ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

バッド・カンパニーの1枚目はフリー+モット・ザ・フープルの勝利

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1 キャント・ゲット・イナフ(Can't Get Enough)

2 ロック・ステディ (Rock Steady)

3 レディ・フォー・ラブ (Ready for Love)

4 ドント・レット・ミー・ダウン (Don't Let Me Down)

5 バッド・カンパニー (Bad Company)

6 ザ・ウェイ・アイ・チューズ (The Way I Choose)

7 ムーヴィン・オン (Movin' On)

8 シーガル (Seagull)

 

今晩は、ヴァーチャル・パブ倫敦きつね亭です。

今夜のアルバムはバッド・カンパニーの1枚目『バッド・カンパニー(Bad Company)』です。

バッド・カンパニーは元フリーのポール・ロジャース(v、piano、g)とサイモン・カーク(d)、元モット・ザ・フープルのミック・ラルフス(g)、元キング・クリムゾンのボズ・バレル(b)による4人編成で、結成当時はスーパーグループと呼ばれていました。

きつね亭はバッド・カンパニーには少し思い入れがあります(ここからちょこっと個人的な自慢です)。

昔々のことですが、ミュージック・ライフというどちらかといえばミーハー系の音楽雑誌で懸賞論文を公募してまして、私はバドカンに関する論評を書いて応募しました。
フリーとバッド・カンパニーの魅力を比較したような、今から考えれば顔から火が出るような拙い内容だったと思いますが、選考委員の音楽評論家の方々の目にとまって何故か入選。
当時フリーに傾倒しているような若い女の子は多くなく、珍しかったのかもしれません。
雑誌に文章が掲載され、副賞としてラジカセと新譜のLP6枚を頂戴しました(時代が分りますね)。
それがきっかけでもう少し音楽面に重点を置いた「ニュー・ミュージック・マガジン」誌にも別のバンドについて書いた論評を載せていただいたりしました。
渋谷陽一さんとか大貫憲章さんのような評論家を目指した人生のひとコマでした。

そんな夢を見させてくれたきっかけが、このバドカンの1枚目です。

さてこのバンド、なぜかハッピ姿のポール・ロジャースと相まって日本酒のイメージがあるので今夜は熱燗をお作りしましょう。

バッド・カンパニーの曲調

バドカンはフリーに比べて明らかにヒット、とくにアメリカ市場での商業的な成功を狙った曲作りになっています。

とくにミック・ラルフスが中心に作詞作曲を担当した「キャント・ゲット・イナフ(Can't Get Enough)」や「ムーヴィン・オン(Movin' On)」にこの傾向が顕著で、とにかくノリがよくて明るい。

大ヒットした「キャント・ゲット・イナフ」などは、真夜中に恋人未満(多分)の相手の家の前まで押し掛けて「お前がほしい」、早く入れてくれと言っているかなりきわどい内容の歌詞ですが、曲調が軽妙であるためにコンサートで皆が踊る楽しい曲になっています。 フリーのヒット曲「オール・ライト・ナウ」などと比べると能天気といっていい楽しさですね。ただし曲調は明るくても、リズム・セクションが重厚というところにバドカンの特色があります。

一方、ポール・ロジャースが主に作詞作曲を手がけた曲は、やはり歌をじっくり聴かせるブルース調の作品になっている。
全体的にフリーよりも軽いけれど、フリーの延長戦上にいる曲作りなんですね。安心感があります。
この二つの傾向が共存しているのがバドカン1枚目の特徴と言えます。

ポール・ロジャースのボーカル

ポール・ロジャースの天性の歌唱力についてはフリーの『ハイウェイ』の記事でも言及させていただきました。

londonvixen.hateblo.jp

 

このアルバムでも、2曲目と3曲目の「ロック・ステディ(Rock Steady)」や「レディ・フォー・ラブ(Ready For Love)」といったブルース系あるいはバラード調の曲で上手さが際立っています。

ちなみに「レディ・フォー・ラブ」はモット・ザ・フープルの『All the Young Dudes』というこれもまた名盤に収められた同曲のカバー。原曲を聴いてみるとギター、ベース、ドラムも悪くないけど、ボーカルのイアン・ハンターがポール・ロジャースに比べるとパワー不足なのが辛い。

4曲目「ドント・レット・ミー・ダウン(Don't Let Me Down)」 (ビートルズとは同名異曲)のような中々うまく行かない恋にじれている様子の歌はロジャースの最も得意とする領域ではないでしょうか。

ポール・ロジャースはこの曲を含む3曲でピアノを演奏。最後の曲「シーガル(Seagull)」ではアコースティック・ギターによる弾き語りを行い多彩な面を見せています。

サイモン・カークのドラム

この人のドラミングには期待を裏切らない安定感があります。

バッド・カンパニーのリズムは重厚で、「キャント・ゲット・イナフ」の1、2、123のカウントの後にドラム、ベース、ギターが一斉にズシーンと入るオープニングや、「バッド・カンパニー」の途中でやはり一斉に入ってくる辺りは目茶苦茶カッコよくてここにバドカン1枚目の魅力が結集しているといっても過言ではありません。なかでもサイモン・カークのお腹にズシンズシンと響いてくるバスドラの音がいい。

ドラムのチューニングについてはよく分りませんが、スネアなど叩くというより全力でひっぱたいている感じです。 フリーの時代もこのひっぱたき感がありましたが、このアルバムではより顕著になっている気がしてそこが魅力というか。

全体的におかずが少なくて黙々と作業に励んでいる印象なのですが、「キャント・ゲット・イナフ」のハイハット、「バッド・カンパニー」の冒頭と中途のシンバル使いが好きです。

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ミック・ラルフスのギター

ソロなどを聞くといいギタリストだと思いますが、やはりポール・コゾフの哀しいほど美しいギターと比べてしまいます。優劣というより別物なのですが。

ミック・ラルフスのギターは余白を塗りつぶすような間断のない音でメロディを弾いていて、ところどころ多重録音でツインリードのような効果になっています。
この間を埋めているギターがバドカンのずっしりと詰まった重量感によい意味で寄与しています。

ボズ・バレルのベース

バッド・カンパニーはベーシストが最後まで決まらずに、紙にびっしりと書き出した候補者に片っ端からオーディションをしていったという記事を読みました。

ボズ・バレルの名前はリストの最後に記載されていたが、あまり期待されていなかった。その理由は「他のメンバーがキング・クリムゾンを好きでなかったから」だと。

一応オーディションしてみたら、意外にも一番しっくり来たので選ばれたらしい。

ウィキペディアによればボズ・バレルはキング・クリムゾンに当初ボーカル担当で入ったが、『アイランド』収録前にベーシストとして予定されていたリック・ケンプがドタキャンしたためロバート・フリップとイアン・ウォーレスが当時ギターをちょっと弾けるぐらいのレベルだったボズをベーシストとして特訓して収録に臨んだとのこと。

ベーシストとしての経験年数が少ないにも関わらずセンスのいいベースでバドカンのリズムの要となっています。

「キャント・ゲット・イナフ」のロックン・ロールのベースもいいし、「ムーヴィン・オン」のベースラインは動きが楽しくて魅了されます。

追記

10代で行った2度目のロック・コンサートはバッド・カンパニーでした。
さらに長い年月を経て一番最近行ったロック・コンサートもバッド・カンパニー。2016年のロンドン公演でした。

ギタリストのミック・ラルフスが晩年のグレッグ・レイクに近い肥満体になっていて、一緒に行った友達と「これはちょっとまずいんじゃないの?」と話していたら、
案の定というか公演の当日か翌日に脳卒中で倒れ、命は落とさなかったもののそれ以来ステージには立っていないようです。

ボズは60歳で早くも鬼籍に入っているし、オリジナル・メンバーによるバッド・カンパニーが聴けないのは寂しい限りです。

バッド・カンパニーに限らず70年代に活躍したミュージシャンは70歳前後になっていますが、くれぐれも健康に気をつけて長く音楽を聞かせてほしいと思います。