四人囃子の1作目『一触即発』が面白すぎる
今を去ること30数年前、洋楽に没頭していた私に「四人囃子っていいよ」と言った知人がいまして、その時は「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」と「ブエンディア」をさらっと聞いて、「面白いね」と適当に話を合わせていた記憶があります。
今、『一触即発』をあらためて聴いて度肝を抜かれました。
これマジでめちゃくちゃ面白い。
当時一体何を聞いていたのでしょう。
1974年のメジャーデビュー1作目にして代表作このアルバム、収録曲は「hΛmǽbeΘ」「空と雲」「おまつり」「一触即発」と「ピンポン玉の嘆き」。CDバージョンには「空飛ぶ円盤」と「ブエンディア」がボーナストラックで入っています。(嬉しい紙ジャケ)
参加メンバーは森園勝敏(g、v)、中村真一(b)、岡井大二(d、pc)、坂下秀実(kb)石塚俊(コンガ)。ボーナストラックのベースは佐久間正英、Kbが茂木由多加。
歌詞は四人囃子の知人のコピーライター末松康生が担当しています。
「空と雲」
自分はこの曲が一番好きかもしれません。
「長く細い坂の途中に、お前の黄色いうちがあったよ」
「ともだちがくれた犬を連れてった」
「そのあたりには古いお寺が沢山あって」
という普通の日常を描いているようで、どこか異世界を垣間見てしまったような違和感。
末松康生のシュールな歌詞に合った絶妙なリズムとメロディなのか、はたまたリズムとメロディの不穏さがシュールな世界を増幅しているのか。
キーボードソロ、ギターソロ、いいです。
ベースも最高。
「おまつり」
ギターとベースの絡みが切ないほど美しいイントロに続いて、末松氏の描く異世界が展開します。
いつもお祭りがある町に行くとみんなが輪になって踊っているが、自分は人の足を踏んでうまく踊れない。歌を歌う番になっても歌詞を忘れて節だけ歌ったらみんなに殴られた。
お祭りのある町に行くといつも泣いてしまう。
ライナーノーツを書いている湯浅学氏は筒井康隆の「熊ノ木本線」を思い出すらしいです。自分的は恒川光太郎の描く夜市の世界を連想しました。
というか疲れている時に見る嫌な夢のようです。
森園さんのヴォーカルがいい。
上手いというかこの奇妙な異世界が脳内に映像を結ぶのに邪魔にならないというか。
ギターのソロも見事だし打楽器のキレも好きですが、この曲中村さんのベースの存在感が際立っています。
「みんなで一つずつ唄を歌うことになって」の部分の歪ませたヴォーカルのSE、さらに終盤のパーカッションとシンセサイザー、不思議な海鳴りと鳥の声。
聞きどころ満載の面白い曲です。
「一触即発」
タイトルナンバーだけあって圧巻です。
シンセサイザーのイントロに続いてハードロックのような冒頭部分。
ギターがビンビン唸っていると思ったらキーボードがいい感じに入ってくる。
ピンク・フロイドを思わせるトローンとした空気の中で例によって摩訶不思議な歌詞。
「ああ空が裂ける、音も立てずに」
後半は万華鏡のようにめまぐるしく転調そしてリズムチェンジ、「吹けよ風、呼べよ嵐」を連想させるリズムと飛ばしまくるギター。
次は何が出るのかと一瞬も気が抜けません。
これだけいろんな様子を組み合わせて12分間一瞬も惹きつけて離さない。
圧倒的な構成力にただ感嘆するのみです。
「空飛ぶ円盤に弟がのったよ」と「ブエンディア」
ボーナストラックとしてシングルでリリースされた2曲が入っています。
丘の上に弟と立っていると音もなく銀色の円盤が降りてくる。
「映画に出たことがない人は乗せてあげられない」と円盤(擬人化!)が「すまなそうに」いう。
弟は一度だけ映画に出たことがあるので円盤に乗る。
で「あとはススキが揺れるだけ」
って結局弟どうした?無事におろしてもらったのかというのは野暮というもの。
キレのいいリズム。心地いいギターソロに彩られた曲です。
「ブエンディア」はドラムの岡井氏の曲。
ハンコックの「カメレオン」を連想させる短いイントロに導かれメロトロンのバックミュージックが入ったあとエレピがイージーリスニングのようなメロディを奏でます。
これは30数年の時を経ても覚えていたメロディでした。
ベース、さらに時折入るギターもグッドです。
最後に
四人囃子は日本のピンク・フロイドと称されることもあったようですが、もし共通点があるとすれば独自の世界観を卓越した演奏で創造しているという点でしょうか。
英国プログレが西欧世界をバックに構築した独自世界なら、四人囃子の場合は「和」の異世界を創造している、という印象です。
『一触即発』では、作詞の末松氏と森園勝敏氏が織りなす日常の隙間に潜むパラレルワールドを堪能させてくれます。
個人的には中村真一氏のベースが推しです。ドラムもすごいけど。
まだ聞いてない方は是非、と声を大にして言いたいアルバムです。
こちら全曲です。