ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

書評:結構怖いブラックウッドの『The Willows』(邦題は不明)

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今週は音楽ブログはお休みです。

というのも週末に読み始めた小説が途中でやめられなくなって音楽を聴く余裕がなかったせいです。

この短編小説『The Willows』の作者は英国人のアルジャーノン・ブラックウッド。
20世紀初頭に主に活動していた怪奇作家です。

話はドナウ川(The Danube)がウィーンからブダペストに至る途中に通過するハンガリーの湿地帯の描写から始まります。

スウェーデン人の相棒とカヌーを操って川下りを楽しんでいる「私」は、嵐で川の水位が上がりすぎたため小島(中洲)にテントを張って一泊することになる。

一帯にヤナギが群生する小島に上陸した当初から「私」は奇妙な違和感を感じる。

最初は浮遊する溺死体に見間違えたカワウソや人里を遠く離れた流れに小舟を浮かべている農民の姿など不思議な事象。

やがて日没とともに様々な異様な現象が起こり始め、眠りを覚まされた「私」は島内を歩き回り、この場所に巣くう得体の知れない悪意、邪気を感じる。

やがて待ちわびた夜明けが訪れるが、カヌーの魯が夜間に一本無くなっており、残った一本の魯も精巧なヤスリをかけたように薄っぺらく削られて使い物にならない上に、カヌーの底部には説明のつかない亀裂が入っていることを見つけ、さらに一夜とどまることを余儀なくされる。

砂地にいつの間にか開けられた幾つものすり鉢状の穴、初めはスウェーデン人の相棒にしか聞こえなかった鐘を叩くような不気味な旋律。

必死に科学的に説明しようと無駄な努力をする「私」。

やがて再び夕刻が訪れ‥。

 

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やはり一番怖いのは、「期せずして境界を越えて侵入してしまった自分たちを生贄にしようとしているらしい原始的なある意志」の実体が最後まで分からないこと。

さらに屈強かつ経験豊富、理性的で頼り甲斐があるはずのスウェーデン人の相棒が、恐怖のあまり精神が崩壊しかかっていく様子。

文中に「後から二人の記憶をつなぎ合わせると」という表現があるので最後は共に助かったのだろうと予測できますが、最後まで読んでも何とも嫌な落ちが待ち受けています。

自分は探偵小説とホラー(スプラッター以外)が結構好きですが、最近「これは怖い」という傑作に遭遇していませんでした。

作者の「ここで怖がらせてやろう」という意図が透けて見えたり、オノマトペが乱用されていたりすると興ざめなのです。

『The Willows』はかなり恐怖レベルが高い方ではないかと思います。

この作品、自分は単品で買ったのですが『Ancient Sorceries and Other Weird Stories』にも収録されていてそちらも同時に購入したのでダブってしまいました。

日本語訳の『いにしえの魔術』にもおそらく収録されているのではないかと思いますが、アマゾン・ジャパンに1件だけあった『いにしえの魔術』の書評をみると「一番怖かったのは『エジプトの奥底で』だった」そうで、『The Willows』でもかなり恐怖度が高いのだから『エジプト』とやらはどれだけ怖いのかと読む前から戦々恐々です。