ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

ELP「展覧会の絵」はひたすら楽しい!

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今晩は。バーチャル・パブの倫敦きつね亭です。
今日の名盤はELP展覧会の絵』。


ご存知のようにELPキース・エマーソン(k)、グレッグ・レイク(b、g)、カール・パーマー(d)の3人で編成したキーボード・トリオです。

残念ながらキースとグレッグは昨年逝去されましたが、カールは今もソロ・ツアーなどを行っています。


先月にはグレッグの回想録『Lucky Man』も出ました。

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Amazon.comより引用)

スリムだった頃のグレッグ、少女漫画に出て来そうな美青年です。
今現在、日本語版はまだ発売されていないようですね。

 

展覧会の絵』はライブ録音で、ムソルグスキーの『展覧会の絵』をラベルが編曲したものがELPバージョンの土台になっています。

 

さて今夜はモスコ・ミュールをお供にアルバムの魅力を語り合いましょう。
ロシアのウォッカをジンジャーエールならぬ英国のジンジャー・ビールで割ったカクテルです。今日の音楽にぴったりでしょ?

展覧会の絵』は何と言っても全編通してひたすら楽しい。

たとえば「小人Gnome」の冒頭。パーマーのドラムスとベース、キーボードの掛け合いが実に面白い。


ドラムスの問いかけに余白で応え、次にキーボードで応え、ベースで応え、次にドラムスとキーボードの問いかけにベースが応える、という遊びがあって、演奏者3人も楽しんでるんでしょう、映像を見るとパーマーさんがキーボードのほうを見て、笑顔をみせてぺろっと舌を出しています。

 

次に「古い城」からガンガンに飛ばながら入る「ブルース・バリエーション」のノリの良さ。ちびまる子みたいなピーヒャラ、ピーヒャラに聞こえる箇所もありますが‥‥。

 

後半では「バーバー・ヤーガの呪い」。これが凄い。

ムーグのグワワワという音に続いて、短いベースのフレーズが入り、ベースとムーグが同じメロディを奏でていたかと思うと、あれよあれよという間に、ちょっと待って。
ドラムスとベース、相当面白い事していません? 
ジャズというべきかなんというべきか、全楽器がそれぞれインプロビゼーションをやっているんじゃないかと。ベースだけ聞いてもドラムスだけ聞いても各々面白いのに、キーボードと合体してもう絶妙としかありません。

パイプ・オルガンが美しい

冒頭の「プロムナード」。最初ハモンド・オルガンかと思って、でもハモンドでこんな音が出るの?どう聞いてもパイプ・オルガンに聞こえる、と思っていたら、やはりエマーソンさん、本当にシティ・ホールの40年前のパイプ・オルガンを弾いていた。どうりで荘厳で厳粛な響きです。

終章の「キエフの大門」にも使われており、しばし心を洗われる響きです。バーバー・ヤーガー婆さんの呪いもここで解けそうです。

「賢人(Sage)」と「キエフの大門」のレイクのボーカル

グレッグがベースをアコースティック・ギターに持ち替えて「賢人(Sage)」、この弾き語りはプログレ曲の中でも突出して美しい曲ではないでしょうか。
アルペジオによるコード進行がときにバロック音楽のようで妙に懐かしい調べです。

グレッグの声質はSageのような哀愁漂う曲もいいのですが、「キエフの大門」「聖地エルサレム」のような古典的な曲によく合いますね。
古い言い方をすれば朗々とした響きのある声です。「Sage」、中盤の「プロムナード」は悩みと混沌に満ちた暗い歌詞ですが、「キエフの大門」では魂が浄化を表すかのような晴れやかな歌い方をしています。

エマーソンのムーグの使い方

ムーグ・シンセサイザーの開発者ムーグさんはエマーソンに、「ムーグはステージ向きじゃないからステージで使うのは止めたほうがいい」と言ったそうです。


が、今となってはムーグのない『展覧会の絵』は想像できません。

 

たとえば「小人」。まちがってもディズニーやアメリに出てくる可愛らしい小人じゃありません。

泥から生まれた醜く邪悪そうな小人が獲物を求めて地面を這い回るようなイメージをムーグ、ベースの重低音、ドラムスで上手く表現していて、ここだけの話、オーケストラの吹奏楽で演奏しているラベル版よりも迫力があります。

小人」の最後に地の底から吹いて来たような風の唸りも、この曲に物語り性を付加しています。

 

バーバ・ヤーガ」でもニワトリの足の上に建った小屋に棲んでいて、人間の子供を攫って食うという悪い妖怪婆さんの不気味さは、ムーグのグワーグワー音なしには表現できないでしょう。

脈絡なく妖婆の家の画像です。ムソルグスキーが実際にみたハルトマンの描いたバーバ・ヤーガの小屋。小屋というよりもハト時計みたいですが。

 

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曲と曲の間のつなぎにもムーグがうまく使われています。小人からSage。
さらに「Sage」の弾き語りに対する観客の歓声と拍手が鳴り止まない中、次の「古い城」に導入する箇所。


ここは、来たかムーグ攻撃!という感じです。キィーン、ビィーンと、この辺はもう歯医者のドリルです。


  先生、痛かったら手を挙げていいですか?


あ、あまりほめていませんね。
ムーグを使っている場所はほとんど即興で演っているのだと思いますが、即興性に大きな魅力があります。

キエフの門のカウベルチューブラベル

実は全編を通して一番好きなのがここなんです。前述のパイプ・オルガンの後に、キースのピアノとカールのカウベルもといチューブラベルが何とも妙なる音色を響かせます。


繊細なレース編みというか、ひらひら舞う雪の結晶というか。実に優しく可愛らしいフレーズです。全体にテンションが高いこのアルバムの中でふっと微笑みたくなる場面です。

まとめて見ると、『展覧会の絵』はライブならではのノリのよさに満ちていて、3人の即興による面白さが大きな魅力になっていると言えるでしょう。


このライブ、知らないうちに録音されていたらしく、メンバー達は不本意だったようですが、これだけ本人達も楽しんでいて観客も視聴者も楽しませてくれるとは、やはり大成功の作品に違いありません。

さて『展覧会の絵』、皆様のお好きな場面はどこでしょうか?