ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックをひたすら聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く

ポップスを侮っていけないスティーリー・ダン『プレッツェル・ロジック』の密度

 

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今晩は。ヴァーチャル・パブのロンドンきつね亭です。

今回はスティーリー・ダンの第3作目、1974年発表の『プレッツェル・ロジック』を聴きたいと思います。

 

このバンドはこのアルバム収録の「Rikki, Don't lose the number(リッキーの電話番号)」や「ドゥー・イット・アゲイン)(Do it again)」のヒットで知っていましたが、アルバムをまともに聴くのは初めてです。

スティーリー・ダンは後年ジャズ・フュージョンのミュージシャンとして高く評価されるようになりましたが、このアルバムの頃はポップスを基調にロック、ジャズ、ブルースが同居している印象です。

では、NYのセントラル・パークのプレッツェル売りのおじさんのジャケットに敬意を表してマスタードをたっぷり塗ったプレッツエルをおつまみにバドワイザーでアメリカ気分を。

 

Rikki Don't Lose the Number(リキの電話番号)

ビルボードの4位となったヒット曲。

離れていくガールフレンドのリッキーにこの番号無くさないで、気が変わったら電話くれ、と言っている歌詞なのですが、マリファナを暗喩しているという説もあり真偽のほどは不明です。

フラパンバ(マリンバの親戚)の印象的な音のイントロに続き、ウォルター・ベッカーのベース、ピアノが入ってきます。

ヴォーカルのバックを彩るいい感じのピアノはマイケル・オマーシャン、あれ最近どこかでお会いしたと思ったらロギンス&メッシーナの1枚目にも参加してました。

ドラムは「いとしのレイラ」にも参加した名手の誉れ高いジム・ゴードン(彼はのちに精神に異常をきたし大変な事件を起こしますが、それはさておき)。

このアルバムの後ドゥービー・ブラザーズのメンバーとなったジェフ・バクスターのギターソロが冴えています。

リズムもよくハモリも心地いい。ヒット曲になるべくしてなった曲と言えるでしょう。
ちなみにバック・コーラスにポコのティム・シュミットも参加していますが、これは言われなければ分かりません。


RIKKI DON'T LOSE THAT NUMBER (1974) by Steely Dan

 

 

2曲目の「ナイト・バイ・ナイト」はファンキーな曲。ドラム、クラヴィネットリズムギターが一体となって密に刻み続けるリズムの心地よさ。ドラムは19歳のジェフ・ポーカロで後のTOTOのドラマー。いい仕事しています。

 

「Any Major Dude Will Tell You(気取り屋)」

表題曲、リキと並んで人気のある3曲目です。

気取り屋という邦題に違和感がありますが、これは落ち込んでいる友人を慰めている曲です。

フェイゲン、ベッカーの二人がNYから南カリフォルニアに来た時、Dude(奴)というスラングをしょっ中耳にして面白いと思ったのでタイトルに取り入れたとのこと。
アコギのイントロから始まり電子ピアノとエレキの音色が優しくハーモニーが美しい。
ウェストコースト・ロックの曲という印象です。

 

4曲目のBarrytown(バリータウンから来た男)」

アコギ、ピアノ、フェイゲンの爽やかなヴォーカルで軽やかに流れるようなフォーク・ロック調の曲。

ビートルズの「テル・ミー・ホワット・ユー・シー」にやや似た節回し。

が、楽しげな曲調と相反して歌詞は半端なくキツい。「あんたの出身がどこか知ってるよ。あそこの連中はかなり奇妙だからね」「あんたのおかしな服装、髪形」「敵とは言わないけど、仲間が欲しいなら他に行って探しなよ」「理由のない偏見と思うなよ」とモロ差別発言。

ちなみにバリータウンはフェイゲンとベッカーが行った大学の隣町で、統一教会の拠点があるため教会信者のことか?という誤解釈も見られますが、統一教会がこの土地に拠点を設けたのは1975年のことで曲が出来た後なのでおそらく無関係。

 

5曲目、LPのA面最後は「East St. Louis Toodle-OO」。アルバム中唯一、フェイゲン&ベッカーではなくデューク・エリントンとババー・マイリーの作。ラグタイム風の演奏の中、プランジャー・ミュート奏法(トランペットのベルの前にトイレ詰まりに使うゴムの吸着カップを当てて音を籠らせる奏法)をギターのワウファズで模して興を添えています。

 

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6曲目のParker's Band」チャーリー・パーカーへのオマージュ。
ドラムの歯切れの良さが心地いい。ピアノ、サックス、トランペットを配したジャズの要素を持ちながらヴォーカルのコーラスによってサザン・ロックの様相も呈している面白い曲。

 

次の「Through with Buzz(いけ好かない奴)」はピアノ、ストリングスで始まり、所々チェレスタらしい高音が入る。アメリカのロックというよりもヨーロッパのプログレのバンドがやりそうな曲です。

Pretzel Logic (プレッツェル・ロジック)

表題プレッツェル・ロジックの意味はわかりません。

食べ物のプレッツェルとは関係ないようですが。
吟遊詩人の一行に入って南の国に行ってみたい、とかナポレオンは会ったがないけれどそのうちに時間を作って、とか歌詞も支離滅裂のように思えます。

アメリカ人の評論家が「分からないことを言っているが、自分たちには分かってるんだろうよ」と言っていますので、日本人の自分が分からなくても仕方ありません。

別のバンドの時も書きましたが、こういう重たいブルース系のシャッフルは好きです。

特にズッタ、ズッタと繰り返すブルースのベースから時々遊びに出てくるベースライン。

ジム・ゴードンの重たいドラミングの間にタイミングよく入るシンバル。

その上に被さっているヴォーカルとギターの掛け合い。

この曲のリードギターウォルター・ベッカーですが、かなりの部分をインプロヴィゼーションで弾いているように聞こえます。中盤のギターソロはドラマチックで秀逸です。

後半に入ってくるオマーシャンのピアノ、さらにサックス、トランペットもいい。

この曲にもコーラスでティム・シュミットが参加しています。

 

9曲目はWith a Gun (銃さえあればね)」
君を見たことがある、このドアから走り出してきたのを見た。
金が払えなくなって、手に握った小さな塊で決着をつけたのか。
雨の中に倒れる彼を置き去りにして。
もうすぐ町を離れるつもりなんだろうが、捕まりそうになっても俺に連絡しようと思うなよ。

物騒な歌詞ですが、アコギと美しいハーモニーが印象的。
曲調はアメリカというよりもブリティッシュ・フォークを連想させ、ストローブスの曲だと言われても信じてしまいそうです。

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10曲目の「Charlie Freak (チャーリー・フリーク)」
チャーリーはスラングでコカインの意味で、コカイン中毒のホームレスの死を歌っています。

チャーリー・フリークの全財産は宝石の付いていない金の指輪だけ。

もう5日も何も口に入れていないし、寝る場所もない。

「私」はチャーリーの窮状につけ込み金の指輪と引き換えに端金を渡す。

その金すらもドラッグに使われることを知りながら。

チャーリーが死んだ時、「私」はさすがに罪悪感を覚えて指輪を遺体の上に投げ返す。

この悲劇的な歌詞がピアノ、ベース、ドラムをバックに淡々と歌われます。
後ろに聞こえる女性コーラスのような音声は美しいながら寒気を感じます。
最後の鈴の音は現世の苦しみから解放されたチャーリーの死を暗示しているのでしょう。

 

最後の「Monkey in Your Soul(君のいたずら)」。
君は僕を縛り付けて置きたいらしいけど、もう御免だ。君の心に巣食う「サル」が怖いからね、と言う。
「サル」は罪のない「いたずら」ではなくて何かの依存症の意味でしょう。

ファンキーな曲でブラスが多用されています。

バクスターのギターソロは悪くないけど、全体として最後を飾るには今ひとつインパクトに欠ける曲という印象です。


最後に

一曲一曲は短いけどかなり密度の高い曲ばかりです。

日本発売時の帯には「さわやか革命」と副題が付いていたようですが、いえいえ逆にかなりズッシリ来る作品群です。

ジム・ゴードンジェフ・ポーカロ、マイケル・オマーシャンといったメンバー以外のミュージシャンも高い実力を誇る面々です。

スティーリー・ダンが5人編成の体裁を保っていたのはこのアルバムが最後。

バクスタードゥービー・ブラザーズに入り、フェイゲンとベッカーの2名はさらに洗練された自分たちの理想の音を求めてジャズ・フュージョンで境地を開拓していきます。

その頂点が「Aja(彩)」と「ガウチョ」2アルバムではないでしょうか。

ベッカーは昨年(2017年)に亡くなり、フェイゲンはその後スティーリー・ダンとしてドゥービー・ブラザーズと合同で全米、英国でツアーを行っています。