ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックをひたすら聴く

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ジェスロ・タル『天井桟敷の吟遊詩人』は英国伝統フォークとへヴィー・ロックの華麗な癒合

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今晩は。ヴァーチャル・パブきつね亭です。

今日の演目はジェスロ・タル天井桟敷の吟遊詩人(Minstrel in the Gallery)』というアルバムでいきたいと思います。

1975年にリリースされたジェスロ・タル(通称タル)の9枚目のアルバムで、作詞作曲、ヴォーカル、フルート、アコギを手掛けるバンドのフロントマン、イアン・アンダーソンを中心に、ギターのマーティン・バー、キーボードのジョン・エヴァン、ドラムのジェフリー・ハモンドハモンドが参加しています。 

このアルバムには、やはりイングリッシュ・エールそれもブラウン・エールをお勧めしたいと思います。

天井桟敷の吟遊詩人(Minstrel in the Gallery)

第1曲目の表題作。

天井桟敷というと通常階上の客席のことらしいですが、このギャラリーではジャケのイラストのように演じる側が陣取っています。

演者の口上に続き、パチパチとまばらな拍手。続いてアコギとフルートの調べに乗せて中世の吟遊詩人を思わせる節まわし。

面白いことに見る側と見られる側が反転して、吟遊詩人からみた客席の様子が語られています。おしゃべりに興じる老人からカボチャを食べる人、イカサマを働いた工場労働者、オムツが濡れてグズっている赤ん坊、新聞の日曜版のバックギャモンに取組む人、TVのドキュメンタリー制作者にいたるまで、次から次へと脚韻を踏みながら混沌とした世間の縮図が展開していくあたり作詞者としてのアンダーソンのセンスが窺われます。

曲はアコースティックな英国フォーク調から一転して中盤からヘヴィー・ロックの様相を呈します。変拍子の集積を潜り抜け、リズム・セクションが重厚な4拍子を刻み始めると、エレキ・ギターの絶妙なソロ。所々にフルートが絡みます。マーティン・バーはギタリストとして著名とは言い難いものの相当な実力の持主であることが窺い知れます。


ヴァルハラへの冷たい風(Cold WInd to Valhalla)

第2曲目はアルバムの中でも人気の高い曲です。
ヴァルハラは北欧神話の神が住む神殿、死んだ戦士をヴァルハラに誘なう妖女達がワグナーの楽曲でも有名なワルキューレですね。
英国風のフォークからハード・ロックに転じるというタルの曲の一つのパターンを蹈襲しています。

この曲は特に後半のギター・ソロが絶品。ストリングスの入れ方も効果的で、全体的に散りばめられたフルートは風に混じって聞こえるワルキューレ達の叫びのようです。

黒衣の踊り子(Black Satin Dancer)

個人的にはヴァルハラと並んで好きな曲です。
重厚なベースと華麗なフルートの音に導かれ始まるこの曲、こぼれるような可憐なピアノ、美麗なストリングス。いつの間にかワルツのリズムに。徐々にワルツのテンポが増してロックに突入。そしてマーティン・バーのギタープレイ。本当にこのギタリストはもっと知られていいと思います。

フルートがロックの楽器としてソロを張っているのもタルならでしょう。ドラムのシンバル使いも好きです。

レクイエム(Requiem)

アコギ、フルート、ウッドベース、甘やかなヴォーカルによる美しい、美しすぎる曲。
そして残酷な歌詞。微妙に背筋が凍ります。


一羽の白いアヒル/0の10乗=無(One White Duck/010ーNothing at all)

難解なタイトルに難解な歌詞で、イアン・アンダーソン自身が内面と向き合って描いているように思われます。ボブ・ディランのように弾き語っていて、個人的に好き・嫌いの範疇ではありません。ストリングスが美しい。ヴァイオリンのピチカート部分も。

 

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ベイカー・ストリートの女神

17分近い作品。聴き終わって思わず溜息が出ます。
うまいのです。イアン・アンダーソンのヴォーカルが。多少の間奏を挟んで、延々とモノローグのように歌っているのですが、何というか達者としか言いようがありません。
FeelとかHeelのように脚韻を踏んで伸ばしているパートなど、もうクセになりそうです。

主旋律は英国のフォーク調で、中世のイギリスの村景色に似合いそうですなのですが、舞台はロンドンのベイカー街。決っして綺麗とは言い難い街路の様子がが描かれています。

(私事ですがロンドンに住んでいた頃は、ベイカー・ストリートは徒歩距離だったので、ベイカーとかメリルボーンとかいう地名が出てくるだけで、懐かしさで心臓が高なります)

この歌のテーマについては、イアン・アンダーソンが言明していないらしく、ネットでも「これは貧困層の悲哀を歌った政治的メッセージだ」いや「イアン・アンダーソンの青春時代を描写したアンダーソン版『若き芸術家の肖像』だよ」という意見もあり。

テーマが両方にまたがっているとしても、おそらく後者が主軸になっているのではないでしょうか。将来は天井桟敷の吟遊詩人になって、もしシニカルな歌を歌ったら、と言っている少年が登場するところからも。

この曲の楽器も素晴らしく、重厚なのに切れのいいリズム・セクション特にドラミング、フルート、ピアノ、ストリングス、ギター、どれを取ってもいいもの聞かせてもらったという感があります。サビの美しさは絶品です。

 

ちなみにこの曲の終りにイアン・アンダーソンがこの曲を口ずさみながらスタジオを出て行こうとして「I can’t get out!」と叫んでいるのが録音に入っているのはどういう趣向なのでしょうか。

そのあと僅か37秒の小曲「Grace」を経て、リマスター版でないきつね亭のアルバムは終了します。


まとめ

伝統的な英国のフォークとハードロックの融合、確かな演奏技術と全体的を彩るフルートの音色の美しさ。イアン・アンダーソンの歌手としての魅力。

にもかかわらず何故かジェスロ・タルは過小評価されているような気がします。周囲のロック好きからもタルが好きだ、という話が出たことがありません。

70年代初頭の「アクアラング」、「ジェラルドの汚れなき世界(Thick as a Brick)」と並んでこの「Minstrel」も」ぜひ聴いていただきたい秀作です。