ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

もしイーグルスが好きならダン・フォーゲルバーグもぜひ聴いてほしい

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今晩は。ヴァーチャル・パブの倫敦きつね亭です。

 

ダン・フォーゲルバーグ、ご存じですか?

私は昔CSN&Y、イーグルス、ロギンス&メッシーナといったアメリカ西海岸の音楽を聴いていた当時このミュージシャンと出会い、以来『スーヴェニア(Souvenirs)』と『囚われの天使(Captured Angel)』はおそらく100回以上聴いていて、私の中ではIpodiPhoneに永代保存という感じで殿堂入りになっています。


この人はイリノイ州出身のシンガー・ソングライターなのですが、イーグルスなど西海岸のミュージシャンと交流があったため、カリフォルニア・サウンドを思わせる音作りになっているんですね。 後年にアルバムもヒット曲も出て、またベスト・アルバムも出ていますが、私的には初期のこの2枚が何度聴いても飽きない傑作です。

 

今回聴く『スーヴェニア(Souvenirs)』も発表の翌年1975年からイーグルスに参加したジョー・ウォルシュがプロデュースし、同じくイーグルスドン・ヘンリーグレン・フライが1曲ずつ参加しています。

その他西海岸のミュージックシーンには欠かせないドラマーのラス・カンケルが参加。なんとグラハム・ナッシュがハーモニカとバック・ボーカルで入っているのも一興です。

何と言ってもすごいのが、フォーゲルバーグ本人がヴォーカルのほかに、アコースティック・ギター、エレキ・ギター、オルガン、ピアノ、ヴィブラフォン、パーカッション、ムーグ・シンセサイザー、ツィターを弾きこなすという多才さを発揮しているところでしょう。

 

今日はナパの白ワインでいきましょう。

全11曲とも無駄な曲はありませんが、きつね亭の押しは以下の4曲です。

パート・オブ・ザ・プラン(Part of the Plan)

第一曲目にふさわしい明るくノリのいい曲です。

パーカッションーコンガとティンパレス(初めて聞いたけどウッドブロックつけてる?)ーのカンカン音もベースラインも心地いいし、ラス・カンケルのドラムもいい。
12弦エレキってこんな音出すのか、という発見も。
グラハム・ナッシュも入っているらしいハーモニーもきれいに決まっています。

歌詞は生きていくなかで色々つまずいたり、愛を受け入れる準備ができてなくて悩んだりしているけど、いつの日かこうした経験の意味が分かる日が来るだろう、探し求めていた答えが見つかる日がくるだろう、という内容で、作者本人が色々模索しながらも先に希望を感じているのが伝わって来ます。「若いという字は苦しい字に似てる」という昭和の歌謡曲がありましたが、後から振り返ると悩んだりしていた諸々もひっくるめて若さとは素晴らしいものです。

イリノイ(Illinois)

音楽の仕事のためにLAにやって来たフォーゲルバーグはカリフォルニアに馴染めなかったらしい。この曲は故郷イリノイに想いを馳せている望郷の歌です。

スチール・ギターとドラムの基調に途中から入るピアノとエレキギター、ちらりと入るヴィブラフォンが効いています。

3時間の時差と3000マイル彼方にある故郷の収穫と祝祭を想い、「南カリフォルニア、ここの太陽は冷たすぎる。丘陵の金(ゴールド)は荒らされてしまっている」と歌います。

最後に「Illinois, oh Illinois - I am your boy」という歌詞にいたっては、その気持ち分かる、切ないよね、と共感できるものがあります。

ちなみにウィキペディアによればイリノイ州議会は2015年に彼の生まれた8月13日をダン・フォーゲルバーグ・デイに制定する決議を行ったとのこと。

フォーゲルバーグは2007年に56歳で亡くなっていますが、故郷への愛に報いてくれたこの決議には草葉の陰で喜んでいるに違いありません。

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ザ・ロング・ウェイ(The Long Way)

若い恋人たちだった自分たちの過去を「長い長い道のり(long way)を歩いて来た、ただの間違った道(wrong way)だったのかもしれないけど」と振り返り、「もしこれからやり直すことがあるとしても、長い長い道のりをまた行かなければならないことだけは分かっている」という内容の歌詞。さよなら、少なくとも僕らはトライはしたよね、とどうにもならない状況を受け入れる境地です。

この詞の中で「彼女はとても若かったし、自分は負け人間だって勝つことができるとやっと分かりはじめたばかりだった」というすれ違いの表現が秀逸です。

ピアノだけの伴奏の弾き語りにドラムが入り、次いでストリングスとベースが入ります。

ストリングスを入れたためにドラマチックな効果は得た一方でややポップス的な色彩が濃く出ていますが、旋律の美しい名曲であると思います。

 

ゼア’ズ・ア・プレイス・イン・ザ・ワールド・フォア・ア・ギャンブラー(There's a Place in the World for a Gambler)

アルバム中最大の力作です。

アコギと単一のボーカルから始まり、ハーモニーとなり、ドラムス、ベース、ピアノが入りどんどん勢いが増していくという形式に沿った曲ですが、何と言ってもこのハモリの美しいこと。

中盤の間奏では牧歌的なスーザフォンの音色が隙間を埋めつつピアノと絶妙なコンビネーションを展開しています。ピアノのソロも冴えています。

歌詞は2番と3番が特にパワフルで、「女の心には歌がある。真実の愛だけが解き放つことができる歌が」という歌詞に対して「Set it free, oh set it free」というリフレイン、「あなたの深い心の暗闇の中にも光がある」という歌詞に対して「Let it shine, oh let it shine」というリフレインが入る。最後のLet it shineのコーラスになると祈りのような尊さすら感じます。

力強い生命力と解脱を感じさせるこの曲を最後にもってくることで、いいもの聴かせてもらいました、という気分でアルバムを聴き終えることができるのです。

終わりに

このアルバムには若さ故の苦悩と未来への希望が何度かテーマとして繰り返されています。

当時20代初めのダン・フォーゲルバーグだから書けた作品群と言えますが、時を経てこうしたグチャグチャが過去のものになった立場で聴いてみても陳腐さや気恥ずかしさを感じないのは、やはり楽曲としての魅力の賜物でしょう。

一人の女性を描いたスティーブン・スティルスの「青い目のジュディ」が彼個人の恋愛と切り離しても魅力的な曲として存在するように、ダン・フォーゲルバーグの青春の苦悩もその光も、普遍的な美しさを持つ曲の数々として存在しているように思います。

シンガー・ソングライターとしてのフォーゲルバーグの作詞作曲の才能もさることながら、魅力的なアルバムとしリリースされたのはジョー・ウォルシュのプロデューサーとしての力量といえるでしょう。

イーグルス、CSN&Yは好きだけど、ダン・フォーゲルバーグは聞いたことがないという方がもしおられたら、お勧めしたい一枚です。