夏だ!祭りだ!『ウッドストック』最終回 -CSN&Y、ジミ・ヘンドリックス他
今回は『ウッドストック』ボックスの4枚目、最終回です。
4枚目の出演者は
CSN&Y
ポール・バターフィールド&ブルース・バンド
SHA NA NA
ジミ・ヘンドリックス
クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(CSN&Y)
CSN&Yはこのボックス・セットで最多の6曲が収録されています。
曲名は
青い眼のジュディ (Judy Blue Eyes)
グィネヴィア (Guinnevere)
マラケシュ行急行 (Marakesh Express)
4+20
シー・オブ・マッドネス (Sea of Madness)
自由の鐘(Find the Cost of Freedom)
最初の3曲は、以前アルバム『CSN』で言及しました。
スタジオ録音に勝るとも劣らない一糸乱れぬハーモニーは見事としか言えません。
「青い眼のジュディ」の構成の面白さ、「グィネヴィア」の絵画的な美しさ、「マラケシュ行急行」の映像的な楽しさ。
スティルスと同じくバッファロー・スプリングフィールド出身のニール・ヤングを加えて、ギターにもヴォーカルにもより奥行きが生まれています。
「4+20」はスティルスの作品で『デジャ・ヴ』に収録されています。
貧しい幼少期を経て24歳になったが、今は金銭的ではなく精神的な貧しさに苦しんでいるという歌で、愛する女性も戻らないという部分は時期的にジュディのことでしょうか。
「様々な色彩の獣(many colored beast) を抱擁する」という部分はずっと分からなかったのですが、こうして改めて聞いてみると辛さを紛らわすために友としたドラッグの様に聞こえます。
複数のアコギの綾なす美しい調べと淡々としたヴォーカルが終わりの見えない苦しみを訴えています。
Occupying Woodstock 1969! 4+20 CSNY
次の「Sea of Madness」はニール・ヤングの曲で、Iron Maidenの同名異曲の様に狂っているというネガティブなマッドネスではなく、愛する彼女をどうしたら自分と同じぐらい狂おしい気持ちにさせられるのか、という歌詞の明るい曲です。
エレキギターのソロもオルガンとベースの入り方も好きです。
「Find the Cost of Freedom 」
邦題は「自由の鐘」となっていますが、自由の代償という意味で、ベトナム戦争の兵士にとって自由を得る代償は死しかないという反戦の歌です。
インド音楽を思わせるギターのイントロが印象的。
途中から入る「母なる大地がお前を呑み込み、お前の体を横たえる」というアカペラのコーラスが怖ろしくも美しい。
この曲はアンコール曲であっという間に終わります。
ポール・バタフィールド・ブルース・バンド (Paul Butterfield Blues Band)
ポール・バタフィールドはアメリカのブルース・シンガー兼ハーモニカ・プレイヤーで
収録曲は「ラヴ・マーチ(Love March)」。
「さあ皆さん、疲れていなければマーチに合わせて会場を歩き回りましょう」とポールの呼びかけ。
トランペットの合図とティンパニが入って行進曲風。
この曲はパスしようかと思ったところで、スロー・テンポに変わりベースとギターがいい感じ。
さらにジャズ・ピアノが入ってジャズ・フュージョンに。ピアノ、ギター、ベースにブラスが心地いい。最後はまた行進曲に戻るという不思議な曲です。
次のSHA NA NAは「At the Top」という50年代風の曲でピアノが印象的。
ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)
大トリのジミ・ヘンドリックスは日曜の夜に出るはずだったのに予定が遅れに遅れて月曜の朝9時の出演。
彼の出演前に40万人の聴衆の半数近くがすでに帰途に着いていたというから気の毒です。
ジミヘンは2時間にわたり19曲を演奏。
CDの収録曲は「ブードゥー・チャイルド」、「星条旗よ永遠なれ」、「紫のけむり」。 いずれも有名なナンバーです。
が、何と言ってもインパクトが強いのはアメリカ国歌「星条旗よ永遠なれ(Star Spangled Banner)」でしょう。
アメリカのどんな会合でも、国歌が流れると皆が起立し胸に手を当て、ともに口ずさむ。
その国歌をゆがんだメロディに変え、ファズを使って歪(ひず)みに歪ませたギターの音で奏でる。
国歌は何度も繰り返され、そのたびに曲の途中で「ヒュー・ダダーン!」と爆弾の飛来音と爆発音がギターで表現される。
ベトナム戦争で何度も使われたナパーム弾と焼かれる村々を表現するように。
ゆがんだメロディは病んだアメリカとボロボロの星条旗を連想させます。
予想できることですが、ウッドストックでこの国歌を演奏したジミ・ヘンドリックスには多くのヘイト・メールが送られたらしい。
テレビのトークショーに招かれたジミヘンは「なぜあのような演奏をしたのか」と聞かれ、「ごく正統派(orthodox) の演奏だよ。美しいし」と答えています。
自分は愛国心がある、という意思表示もしたと聞きます。
前年にマーティン・ルーサー・キング牧師が、4年前にはマルコム・Xが暗殺された時代背景です。
アフリカ系アメリカ人であるジミ・ヘンドリックスにとってアメリカ国家は白人が抱くのとはまた違った感情の対象だったことは推察に難くありません。
しかし彼なりの愛国心は当然あったのでしょう。
だからこそ望まない戦争の泥沼に陥り、加害者にも被害者にもなって病んでいく国アメリカに対する苦悩を、子供の頃から慣れ親しんだ国歌を歪ませた音で極度にゆがんだメロディで演奏することで表現したのではないでしょうか。
ウィキペディアによるとジミヘンは「愛国心を持つなら地球に持て。魂を国家に管理させるな」という名言を残しています。
それは彼が主張した正論でしょう。
その反面、彼は紛れもなくアメリカという国に愛国心を持っていたのではないかとウッドストックの「星条旗よ永遠なれ」を聞くと思ってしまうのです。
例えそれが、悲しみと怒りを含んだ愛情であったとしても。
映像は延々と繰り返される演奏のごく一部です。
Jimi Hendrix - National Anthem U.S.A (Woodstock 1969)
終わりに
4回にわたってウッドストックのボックス・セットを聞き、YouTubeの画像を見て、自分も69年のロック・フェスティバルに行ってきたような充足感です(大げさですが)。
よくこれだけのミュージシャンを集めたものだと思います。
それぞれに魅力のある演奏でしたが、特に印象に残ったのはやはりジャニス・ジョプリン、そしてジョニー・ウィンター、アルヴィン・リー、CCRそして今回のジミヘンでしょうか。
蛇足ですが、Wikipediaによれば招待されて断ったミュージシャンやタイミングが合わなかったミュージシャンにボブ・ディラン、サイモンとガーファンクル、ジェフ・ベック・グループ、レッド・ツェッペリン、シカゴ、ムーディ・ブルース、フランク・ザッパ、ドアーズ、ジェスロ・タルなど当代きっての大物が挙がっています。
バーズなどは「ごく普通の夏のロック・イベントだと思った」から来なかったとか。
残念な話です。
一説によるとビートルズ、ローリング・ストーンズにも招待状が行ったということですから、もし全員が承諾していたら大変なことになっていたでしょう。