ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

ツイン・リードが圧巻、ウィッシュボーン・アッシュの「アーガス」

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ウィッシュボーン・アッシュ(Wishbone Ash) といえば、アンディ・パウエルテッド・ターナーのツイン・リードギターで有名ですが、この3枚目『百眼の巨人アーガス(Argus)』(1972)は特にツインリードの魅力がいかんなく発揮された必聴の名盤です。

 

全曲いいのですが、特に「戦士」「剣を捨てろ」はギターという楽器が嫌いでない限り聴いておいて損はありません。


アーガス自体はギリシャ神話に登場する巨人ですが、このアルバムの曲には登場しません。

アルバムのジャケットといい、後半の数曲といい、どちらかといえば中世の叙事詩を思わせます。

 

ちなみにダース・ベーダー似の後ろ姿のジャケットはヒプノシスの作。

『アーガス』のアートワークをえらく気に入ったジミー・ペイジが『聖なる館』にヒプノシスを起用したという逸話があります。

 

このアルバムの参加メンバーはギターのアンディとテッドの他に、ほとんどすべての曲の作詞者でリード・ヴォーカルとベースを担当するマーティン・ターナー(テッドとは血縁はない)とドラムのティーヴ・アプトン

「時は昔(Time Was)」

恋を失った男が生き方を見直さなければ、とぼやいているような内容の一曲目。

アコギの美しいアルペジオとコーラスにイギリスの草原で風に吹かれるような爽快感。
英国フォークの前半から後半はアップビートのロックに突入。

アンディ・パウエルのギター・ソロがこれでもかというぐらい冴えわたります。
動き回るマーティンのベースがギターに絡んでいくのも粋。

ライナー・ノーツにはパウエルがザ・フーの演奏に参加した時期があったため、初期のザ・フーの雰囲気が入っている、と書いてありますが、そう言われればそうなのかなという感じです。

「いつか世界は(Sometime World)」

世の中から忘れられた人間が、同じような人間に出会うという内容の歌詞。

ここでもパウエルの美しい音色のリードが聞かれますが、何と言っても圧巻なのは中盤に二台のギターがリズムを刻む間に始まるベースのソロ

縦横無尽に動き回るベース、そこに絡んで入ってくるギター。

個人的に躍動感のあるベースが好きなので、ここのソロは何度聞いても楽しい。
アプトンの洒脱なドラミング、そして3−4名のコーラスの美しさも特筆に値します。


ブローイン・フリー(Blowin' Free)

マーティン・ターナースウェーデン人の元恋人のことを歌った歌で、長い金髪がトウモロコシ畑のように風に揺れる様をBlowing Freeと表現しています。

手に入ったと思ったのに遠くにいる彼女は「You can try」とからかうような態度。

「Ash Anthem」と呼ばれ、ファンの間ではアッシュの代表曲として国歌扱いされるぐらい有名ですが、曲調は60年代のポップスを思わせます。

一度耳についたら離れず一緒に歌いたくなる楽しげなハーモニーとテッド・ターナーのスライド・ギターの魅力に異論はありませんが、個人的には同じシャッフルならおまけトラックに入っている「ジェイル・ベイト」の方が好きかも、です。

 


Wishbone Ash - Blowin' Free - 1973


ザ・キング・ウィル・カム(The King Will Come)

ここの「王」はイエス・キリストのことで、キリストの再臨とこの世の終わりの審判の様子が描かれています。炎の中、ラッパと太鼓の音と共に王が来たり裁きの日が訪れる。

昼と夜がチェス盤のように交互に現れ、人は滅び、人は救われる。
天は落ち、地はただ祈るのみ。

ヨハネの黙示録のようなおどろおどろしい歌詞ですが、曲調は英国のトラッド風で吟遊詩人が叙事詩を物語っているような印象があります。

テッド・ターナーディストーションのかかったギターソロの表現力は凄まじくミケランジェロのシスティナ聖堂の天井画をギター一本で表現していると言っても過言ではありません(というのは冗談です)。

重厚かつ歯切れのいいドラミングも心地よく、好きな曲です。


続く「木の葉と小川(Leaf and Stream)」はアコギとエレキによる英国フォークの美しい曲。ギターで出しているのか所々にフルートに聞き紛う音が入っている。


こうした小品に至るまで、このアルバムはよく出来ている。


「戦士(Warrior)」と「剣を捨てろ(Through Down the Sword)」

このアルバムのクライマックスは終盤の2曲。

虐げられた村の者たちが敵に隷属するよりも、鋤を剣に替えて戦士となろうという「戦士」

アンディ・パウエルのギターが憂いを込めて哭きまくっています。

そして敗者も勝者もいない長い戦いを終えて疲弊した戦士が、何かの答を得るために死の淵に立った自分を回顧している「剣を捨てろ」

2台のギターがハモリながら始まって、やがてツインの絡みに突入

何、これ。
あまりのすごさに言葉を失い、ただただ圧倒されます。

例えていうならば、太古の森で2頭の美しい竜がこの世の終わりを憂いて呼応しながら鳴きあっているかのようで。

何度聞いてもこれはすごい。
曲が終わっても溜め息しか出ません。


Youtubeにライヴ映像がありましたが、敢えて貼りません。
これは本当にスタジオ録音でじっくり聞いて欲しいです。

圧巻です


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ボーナス・トラックは「Jail Bait」「巡礼」(ともに『巡礼の旅』収録)、「フェニックス」(『Wishbone Ash』収録)のライブ盤。

どれも素晴らしいのですが、「剣を捨てろ」の感動の余韻にしばらく酔っていたい、という気分からするとリマスターじゃない方がよいかもしれません。

とはいえ、やはり好きな「ジェイル・ベイト」のリンクを貼ってしまいます。

アルバム・ジャケにはヴォーカルはマーティンと書いてありますが、どの映像でのテッド・ターナーが 歌っています。


Wishbone Ash - Jail Bait - 1971

BB&A 『ライヴ・イン・ジャパン』は日本限定のお宝品

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ベック・ボガート・アンド・アピス(Beck, Bogert and Appice、BB&A)は、ジェフ・ベック(g)、ティム・ボガート(b)とカーマイン・アピス(d)によるギター・トリオです。

ボガートとアピスは「キープ・ミー・ハンギング・オン」のヒットで知られるヴァニラ・ファッジの元メンバー。

第1期ジェフ・ベック・グループの解散後にリズム・セクションを探していたベックの眼鏡にかなってトリオを結成する予定になっていたが、ベックの交通事故による入院で棚上げになる。

その間二人はカクタスという新バンドを結成、ベックは復帰して別のメンバーと第2期ジェフ・ベック・グループを結成してアルバムを2枚出しています。

構想から経つこと3年余、ようやくタイミングが合って3人はBB&Aを結成したものの、スタジオ・アルバム1枚、そしてこの『ライブ・イン・ジャパン』を残してバンドは解散してしまいます。

この後ジェフ・ベック「ブロウ・バイ・ブロウ」ワイアード」とフュージョン色の濃い時期を経て、今に到るまで常に進化を続けており、BB&A、それもこの『ライブ・イン・ジャパン』はジェフ・ベックによる最後のロック・アルバムと言ってよいでしょう。

前置きが長くなりましたが、このアルバム、とにかく荒々しくも凄まじいパワーに溢れた逸品です。

BB&Aのスタジオ・アルバムも持っていますが、個人的にはこのライヴの方が断然面白い。

全曲良いのですが、特に好きな演奏を次にあげてみます。

「Superstition(迷信)」

いわずと知れたスティーヴィー・ワンダー『Talking Book』の中の1曲で、BB&Aのスタジオ・アルバムにも収録されています。

アピスが打ち鳴らすドラから収録が始まり、その時点ですでに観衆は熱狂の渦。
ベックはのっけからトーキング・モジュレータ(Talking Modulator)を口に含んで登場。

ゴワゴワ音から一気にメガトン級の「迷信」に突入。

うねるベース、ドラムのシンバル音の快感。

何という心地の良さ。

ベックのギターについてはもはや形容の必要もないでしょう。

(下記の映像は日本公演ではないと思います)


Beck Bogert & Appice - Superstition - 1973


食べ物に例えると最初からこってりしたステーキを出されている感じです。
変な表現ですが音が美味しい。

そういえばBB&Aはヴォーカル担当がいなくて、一時期ポール・ロジャースにも声をかけていたようですが、結局断られたとか。

2曲めの「Lose Myself with You(君に首ったけ)」などは、まさにポール・ロジャースに歌わせて見たかったと思います。

Boogie(ブギー)

BB&Aは3曲めでヤードバーズの『ロジャー・ジ・エンジニア』収録の「Jeff's Boogie」を演っていますが、5曲めで

「さあ、2回目のブギーをやるよ」
「みんな、ブギーでのってくれ」

の声とともに始まるこの曲も超ヘヴィーなのにノリノリの曲。

阿波踊りのステップが似合いそうな畳み掛けるリズム。

何かもう、ドラムがまさに阿波踊りの鉦と太鼓なのが笑える。

Living Alone(リヴィング・アローン)

スタジオ盤のBB&Aに収録してされている曲です。

学生の頃、他校のドラマー、ギタリストとトリオを組んでいたことがあって、不遜にも渋谷のエピキュラスのステージで演ったうちの1曲がこの「リヴィング・アローン」。

失敗したとかそういう次元ではなく、演奏中にギタリストがコードを踏んで滑って転倒。

アンプからコードが抜ける。そこでリズム隊だけでも続けていればそれなりにカッコよかったかも知れませんが、ドラマーが立ちつくし、私もただ呆然という悲劇でした。

BB&Aのライヴ盤のライナー・ノーツを読んだら大阪厚生年金の初日にボガートがステージから飛び降りたらベースのジャックが抜けて、うんぬんと書いてあるので、プロでもハプニングはあるということですね。

冒頭のギターとベースの掛け合いに続くギター・リフ。

中盤からのギター・ソロはこれぞライヴの醍醐味というべきインプロヴィゼーションの妙。

ため息しか出ません。

 


Beck, Bogert & Appice ► Livin' Alone Live in Japan 1973 [HQ Audio]


ステーキの前菜にステーキのメイン・ディッシュを出された挙句に、デザートは「NYチーズケーキでどうだ!」とばかりに、アンコールの濃厚なPlynthとショットガンのメドレー。

 

アンコール曲が終わるや否や「じゃ、さよなら」とあっさりと立ち去っていった様子で、聴衆が興奮冷めやらぬままため息をつきながら帰途についたであろうことが推測されます。


当時BB&Aのコンサートに行った人たちが羨ましい。

 
さて『ライブ・イン・ジャパン』は日本のみで発売された上にWikipediaによれば
ジェフ・ベックの意向により廃盤になっていた」ため1989年にCD化されるまで、レアなアルバムであり、海賊盤も出回っていたとのこと。

 

改めて聞いてみると、日本限定、それも廃盤になっていたというのが本当にもったいない。

ベックのギターはどの曲のどの部分と言えないほど全曲にわたって圧倒されるし、アピスとボガートも最高。そしてライヴ盤ならではの昂揚感。インプロヴィゼーション

ベックは常に前進していて、過去の栄光に浸ることのない稀有なミュージシャンですが、それはそれとしてこのアルバムは十分に世界に拡散できる作品だと思うのです。

 

(下は全曲です)


Beck Bogert & Appice - Beck Bogert & Appice Live (1973) - Full Album

Wow! 誕生日プレゼントに同僚からサプライズでエラい物をもらいました。

昨日1月19日は私の誕生日でした。

別にここで宣伝しても仕方ありませんが。

しつこいですが、ジャニス・ジョプリン宇多田ヒカル松任ユーミンと同じ日です。

前日の金曜日、打ち合わせから自分の席に戻ると大きな包みが。

開けてみると何と、何とギター。
Ephiphone社のレス・ポール

エピフォンはギブソンの傘下ブランドで製造がチャイナというのがアレですが、音は良い(らしい)。

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同僚のロック青年が持っていたものに何人かで小型アンプやギターケース、チューナーを買って付けてくれたようで、思いがけないサプライズに感謝、感謝です。

それにしても身内でも親友でもない同僚にギター丸々もらってよいのでしょうか。

そもそも私はギターが弾けません。

バンドでベースをいじっていたのは遠い遠い昔。
アコギでいくつかのコードを覚えてすぐ放り出したのはさらに昔の中学生の頃。
デジタル・チューニング、やったこともない(昔確かピアノか笛で音合わせやっていた?)

4本弦と6本弦って4つ足の哺乳類と6本足の昆虫ぐらいの違いがあるんじゃ?

 

とはいえ、せっかく頂戴したものを部屋のインテリアにするわけにも断捨離するわけにも行きません。

自分でネットなど見て自習もありですが、まずは基礎は押さえておこうと徒歩圏内に珍しくある楽器屋に行って、

「ギターをゼロから習いたいんだけど」

と聞くと、たまたま時間が空いていた講師が出てきました。

名前はアルヴィン。

名前だけ聞くと何か早弾きの名手のようですが、およそミュージシャンらしくない地味な出で立ち。

顔がアジア系なのは別に構いませんが、髪は短髪でぺったんこ、服装は週末に比較的ダサめのお父さんが家族と郊外のショッピングセンターに行くような格好。

毛糸帽かぶった楽器屋の店員の方がよほどミュージシャンぽい。

 

大丈夫なんでしょうか。

いやこういうジミー氏の方が真面目にきっちり教えてくれるかも。

いやいや、地味だから真面目とは限らない

ちなみにワンフレーズ弾いて見てくれたブルース・ギターは悪くなかった。

 

来週の土曜の朝に予約してもらったのですが、さてどうなることでしょう。
とりあえず何か一曲コピーして弾けるようになる、というのが「今年の目標(Resolution)」に加わりました。

時間、ないよー。

名盤中の名盤『ブラインド・フェイス(Blind Faith)』

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皆さま、遅ればせながら明けましておめでとうございます。

さて2019年の50年前の1969年はウッドストックがあった年で、アルバムでもキング・クリムゾンの1枚目、ストーンズの『Let It Bleed』をはじめ名だたる名作が多く発表された年でした。

ブラインド・フェイスブラインド・フェイス(Blind Faith)』もこの年のリリース。

元クリームのエリック・クラプトン(g、v)とトラフィックスティーヴ・ウィンウッドkb、g、v)のジャムから始まったこのバンドには、同じく元クリームのジンジャー・ベイカ(d)が加わり、さらにベーシストのリック・グレッチ(b、violin)が入ったスーパーグループとして発足当時から注目を集めました。

彼らの1枚目にして唯一のアルバム『Blind Faith』は英国のアルバム・チャート1位、ビルボードのポップ・アルバム1位という記録を残しています。

ちなみに冒頭にアップしたアルバム・ジャケットは英国版(日本版もこれ)で、当時11歳の少女の裸体を使ったこのジャケは公序良俗に反するとされため、私が持っている米国版はメンバー4人が写った何の変哲も無い表紙です。

 

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収録の6曲全てが無駄のない作品群ですが、いち押したいのは次の3曲。

「泣きたい気持ち(Had to Cry Today)」

1曲目はウィンウッドによるブルース・ナンバーで、ウィンウッドの歌唱力が発揮されています。

グレッチのベースとウィンウッドのギターがユニゾンで同じフレーズを繰り返す中、クラプトンの秀逸のギターソロが始まり、やがてウィンウッドとツインリードとなって絡み出す。

イカーの歯切れ良いドラミングも魅力です。

「プレゼンス・オブ・ザ・ロード(Presence of the Lord)」

4曲目はクラプトンの作。
何度も繰り返し聴いた曲です。

何と言っても圧巻のギターソロ

巧いギタリストは数多くいても、ここまで鳩尾(みぞおち)にぐいぐいと食い込んでくるギターソロは少ない。

ウィンウッドのピアノとオルガン、ドラムのシンバル使いも本当に好き。

やっと行くべき道を見つけた、やっと自分の居場所を見つけた、今ならどの扉を開くこともできる、主(Lord)の恩寵によって、という、迷える子羊が神の恵みによってあるべき生き方を見出した。

という信仰告白のような曲に聞こえるのですが、のちにクラプトンは自伝で「どうしても欲しかった新居が手に入ったことを歌っただけ。神とは関係ない」と身も蓋もないコメント。

種明かしなのか照れ隠しなのかは分かりませんが、ガクッとするようなネタでこんなに崇高さ漂う曲が書けるとは恐れ入ります。

 


Blind Faith Presence of the Lord

 

歓喜の海(Sea of Joy)」

5曲目のウィンウッドの曲。
このアルバム中、最も好きな曲で、何度聞いても飽きることがありません。

ウィンウッドはかなり声を張り上げて高音部が潰れていますが、曲調にあった情感を感じさせるヴォーカルです。

中途に入るリズム・セクションのギャロップがいいし、リック・グレッチヴァイオリンのソロ・パートにも癒されます。

「船に乗り歓喜の海に漕ぎ出すのを待つ」「自由に向けて航海に」という歌詞は何かを象徴していますが、作者が言明していないようで、ネットにはさまざな憶測が散見されます。

奴隷の解放のことだとか(多分違うと思う)、死んであの世に行くことだとか(これも違うと思う)、ヘロインによる意識の解放だとか(一番ありがちだが最もつまらない)。

結局、意図したところは分からないけど、ウィンウッドが歌うこの曲を聴くと何かの救いを切実に求める人の心を感じます。

 


Blind Faith ☮ Sea of Joy

 

今回の「押し」にはいれませんでしたが、2曲目のウィンウッド作の「Can't Find My Way Home(マイ・ウェイ・ホーム)」も非常に有名な曲です。

哀愁がただよう英国調のフォークが入った曲で、多くのミュージシャン・グループがカヴァーしています。

ウィキペディアに載っているだけで30数アーティストがカヴァーを出しており、その中には日本のジャズ・シンガー阿川泰子さんや「ジーザス・クライスト・スーパースター」のマグダラのマリア役のイヴォンヌ・エリマンジョー・コッカーなども入っています。

巨人、ドラキュラ、中世の村-空想旅行が楽しめる正統派プログレ『ジェントル・ジャイアント』

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さて今回はイギリスのプログレ・バンドGentle Giant (ジェントル・ジャイアント)で、1970年のリリースの1枚目『Gentle Giant』です。

バンド名は物語の登場人物で、旅の楽団に出会いその音楽に魅了される巨人に由来しているとのこと。

当時のメンバーはフィル(トランペット、サックス)、デレク(v)、レイ(b)のシャルマン3兄弟ケリー・ミリア(kb)、マーティン・スミス(d)、ゲイリー・グリーン(g)。

ジャイアント(Giant)

パイプ・オルガンを思わせるハモンドの荘厳な響きで始まる1曲目。

うねって動きまくる硬いベースの音はシャルマン兄弟の末弟レイ

この曲、ベースもスミスのドラムも圧巻です。

オルガンのメロディはこれぞプログレ、というコード展開。

メロトロンが入る後半は映画音楽を思わせる壮大さがあります。

巨人というのは何かの比喩のようで、新しい世界観、期待の高まり、成功、傲慢といった要素(パーツ)でジャイアントができている、彼の掌に乗って世界を見よう、と歌っています。

このブログで60年−70年代初頭の音楽を集中的に聞いているせいか、あ、またドラッグの比喩かと想像してしまいますが実際のところは分かりません。


Gentle Giant - Giant


続く2曲目の「Funny Ways(ファニー・ウェイズ)」

英国フォークというかトラッドというか、12弦のアコギ、チェロ、レイのヴァイオリンの奏でる旋律がもの悲しく、寂寥とした中世の村の景色を想起させます。
中途でジャジーな部分が入り、ゲイリーのギターソロが聞かれます。

「Alucard」(アルカードまたはドラキュラ)

重いリズムにミニ・ムーグを効かせたヘヴィーなプログレ

不穏な旋律のハーモニーも決まっているし、この曲のオルガン・ソロがすごくいい。
一度聞いたら忘れないフレーズの繰り返しです。

金縛りにあっているような状態で、邪悪な指、とか生ける屍、死にいく人々の叫び、という不吉な夢想をしているような歌詞ですが、タイトルのAlucardはドラキュラ(Dracula)を後ろから綴り直したアナグラム

確かに嵐のドラキュラ城で恐怖が押し寄せてくるようなイメージの曲です。

 


Alucard - Live in Paris


4曲目は「Isn’t it Quiet and Cold (イズンティト・クワイエット・アンド・コールド)」

3曲目のおどろおどろしさから打って変わって、「バスに乗り遅れて一人歩くことになった。今までは一緒に歩く人がいたのに、今はたった一人」という日常の憂鬱(メランコリー)を歌った曲。

レイのヴァイオリン、ゲイリーの12弦、客演のクレア・デンツのチェロ。

ホンキートンク・チューニングのピアノが物悲しい音色を奏で、ヴァイオリンのピチカート、シロフォンの可憐な音色が花を添えています。

発表当時は「ビートルズのよう」と評されたようですが、タートルズのような、あるいは古いイギリスの民謡のようにも聞こえます。

Nothing at All (ナッシング・アット・オール)

アルバム中最も人気のある曲ではないでしょうか。

アコギのアルペジオとベースに乗せて歌われる旋律とハーモニーがとにかく美しい。
正統派イギリスのフォークといったメロディですが、もちろん美しいだけでは終わるわけもなく、左右のギターの巧妙な絡みから中盤はドラム・ソロに入っていく。
スミスの渾身のドラミングにかぶさってミリアーピアノのソロが入っていく様はまるで嵐の中でピアノが鳴っているかのよう。
クラシカルな旋律を奏でていたピアノがドラムの嵐の中で徐々に乱れていって不協和音の洪水に。
予想通りに最後は冒頭の穏やかなハーモニーに戻っていきます。

 


Gentle Giant Nothing At All


次の「Why Not (ホワイ・ノット)」は楽しい曲です。

冒頭部分はヴォーカルをグレッグ・レイクに変えたらELPかクリムゾンの1枚目でも行けそうな感じ。

短いオルガン・ソロに続き、おそらくメロトロンであろうフルートにのせてイギリスというより中世西欧の田舎を思わせる旋律のヴォーカル。

さらに二転三転して最後はギターがビンビン飛ばしてハードロックに突入。
キーボードもなにやらジョン・ロードの様相を呈してきます。

 


Gentle Giant Why Not


最後はThe Queen(ザ・クイーン)」と題されたイギリス国歌(God Save the Queen)のアレンジ。

ドラム・ロールから始まり、トランペット、キーボード、ファズを効かせたギター、大きくアレンジしている訳ではなくオーソドックスな国歌ですが、終わったと思ったら小さな虫が歩いているようなおまけが付いていて笑えます。

女王陛下にもお気に召していただけるのではないでしょうか。

 

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よく技能的に優れていると言われるジェントル・ジャイアントですが、とにかく面白い。

キーボード、ギター、ベース、ドラムのみならずヴァイオリン、チェロ、シンセサイザー、ブラスなど多様な楽器などを駆使して、ドラキュラ城から中世の村、バスに乗り遅れて一人歩くしょぼくれた男などを脳裏に浮かび上がらせてくれます。

何度か聞けば次々に新たな面白さが発見できそうなアルバムです。


また「Nothing at All」をはじめ要所要所のハーモニーの美しさは特質に値するでしょう。

ビートルズとストーンズの好きな曲3曲 [R. ストーンズ編]

1960年代前半から半世紀以上やっていてスタジオ・アルバムだけでも30枚、ヒット曲数知れず、今なお現役というローリング・ストーンズ

全曲を聴き込んでいるファンも数多いと思われる中で、部外者が言うのもおこがましいとは承知の上ですが、ストーンズが一番面白かったのは60年代、アメリカ的商業化にどっぷり浸かる以前ではなかったかと。

言ってしまえば今かりにストーンズのチケットを人からもらったとしてもそれほど熱は入らないかもしれないけれど(多分行きますが)、ブライアン・ジョーンズが存命していた頃のストーンズだったら何に替えても見たかったという気がします。

 

さて、毎日のように聞いても飽きない曲といえばまずこれです。

Paint It Black(黒く塗れ)

英シングル・チャートで1位、ビルボードのHot100の1位。 米国版の「Aftermath アフターマス)」に一曲目として収録。

キースのギターブライアンのシタールのイントロ、ドスドスと入ってくる重くもアップテンポなリズムの心地よさ。

ビル・ワイマンはベースの音にハモンド・オルガンのペダルの音をダブらせて演奏したと言っています。

ヴォーカルのバックに付かず離れずメロディラインを奏でるシタール。


超ヒット曲には動画を貼らないつもりでしたが、こ時代のストーンズがとにかくカッコいいので白黒動画を貼ります。

 


Rolling Stones Paint It Black HD

 

「Salt of Earth (地の塩)」

アルバム『Beggar's Banquet(ベガーズ・バンケット)』収録。

初めて聞いた時に心をわし掴みにされました。

名もない人々、「生まれの賤しい」人々、額に汗をして働く人たちへの讃歌で、階級社会のイギリスらしい曲です。

彼らが集まるようなバーで歌っているような雰囲気がいい。

歌詞が「何かを変えよう」と言うような運動喚起になっていないことから、所詮金持ちロック・スターの戯言という批判もあったようですが、社会的なメッセージソングをストーンズに期待する方が野暮というものでしょう。(ちなみにキースの父は工場労働者で祖父母は社会運動家だったとウィキにある)

曲の途中から入ってくる力強いピアノはもちろんニッキー・ホプキンス

後半のゴスペル・クワイヤーによる合唱に心を洗われます。

 


The Rolling Stones - Salt Of The Earth (Official Lyric Video)

 

「Lady Jane(レディ・ジェーン)」

収録は『Aftermath(アフターマス
ジャガー&リチャーズによるヒット曲。

短い曲ですが、キースのアコギの重録にブライアンのダルシマージャック・ニッチェハープシコードが被さっていく様は得も言われぬ美しさです。

ジャック・ニッチェは作曲者として愛と青春の旅だちカッコーの巣の上でをはじめとする映画音楽で知られています。

「As Tears Go By」でもそうですがミック・ジャガーの訥々の語りかけるようなヴォーカルが本当にいい。

ライブの映像ではハープシコードではなくシロフォンが入っていますが、やはりスタジオ・バージョンのようが好きです。

 


1966 lady jane-rolling stones.mpg


3曲のつもりでしたがもう一曲。

「Sitting on a Fence(シッティン・オン・ア・フェンス)」

米国版のコンピレーション・アルバム『フラワー』の最終曲。

人生の様々なことの決定ができずにどっちつかずの男の歌です。

左スピーカーのブライアンと右スピーカーのキースのアコギ、ミックとキースのハモリ、最後にちらりと入ってくるブライアンのハープシコード、いいなー。

ストーンズらしい曲ではないですが、定期的に聞きたくなります。


若き日のストーンズのTVショーの動画

このマイク・ダグラス・ショーは、かなり気に入っている動画です。


 


Rolling Stones Mike Dougles Show 1964

 

結成後1年半というストーンズが「Carol」、「Tell Me」(日本のGS オックスでは何故か失神ソング(笑))」、「Not Fade Away 」を演奏していますが、面白いのは6:00あたりで入っているインタビュー

(英語が多少できたら面白いので見てみてください。冒頭のおじさん達の会話は飛ばしてOK)

メンバーの名前も知らないトーク・ホストがキース・リチャーズに向かって「こちらのあなたのお名前は?」と訊いていたり。

ここ数年ロンドンでは長髪が流行っているという話題で
「で、ロンドンの床屋はどうしてる」

受けを狙ったマイク・ダグラスの質問に、

「飢えてるだろ(Starving)」といかにもヤラセで言わされてます感アリアリのミックとブライアンの投げやりな返事。

 

さらにメンバー達と対面させてもらえた女性達のテンションの高さ。
キャーキャーと悲鳴。あー、どうしよう!もうダメ、ダメと顔を覆ってジタバタ。
(こらこら落ち着け)
当時らしく装いやメイクは老けているけど10代か20代の初めでしょうか。

「この中で女性に人気のある人は?」との司会の質問に

「いや、特にいないよ」とチャーリー・ワッツ

(いやチャーリーさん、何であなたが答えるの?確かに55年後の未来では一番渋くて素敵だけど)

「ミックは女性より男性に人気があるし」とおそらく一番もてていたと思われるブライアン。

 

今やミックもキースも70代半ば、チャーリーは70代後半。
バンドから離れているがビルは80歳代。

不健全な生活で有名だったキース等が、高齢者になっても生存しているばかりか現役バリバリでやっているとは当時のファンも想像しなかったでしょう。

一方この番組を半世紀後の未来人がこのような形で見るなどとは本人達も想像もできなかったに違いありません。

 

ビートルズとストーンズの好きな曲3曲選んでみました [ビートルズ編]

突然ですが、一番好きなビートルズの曲は何ですか?

多すぎて選べないという方が多いかもしれません。

話が逸れますが、NHKの連ドラひよっこを最近になってDVDでまとめ見しました。

ご存知の方も多いと思いますが、1960年代が舞台のドラマでビートルズの来日公演がエピソードとして出てきます。


多くの熱狂的ファンが武道館公演のチケットが取れずに失意にくれる中、主人公と同じアパートに下宿するお坊っちゃま学生が、親のツテで切符を受け取ります。

彼いわく「僕はああいう音楽は苦手なんだけど、一曲だけいいなと思う曲があるんだ」

これを見ていた視聴者で、種明かしされる前に「ああ、これはあの曲に違いない」と思った方は多いのではないかと思います。はたしてその曲は「エスタデイ」でした。

結局その切符はチケットが取れずに傷心脱力している若い女性ファンの手に渡ります。


さて今回は3曲、個人的に好きなビートルズの曲を選んで見ます。

While My Guitar Gently Weeps (ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス)

The Beatles(ホワイト・アルバム)収録で、ジョージ・ハリソンによる名曲です。
テーマは恋愛というよりも全人類に対する愛と嘆き。

ポールのピアノ、ドラムのシンバルのイントロから入っていく切ないメロディー、それを表現するジョージの重録によるヴォーカルの美しさ。

が、何と言っても圧巻は客演のエリック・クラプトンのギター。
美しい哭きの入ったギター・ソロにぞくっとさせられます。

Penny Lane(ペニー・レイン)

この曲が好きな理由な単純明快。
曲全体で「英国!!」と主張しているためです。

女王陛下の写真を懐に持っている消防士。

雨なのにMac(レインコート)を着ない変な銀行家。

フィッシュ&フィンガー・パイ(Fish & Chips)とか、ラウンダバウト(Roundabout)とか。
この曲のイメージはイギリスの電話ボックスに使われているような鮮やかな赤です。

この曲のポールのベース好き。

管楽器はD・メイソンのピッコロ・トランペットを始め、フルートもピッコロも実に効果的。

最後のシャラシャラというハンドベルも可愛い。

Here Comes the Sun (ヒア・カムズ・ザ・サン

言わずと知れた『アビー・ロード』の収録曲。これもジョージによる名曲ですね。
いつ聞いても清々しい気持ちになれる曲です。

ジョージはこの曲を親友エリック・クラプトンの邸に滞在中作曲したと言います。

イギリスの長い冬の後の暖かな春の陽射しと、ビートルズ内のトラブルからのひと時の解放がこの曲に込められています。

ジョージのアコギとエレキ、ポールのベース、リンゴのドラムに加えて弦楽器(ヴィオラダブルベース)、フルートなどが綺麗に構成されています。

途中から入ってくるリード・オルガン(ハルモニウム)の音色も心地いい。

この曲、ジョージはムーグ・シンセサイザーを用いているようですが、どこがシンセサイザーなのか今一つぴんときません。

 

ピックアップしたのはベタなほど有名な曲ばかりで音源もネットに多々あると思うので今回動画は貼らないことにします。

上記の3曲のほかでは、レゲエのリズムが楽しい「オブラディ・オブラダ」、縦ノリのリズムにのれる「Maxwell's Silver Hummer」(歌詞がエグすぎる)、「Twist and Shout」あたりが次点です。

不思議なことに男性だと「A Day in the Life」が好きという人が周りに多い気がします。

アビーロードといえば

ロンドンに住んでいた頃、アビーロードは住居から目と鼻の先の距離にありました。

最寄りのセント・ジョンズウッドからチューブ(地下鉄)に乗って通勤していたので、駅の近くではしょっ中、あらゆる国からの観光客に「アビーロード、どこですか」と声をかけられました。

「まっすぐ行って右側が、あのゼブラ・クロッシングですよ」とお教えしましたが、ゼブラという表現もあまりアメリカでは聞きませんね。

本当に本当に懐かしいです。

下の写真はある日、通りかかったら人だかりがしていたので見ると‥‥リンゴ役の背が高すぎるし、なぜ緑色のストール?


 

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