ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

カンタベリー第2弾は「ギルガメッシュ」

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今晩は、ヴァーチャル・パブの倫敦きつね亭です。

 

 

今回はカンタベリー系の2曲目、ギルガメッシュによる『ギルガメッシュ』を聴くことにいたしましょう。

 

ジャズ・フュージョン系の曲って、ひょっとしてロックしか聴いていない耳にとっては限りなくジャズ寄りなんだけど、ジャズを普段聴いている人にとってはロック寄りなんでしょうか。

ジャズをほとんど聴いていない人間にとって結構ハードル高そうですが‥。

ただジャズにしてもクラシック音楽にしても、さらに言えば絵画にしても、作者が何を伝えたかったかは置いておいて、聞いた人や見た人が脳内でイメージを描けたら、それはそれで作品の聞き方・観方として許される気がします。

 

今日はシングル・モルトのスコッチの水割りで行きましょう。

 

脳内で夕陽が沈む一曲目

まず一曲目。「One End More/Phil's Little Dance/World's of Zin (ワン・エンド・モア、フィルズ・リトル・ダンス、ワールズ・オブ・ジン)」という組曲


あれ吹奏楽器入っていたっけ、というイントロはメロトロンなのでしょう。短いピアノ、ギター、ベース、ドラムスのインタープレイが入ってOne End Moreの部分はあっという間に終ります。

 

次のPhil's Little Danceは非常にノリのよい曲。ドラムス、ベースとクラビネットらしいファンキーなグワグワ音がリズムを刻み、ギターとキーボードがそれぞれ即興でソロを奏でます。
メロトロンがフルートのような音を出しているのと、時折ベースが高音でポーン、ポーンという音を出しているのが面白い。
ウキウキと踊りたくなる楽しい曲です。

 

打って変わってWorld of Zinは物憂げなギターが奏でるメロディアスな曲です。
夕陽、サハラ砂漠の赤い夕陽が脳裏に浮かびました。涼しくなった砂の上に隊商のシルエット、そんなイメージです。

ベースの音がしっかりと地を踏むラクダの蹄。

後半のピアノのコロコロという音が美しく、陽が落ちた砂漠に瞬き始める無数の星を思わせます。

いえ、この当たりのベースの動きとドラムすごいです。ラクダどころではありません。

 

貴婦人とお友達

次の「Lady and Friend (レイディ・アンド・フレンド」。
このフレンドはきっと男性でしょう。

逢瀬を待ちに待った愛人に違いありません。

絹のシーツに横たわる二人。
ベースの美しい音は若く逞しい男の厚い胸。
電子ピアノが白く優しい貴婦人の手のように絡まり、後半のギターのソロはとりわけセクシーで二人の熱い抱擁が目に浮かぶようです。

 

奇妙に心地よい7拍子

Notwithstanding (ノット・ウィズスタンディング)」は心地いい曲です。
聞き慣れないリズムで、解説書を見ると7拍子とある。数えてみたらほんとに7拍。
これで凝ったギターのソロや電子ピアノのソロがリズムセクションとビッタリって結構難しくないでしょうか。

ジャズが背景の人たちには普通のことなのかもしれませんが。

この曲の聞き所はウッドベースの渋い音。ドラムスのシンバルのシャカシャカも心地良いです。

最後の不協和音が入り乱れているパートは何だかユーモラスで、笑いがこみ上げて来ます。

電子ピアノとエレキ・ギターの妙

Island of Rhodes/Paper Boat/As if Your Eyes Were Open (アイランド・オブ・ロウデス/ペイパー・ボウト/アズ・イフ・ユア・アイズ・オープン」


ロウデス、日本読みでロドス島(「ここがロドスだ、ここで跳べ」のロドス島)とFender Rhodesの電子ピアノと掛けていっている感があります。
乾いた高音のベースが同じフレーズを繰り返し、キラキラとした電子ピアノの音が入って来ます。

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こちらロドス島です


このピアノも美しいが、ここのドラムスが面白い。リズムはベースに任せてドラムスがテンポを外してかなり遊んでいます。


この曲、中盤のベース、ピアノ、ドラムスが面白いですが後半、「アズ・イフ・ユア・アイズ・オープン」に入ってからのギターのフィル・リーのソロとクラビネットのグワグワのグルーブ感が秀逸です。

 

We are all/Smeone else's food/Jamo and Other Boating Disasters (ウィー・アー・オール/サムワン・エルシーズ・フード/ジャーモ・アンド・アザー・ボーティング・ディザスターズ)。
タイトルを間違えて続けて読んでしまいました。
We are all someone else's food - boating disaster。メドゥーサ号の筏かヒカリゴケか。海の遭難事件ー食べ物がなくなれば自分も誰かに喰われる。いえ、そういう話ではありません。

そういう話ではありませんが、冒頭からの電子ピアノとエレキギターの美しいが奇妙で不気味な旋律が組曲の中盤まで受け継がれていきます。

これはギターの美しい曲で、キーボードも電子ピアノ、クラビネット、ピアノと姿を変えて絡んでいき、時折シンセサイザーの音が入るのが面白い。

終盤近くで女声のヴォカリーズが、インスツルメントの一部として入っているのが効果的で、海の妖魔が碧い波間に長い髪を揺らせているイメージが脳裏に浮かびます。

珠玉の小品群

このアルバムには1分弱から1分半の小品が3曲収められており、いずれも短いながら長い組曲の幕間として効果的に使われています。

Arriving Twice」は電子ピアノのキラキラと可愛らしい音とアコースティック・ギターの織りなす心が洗われるような曲。

For Absent Friends」はクラシック・ギターのソロ曲。ジェネシスの同名異曲が子供達の死を扱っているようなのに対し、大人の女が昔を回想しているようなイメージがあります。年老いたフランスの女優が一人でゴロワーズの煙をくゆらせながら昔の仲間達を回想している姿です。

最後のピアノ曲は高かったテンションをふっと抜いたところでアルバムを終らせる役割を担っているように思います。

終わりに

このアルバムについて視聴者がネットに載せたコメントを見ると、まずは当然ながらメンバーのテクニックに驚嘆する意見が圧倒的に多い。


一方で、日本のサイトではあまり批判が見受けられないものの、英米のサイトでは「技巧に走りすぎて曲が無味乾燥」「1曲も頭に残らない。口ずさむこともない」という意見も散見されます。

たしかにきつね亭も最初の1回目は聴いたときはさらりと聞き過ごして印象が薄い曲が多い印象を受けました。

が、二度、三度と繰り返し聞くうちに、技巧のすごさもさることながら曲の面白さが際立ってきました

「We are all」の奇妙なイントロのギター、「Island of Rhodes」のベースラインは数日間頭を離れてくれないでしょう。

また勝手ながら、曲を聴きながら視聴者がイマジネーションを膨らませることができるのも、このようなインスツルメント曲の面白さといってよいのではないでしょうか。