ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

クマのプーさんも登場するロギンス&メッシーナの1枚目『Sittin' In』

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今晩は。ヴァーチャル・パブきつね亭です。

冬季オリンピックも無事閉幕しましたね。

今季はフィギュア・スケートは男子、スピード・スケートは女子の活躍が目立ってましたね。

さて金メダルの連覇を成し遂げた羽生結弦さん。羽生選手といえばクマのプーさん

クマのプーさんが住んでいるのはプー横丁の家。洋楽界広しといえどもクマのプーさんを題材にしたミュージシャンはケニー・ロギンスぐらいでしょう。

ということで今回はロギンス&メッシーナの『シッティン・イン(Sittin’ In) 』を聴いてみたいと思います。

バッファロー・スプリングフィールドからポコを経て、ミュージシャン兼プロデューサー兼レコーディング・エンジニアをやっていたジム・メッシーナがポコ時代から知己のあったシンガー・ソングライターのロギンスと組んで売り出した1枚目です。


学生の頃は毎日のように聴いていたアルバムですが久々の登場です。
カリフォルニアはロシアン・リバー・バレーのピノ・ノワールがお勧めです。


ロギンス&メッシーナといえば、ハワイ気分満載のフル・セールについても記事をアップしましたので、よかったらこちらもご覧ください。

 

londonvixen.hateblo.jp

 

L&Mのアルバムは、ロギンスが書いた曲、メッシーナが書いた曲が各々の個性を光らせて混在しています。アルバムの順序とは不同になりますが、ロギンス、メッシーナ、共作の順で数曲を取り上げていきたいと思います。

ケニー・ロギンスの曲  

ダニーの歌(Danny's Song)

このアルバムにはケニー・ロギンスが作詞・作曲・ヴォーカルを担当している曲が5曲入っていますが、最も有名なのがダニーズ・ソングでしょう。数多くのミュージシャンによってカバーされていて、アン・マレーのバージョンが有名になりましたが、何と言っても本家のが圧倒的にいい。

この曲はケニーの兄のダニー・ロギンス(ちなみに「Please come to Boston」がヒットしたデイヴ・ロギンスは再従兄弟(はとこ)らしい)が息子を授かったときに贈った曲。

今聴いてみてもいい曲です。

ロギンスによる弾き語りで始まり、右スピーカーから入ってくるメッシーナのギター。
2台のアコギの織り成す調べの美しさ。フィンガリング・ノイズすら美しい。

さらにピアノ、アル・ガースのヴァイオリン、ミルト・ホーランドのテンプル・ブロックを思わせるパーカッションの音。後半のヴァイオリン・ソロもいい。

Even though we ain’t got money, I am so in love with you, honeyのような「お金はないけど愛があるから」のように訳せばベタすぎる歌詞ですらメロディーの美しさで全然気にならなどころか、いつの間にか一緒に歌っている自分がいる。曲の力恐るべし。


続く3曲目のヴァヒヴァラ(Vahevala)。昔船乗りだった時のことを思い出す。大海原を漂い、ジャマイカにでも寄れば可愛い娘たちが出迎えてくれる‥。

この曲は作詞作曲のクレジットがダニエル・ロギンスとダン・ロッターモーザーとなっているので、おそらく曲を書いたのは「ダニーの歌」を贈られたケニーの兄。 のちの「フル・セイル」を思わせるカリプソ風の陽気な曲でパーカッションが活きています。

 

5曲目のバック・トゥー・ジョージア(Back to Georgia)はファンキーな曲。ロギンスは弾き語りの歌もファンキーなノリの良い歌もともに得意としています。のちにフットルースでブレイクしたことを考えると当然とも言えますが。


プー横丁の家(House at Pooh Corner)

A.A. ミルンの原作の児童文学を主題歌にしたこの曲は最初ニッティ・グリッティ・ダート・バンドのアルバム(Uncle Charlie and His Dog Teddy)に収録されてリリースされました。


L&Mバージョンは、意外にもムーグ・シンセサイザーハモンド・オルガン、オーボエによるイントロ。ロギンスの伸びのある声が、ほのぼのした童話世界を紡ぎ出します。2台のアコギのコンビネーションの美しさは「ダニーの歌」同様です。
ミルト・ホーランドのコンガ、シェイカー(シャッシャッという音)、テンプル・ブロック、ゴングも面白い。

このほのぼのした物語世界「クリストファー・ロビンとプーがいた時代」はそこにあるようで、もう存在していない。だけど森の一画に行くと、まだそこにクマのプーさんがいてミツバチの数を数えたり、空に流れる雲を見上げたりしているような幻想がある。シンセサイザーの音が森に立ち込める靄のようにプーの世界と大人の現実世界を薄いヴェールで隔てているかのようです。

 

 

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ジム・メッシーナの曲


リッスン・トゥ・ア・カントリー・ソング

ジム・メッシーナ自身はこのアルバムに3編の曲を書いていますが、アル・ガースとの共作のこの曲はいかにもメッシーナらしい作品です。

古きよき時代のことでしょう。土曜の夜にカントリー・ミュージック好きの親戚が集まって音楽大会。

父さんと伯父さんはギター、兄さんがフィドル、母さんはマンドリン。町の老シェリフまでがふらりと入ってきてバンジョーを手にしている。親戚の男が背後からスウ姉さんに近づいてくけど、柔道の心得がある姉は振り向きもせずに背負い投げを食らわすというコミカルなエピソードも入っている。

メッシーナのつぶれた声はカントリー調のロックンロールによく合っています。さらにマイケル・オマーシャンによるホンキートンク・ピアノとアル・ガースのフィドル(ヴァイオリン)のソロがかっこいい。これぞカントリーのフィドルという感があります。ドラムはブラッシュ・ドラムでチャッチャッという音を出しているのが面白い。

途中にスチールギターのソロが入ったかと思ったら楽器リストにスチールギターが載っていないのでエレキで出した音なのでしょう。

メッシーナがソロの前に「Take it, Alex」とミキサーのAlex Kazanegrasに指示した掛け声まで入っていて、スタジオ録音なのに親戚が集まって田舎の家で楽しくセッションしている和気藹々の雰囲気が醸し出されています。


L&M共作の曲

トリロジー(Lovin' Me, To make a Woman Feel Wanted, Peace of Mind)

このアルバム中、ロギンスとメッシーナの二人で共作したのはこの三部作のみ。
しかもLovin’ Meメッシーナが、Peace of Mindはロギンスが書いているので、真ん中のTo make a Woman Feel Wantedのみが二人による作品です。

この3部作、まず二人のハーモニーが非常にきれいに決まっている。さらにファンキーな1部目からロックンロールの2部目のつなぎのオルガン・ソロがすごくいい。
2部目はラグタイム・ピアノも入って縦ノリの曲。交互にヴォーカルが入ってやがてハーモニーになるという、のちのL&Mにもよく出てくるヴォーカルのパターンを取っています。
1部目、2部目ともにラリー・シムズのベースが素晴らしい。
3部目はロギンスによる美しい曲でフルートもいい。
全体を通してみて、バッファローともポコとも違うL&Mの音がこの3部作で出来上がっていると言えます。

最後に

ジム・メッシーナのプロデューサーとしての力量は「フル・セイル」の記事でも触れましたが、ケニー・ロギンスという稀有なソングライターを見出し「売れる商品」に作り上げた能力はやはり流石というべきか。

一方で、ポコでもバッファローでもなく、ケニー・ロギンス単体とも違うL&Mの音というのができていて、このアルバムでは上記にあるようにトリロジーでその端緒が窺えます。

また、ニッティ・グリッティ・ダート・バンド出身でポコのメンバーでもあったアル・ガースが器用にもテノール・サックス、アルト・サックス、リコーダー、ヴァイオリン(カントリー調のフィドル弾きも含め)、ヴィオラ、スチールドラムを演奏しているのも特筆に値するでしょう。

近年また二人で活動している映像がネットで見られます。上からで恐縮なのですがハモリに今ひとつ往年の冴えが無いように思えてちょっと残念です。