔らかいベースが心地いい「スウィートネス」など他にも聴きどころは少なくありません。

まとめ

まずプログレ・バンドとしてのイエスを期待する方はがっかりするかもしれません。

サイケデリック・ロックとかアート・ロックというよく使われる呼称は今ひとつぴんと来ませんが、ジャズを中心に色々なものを取り入れて試行している印象があります。

面白いか面白くないか、でいえば私的にはかなり面白いアルバムだと思います。

バーズやビートルズをイエス流にどう料理しているかを聞いてみるだけでも面白い。

 

エスというバンドの特徴のひとつは「耳に心地よいプログレ」ではないでしょうか。

サードアルバム、こわれもの、危機と進んでいくにつれどんどん曲が洗練されていくけど、一貫して心地よさという特徴がある。

上に述べたようにジョン・アンダーソンの声質そのものが寄与している部分はあるのですが、バンド自体の音が心地よいのです。

このアルバムも例外ではありません。

ただ、その心地よさが『危機』あたりに来ると絹の手触りにも似てくるのですが、このアルバムでは目の粗い布のようなというか、そんな印象です。

 

添付は当時の画像。 


Yes - No Opportunity / Looking Around / Survival - Live Beat-Club 1969 (Remastered)