ロンドンきつね亭 私的ライナー・ノーツ

60年代後半から70年代の黄金期のロック名盤・名曲をひたすら聴く

60−70年代ロック 最も美しい曲ランキング!

今晩は。ロンドンきつね亭です。

今回はちょっと趣向を変えて、60-70年代ロックの最も美しい曲ランキングのトップ10をやってみたいと思います。


美しい、と申しますと非常に漠然としておりますが、取りあえずメロディが美しい、ボーカルや楽器の音が美しく心の琴線に触れる、という全く主観的な立場から独断と偏見で決めさせていただきます。

 

お酒はお休みにして、紅茶にキュウリのサンドイッチとスコーンでおくつろぎください。もちろん自家製のクロテッド・クリームと苺のプリザーブもお付けいたしましょう。

 

では第10位から参りましょう。


イーグルスの「ハリウッドワルツ(Hollywood Waltz)」 
『One of these Nights』収録

「春、アカシアの花が咲く頃、南カリフォルニアの一日がまた始まる」という出だしのこの曲を聴いて以来、LAに行くたびにどれがアカシアの木だろうと気になっておりました。そのうち現地の人がこれがアカシアだと教えてくれたときには素直に感激したものです。


何人もの男達に尽くして利用され捨てられる、愚かだけど愛すべき女性。

彼女にワルツを捧げよう。欠点はあるが彼女を愛そう、彼女は得るよりも多くのものを与えてきたから。

滑らかなスチール・ギターと繊細なマンドリンの音色をバックに、ドン・ヘンリーが切ないけど癒しと希望を暗示する歌詞を歌っています。


ちなみにドン・ヘンリーのインタビューによると、この女性は具体的な人物ではなくLAを擬人化したもの、との事。


娼婦のように奔放だけど野心のある者たちに夢を見させてくれる天使の街、ロス・アンジェルスということでしょうか。

 

第9位 ローリング・ストーンズ「As Tears Go By(涙あふれて)」

ミック・ジャガーキース・リチャーズが作詞作曲し、女優で歌手のマリアンヌ・フェイスフル(のちのミックの彼女)によるシングルがヒットし、のちにストーンズのバージョンが発表された曲。

フェイスフルのバージョンもYouTubeで聴いてみましたが、やはりストーンズのほうが断然いい。

キースの6弦と12弦のアコギ、さらに途中からは弦楽のアンサンブルをバックにミック・ジャガーが淡々と歌っています。


「私」は広場に座って子供達が遊ぶのを見ている。

子供達の笑顔。でもそれは自分に向けられたものではない。

お金はあるのに子供達の歌声を買うこともできない。ただ地面に落ちる雨の音が聞こえるだけ。

子供達は自分が昔やっていた遊びをしている。彼らはそれを新しい遊びだと思っているけど。


まだ若いミックとキースが自分たちが失ったイノセンスを歌っているのか、はたまた老人が昔日を惜しむ気持ちを想像して書いたのかは不明です。

 

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若き日のストーンズブライアン・ジョーンズがカッコいいです

 

第8位 クイーンの「39」
『A Night at the Opera オペラ座の夜』収録

ロックには珍しいSFの曲。1年間のスペース・トラベルから戻って来たら、地上では長い年月が過ぎていて愛する者たちはもうこの世にいなくなっていた、という浦島太郎のような歌です。


リード・ボーカルはブライアン・メイですが、フレディ・マーキュリーロジャー・テイラーを加えたコーラスが美しく、ジョン・ディーコンがコントラバスを弾いているのも面白い。


スペース・オデッセイの歌なのに、どこか懐かしく曲調がむしろ私の好きな大航海時代の遠征を思わせるところがトップ10入りの評価になりました。

 

第7位 カンサス「Dust in the Wind (すべては風の中に)」
Point of No Return』収録

この曲をはじめて聴いた時に、これって平家物語の冒頭そのものじゃない?と思いました。


英語版Wikipediaを見たら案の定、日本の戦記物語The Tale of the Heikeに酷似していると記載されていて、やはり考えることは皆同じかと。


「奢れる人も久しからず。ただ春の世の夢の如し。猛き者も遂には亡びぬ。偏に風の前の塵におなじ」(朝日新聞社 新訂『平家物語」より抜粋)


ネイティブ・インディアンの詩にも似たものがあるそうで、作詞・作曲を手がけたケリー・リヴグレンはそちらのほうの影響を受けたのかもしれませんね。


しかし無常の思想が非仏教社会でロックの歌詞になっているとは、お釈迦様でも知りますまい。


ヴォーカルのハーモニー、チューニングの異なる2台のアコースティック・ギター、中盤のヴァイオリンとヴィオラが、メロディーの美しさを引き立てています。

第6位 ジェスロ・タル「Cheap Day Return (失意の日は繰り返す)」『Aqualung(アクアラング)』収録

Cheap Day Return というのはイギリスの鉄道のオフ・ピークの格安日帰りチケットのこと。この邦題は少しずれていますね。


この歌の登場人物はプレストンの駅のプラットフォームでぼうっとして、タバコの灰がズボンに落ちるのも気がつかない。
看護婦がちゃんと父親の面倒を見てくれるんだろうかと心配している。
看護婦ときたら俺にはお茶を振る舞い、サインまでねだってくるんだから、笑えるじゃないか、と言う。


これはイアン・アンダーソン自身の父親が入院して見舞いにいったときの体験らしい。


クラシック・ギターの高音と低音がきれいに絡み、ケルティックな印象を醸し出しています。背景に微かに聞こえるのはオルガン?アコーディオンでしょうか。


1分20秒の短い作品ですがインスツルメントの美しさで6位入りを果たしました。

 

さて、上位5曲の発表です。

第5位 ELP 「Sage (賢人)」
展覧会の絵』収録

前回『展覧会の絵』をデーマにしたときにも触れましたが、アコースティック・ギターのフレーズとグレッグ・レイクの声の圧倒的な美しさで5位が決定しました。

 

londonvixen.hateblo.jp

 

 

第4位 ジェネシス「For Absent Friends」
『Nursery Cryme (怪奇骨董音楽箱)』

これも1分48秒と短い曲です。


美しいピアノとギターをバックにフィル・コリンズの声が心地よく、え、もう終っちゃうの?3分ぐらいの曲にしてほしい、という感じです。


いろいろな解釈がウェブにも載っているようですが、自分には4人の仲良しの少年少女のうち2人がこの世を去って、残った2人がある寒い日曜の夕方に教会に行って亡くなった友達のために祈るという文字通りの状況に思えます。

どのような経緯で4人が2人になったのか。何かシュールな物語の一章のように思える曲です。

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第3位 ユーライア・ヒープ 
『Salisbury(ソールズベリー)』収録

『ソールズベリー』をテーマにした際、この曲についても触れました。

 

londonvixen.hateblo.jp

 

バイロンがファルセットの多重録音でハモっているのが美しい。
のどかな公園とそこに居ない人間の優しくも哀しい情景です。

 

第2位 ジャニス・ジョプリン「Little Girl Blue」
『I Got Dem Ol' Kozmic Blues Again Mama!(コズミック・ブルースを歌う)』収録

突然ですがきつね亭はジャニス・ジョプリンと誕生日が同じです。
加えて言えば、宇多田ヒカル松任谷由実とも同じ誕生日です。
残念ながら3人の方々とは違い音楽的素養はありませんが、誕生日が同じというのは何となく親近感が湧きます。

 

ジャニス・ジョプリンの歌はどれを聴いても、凄いなーとただひたすら感嘆するばかりです。
この「リトル・ガール・ブルー」は、もう何と言おうか、何度聴いても後半には鳥肌が立ちます。

 

この曲でジャニスは実際の少女に話しかけているというよりも自身のインナーチャイルドに語りかけているように聞こえます。


Janis: Little Girl Blue というジャニス・ジョプリンの回想映画が作成されていますが、ジャニスはこの絶望的に孤独な少女である自分を短い生涯を通して引き摺っていたのではないでしょうか。

 

まだ聴いておられない方は、とにかく聴いて下さいとお願いするのみです。知っている方ももう一度聴いてみて下さい。


名盤『Pearl』にもこの曲のライブ版が収録されていますが、これはスタジオ録音のほうがよいと思います。

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さて、第1位の発表です。

第1位 PFM 「Just Look Away (通り過ぎる人々)」
『The World Became the World (蘇る世界)』

ああ何だ、イタリアのバンドのきれいなフォークね。と思ったあなた、ひょっとしてまだお若いですね。


この曲の哀しさ、怖さを実感として感じられるのはアラカン以上です(というわけではありません)。


調子の狂った曲を弾く老バイオリン奏者、公園にたむろして世の中に対して唾を吐いている老人達、「記憶」というオーバーコートを着て、「自己中心」という名のスーツに身を固めている老人達。


この歌詞にはOldという言葉が5回使われています。

この曲の英語版を作詞したときピート・シンフィールドはまだ20代。

彼の視点で見れば、見向きもされない、もっと言うと目をそらされる老人達(今の日本で言えば下流老人)は単なる社会現象にすぎなかったことでしょう。

でも彼らにもおそらく栄光の日々はあったし、夢や希望に心燃やす若者だった時もあった。いま現役の人々がそうであるように。

そうした輝く過去の諸々を「記憶という名のオーバーコート」として着込むことさえ侮蔑と哀れみの対象になってしまう。


こんなやりきれない人々の世界を美しいメロディーでしらっと歌ってしまう。

メロトロン、ピッコロ、フルートの音色が悲しいほど優しい。目をそらして通りすぎていった人々より確実に残酷な気がします。


だから老人に優しくしましょうとか、年を経ているという理由でリスペクトしましょうという気は毛頭ありません。


自分がその立場になったら、ストーンズの「As Tears Go By」のように「自分がやってきたことと同じ事をやっているのに、彼らは斬新だと思っているんだよね」「彼らは生き生きとしていて笑顔で生きているけど、自分は彼らの一員じゃないよね」と寂しく呟くかもしれません。


いずれにしてもボーカル、インスツルメント、少々効いた毒、の全てを総合して「Just Look Away」を一位とさせて頂きました。

 

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写真と投稿内容は直接関係ありません。


振り返ってみると、プログレ・バンドによる非プログレ曲が上位に幾つかランクしていること、選んだ曲がアコースティック曲中心であったことは予想の範囲でした。


また多くの曲目を通じて「無常」がひとつのテーマになったようです。移ろいゆく世の中。取り残される人たち。美は滅び行くもの。


我が世、誰ぞ常ならむ。 
色即是空、空即是色。