ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

カンタベリー系の2枚目にお勧めのハットフィールド&ザ・ノースの『ザ・ロッターズ・クラブ』

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今晩は、ヴァーチャル・パブのロンドンきつね亭です。

今日はハットフィールド&ザ・ノース(H&TN)の『ザ・ロッターズ・クラブ』でいってみます。

 

H&TNは、以前当店で『ピンクとグレイの地』を取り上げたキャラバンのリチャード・シンクレア(v、b)、Eggに居たデイヴ・スチュアート(k)、マッチングモール出身のフィル・ミラー(g)、ゴング出身でフィルの幼馴染みのピップ・パイル(d)の4人で1972年に結成され、カンタベリー・ロック界のスーパー・グループと言われました。

今回の『ザ・ロッターズ・クラブ』は、バンドの2枚目にして最後のアルバムです。

あまり評判がよくないこのジャケット、往年の女優風赤毛美女が何やら絵を描いています。裏を見ると広場に集まった大人と子供、空にはペガサスに乗って空を駆ける金髪女性、暗雲に包まれ地獄の使者らしき者に連れ去られる人物、と不思議な絵。イラストレータは何を思って描いたのでしょうか。

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さて、今日は英国産スパークリング・ワインがお勧めです。

シェア・イット(Share It)

1曲目の「シェア・イット」は軽くノリのいい曲。
曲が始まってすぐに「あれ、どこかで聞いたことがある」という印象。

この曲、キャラバンそのものなんですね。同じ人が書いて歌っているのだから当然ですが、曲調といい節回しといい、『ピンクとグレーの地』の一曲と言われても全く違和感がありません。

耳についてすぐに覚えられそうなメロディ。ブリテッシュ・フォークの片鱗も垣間見えます。リチャード・シンクレアの声は耳に心地いい。

ヴォーカルとユニゾンで走っているキーボード、中盤に入るシンセサイザーのソロがすごくいい。

なお、このアルバムを通じて歌詞の意味はほとんど理解不可能です。難解というより脈絡なく話が進むので何の話なのか見えない。
「Don't take it seriously」と歌っているように彼ら自身歌詞に意味を持たせる意図がないのかもしれません。


ラウンジング・ゼア・トライング(Lounging There Trying)

ギタリストのミラーの作。

 インプロヴィゼーションらしいジャズ・ギターのソロ。それに絡んでいる恐らくこれも即興のフェンダー・ローズ・ピアノの高音の煌き。途中から入っていくベースの音の美しさ。ドラムが刻む変則的なリズムの心地よさ。

このアルバムでもかなり好きな曲です。

インストゥルメンタル3曲

ジョン・ウェインは心理学の顎にパンチを見舞う(John Wayne Socks Psychology on the Jaw)」「脂っぽいスプーンの混沌(Chaos at the Greasy Spoon)」、「イエス、ノーの間奏(The Yes No Interlude)」という頭を抱えたくなる題名の3曲が組曲形式に演奏されます。

ジョン・ウェイン云々」はファズを利かせまくったオルガンとギター、吹奏楽器が入り一体どこが西部劇のスターなのかと訝る間も無く終わり、瞬く間に「脂っぽいスプーン」へ。

キース・エマーソンを思わせるムーグの一節にホルン。たしかに音による汚いスプーンの状況説明ですが、これもサッと終わって「イエス・ノー」に移っている。

「イエス・ノーの間奏」これはノリのいい楽しい曲です。
初めはプログレ、ファンク、さらにジャズへ。サックス以下吹奏楽器とギターのクワ・クワ音。エレピの陰鬱げなソロ。リズムが楽しくてもう少し聴いていたい感じです。

「フィッター・ストークは入浴中(Fitter Stoke Has a Bath)」 と「大した事ないよ(Didn't Matter Anyway)」

「フィッター・ストークは軽快な曲で、エレピがヴォーカルとユニゾンになっています。

例によって歌詞は意味不明で「君は俺の人生をかっこいいと思っているんだろう。毎日多くの人に会って外国の色々な場所にも行けて。でもたまに正気になるとお笑いなんだよね、これが」という一番は分かるとしても、2番でいきなり「みんなが君のことをスウェーデン人だといってたね。君はチョコレートをねだったよね」と脈絡がない。

挙句に「誰かが俺を探していたら、今風呂で溺れている最中だから」と。

このユーモアだか支離滅裂だか分からない歌詞をリチャード・シンクレアが甘い声で淡々と歌っています。途中でブクブクという泡の音とともに水中で歌っているような仕掛けになっているのも面白い。

中盤のフルート・ソロが絶妙にいいし後半のギター・ソロもいい。
銅鑼が鳴る辺りからはシンセサイザーによる宇宙空間のような不思議な音世界です。

 

そこから「Didn't Matter Anyway」の美しい景色へ。

この曲のジミー・ヘイスティングスフルートの美しさは圧巻

恋人との淡白な別れの歌ですが、曲調はお伽話を紡いでいるようでもあり、朝露に濡れた英国の田園風景を見ているようにも思える。

フルートとキーボードが絡み合っている箇所は2本のフルートの澄んだ音色が絡んでいるように聞こえます。

 


Hatfield and the North – Live (1990)

 

8曲目の「アンダーダブ」はビニール盤ならB面の1曲目。
短い曲ながら王道のジャズロックです。
主役はローズ・ピアノだけどこの曲のベースがめちゃくちゃカッコいい。

おたふく風邪(Mumps)」

Mumpsは20分に及ぶ大作で、3部で構成される組曲形式になっています。

冒頭のエレピ、オルガン、彼方で歌う女声のクワイアーによる静謐な数分間のあと、突如ドラム、ベース、ギター、Eピアノが参入。

そこからは変拍子に続く変拍子

前半はギターのソロ、エレピのソロ、女性のスキャットで同じテーマが展開されます。
ここは乾いた音のベースの動きに注目。

シンクレアがミュージカル調の節回しで歌う「ABCの歌」というまたもや意味不明の歌が入って、後半の見せ場はヘイスティングスのサックス・ソロ

右から入ってくるサックスに左のギターが呼応する絶妙な掛け合い。

一旦フェードアウトした後の終盤には同じくヘイスティングスのフルートが女声コーラス(ノーザレッツ)のスキャットとかぶさる。
夜の静寂に響き渡るようなフルートはまさに鳥肌ものです。

ボーナス・トラックではHalfway Between Heaven and Earth」 (ドラムがかっこいけど、一体どうしてこんな予測不可能なコード展開で歌っているんだ)とか「Oh Len's Nature!」カンタベリーにヘヴィーロックをやらせるとこんな感じ)のような面白い曲が入っていますが、スタミナ不足なのでこの辺で。

終わりに

圧巻の演奏テクもさることながら、すっと入って来やすい曲が多く、癖になるような節回しや小気味のいいリズム、うっとりと聞き惚れる美しい演奏などが散りばめられています。
私のようなカンタベリー入門者にはキャラバン『ピンクとグレーの地』に続く2枚目として入りやすいアルバムと思います。

 

londonvixen.hateblo.jp

 注)本記事中の日本語題名はきつね亭が勝手に付けたものです。