ロンドンVixen 60年代ー70年代のロックを聴く

60年代後半から70年代の黄金期を中心にロック名盤・名曲を聴く(時々乱読)

名盤中の名盤『ブラインド・フェイス(Blind Faith)』

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皆さま、遅ればせながら明けましておめでとうございます。

さて2019年の50年前の1969年はウッドストックがあった年で、アルバムでもキング・クリムゾンの1枚目、ストーンズの『Let It Bleed』をはじめ名だたる名作が多く発表された年でした。

ブラインド・フェイスブラインド・フェイス(Blind Faith)』もこの年のリリース。

元クリームのエリック・クラプトン(g、v)とトラフィックスティーヴ・ウィンウッドkb、g、v)のジャムから始まったこのバンドには、同じく元クリームのジンジャー・ベイカ(d)が加わり、さらにベーシストのリック・グレッチ(b、violin)が入ったスーパーグループとして発足当時から注目を集めました。

彼らの1枚目にして唯一のアルバム『Blind Faith』は英国のアルバム・チャート1位、ビルボードのポップ・アルバム1位という記録を残しています。

ちなみに冒頭にアップしたアルバム・ジャケットは英国版(日本版もこれ)で、当時11歳の少女の裸体を使ったこのジャケは公序良俗に反するとされため、私が持っている米国版はメンバー4人が写った何の変哲も無い表紙です。

 

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収録の6曲全てが無駄のない作品群ですが、いち押したいのは次の3曲。

「泣きたい気持ち(Had to Cry Today)」

1曲目はウィンウッドによるブルース・ナンバーで、ウィンウッドの歌唱力が発揮されています。

グレッチのベースとウィンウッドのギターがユニゾンで同じフレーズを繰り返す中、クラプトンの秀逸のギターソロが始まり、やがてウィンウッドとツインリードとなって絡み出す。

イカーの歯切れ良いドラミングも魅力です。

「プレゼンス・オブ・ザ・ロード(Presence of the Lord)」

4曲目はクラプトンの作。
何度も繰り返し聴いた曲です。

何と言っても圧巻のギターソロ

巧いギタリストは数多くいても、ここまで鳩尾(みぞおち)にぐいぐいと食い込んでくるギターソロは少ない。

ウィンウッドのピアノとオルガン、ドラムのシンバル使いも本当に好き。

やっと行くべき道を見つけた、やっと自分の居場所を見つけた、今ならどの扉を開くこともできる、主(Lord)の恩寵によって、という、迷える子羊が神の恵みによってあるべき生き方を見出した。

という信仰告白のような曲に聞こえるのですが、のちにクラプトンは自伝で「どうしても欲しかった新居が手に入ったことを歌っただけ。神とは関係ない」と身も蓋もないコメント。

種明かしなのか照れ隠しなのかは分かりませんが、ガクッとするようなネタでこんなに崇高さ漂う曲が書けるとは恐れ入ります。

 


Blind Faith Presence of the Lord

 

歓喜の海(Sea of Joy)」

5曲目のウィンウッドの曲。
このアルバム中、最も好きな曲で、何度聞いても飽きることがありません。

ウィンウッドはかなり声を張り上げて高音部が潰れていますが、曲調にあった情感を感じさせるヴォーカルです。

中途に入るリズム・セクションのギャロップがいいし、リック・グレッチヴァイオリンのソロ・パートにも癒されます。

「船に乗り歓喜の海に漕ぎ出すのを待つ」「自由に向けて航海に」という歌詞は何かを象徴していますが、作者が言明していないようで、ネットにはさまざな憶測が散見されます。

奴隷の解放のことだとか(多分違うと思う)、死んであの世に行くことだとか(これも違うと思う)、ヘロインによる意識の解放だとか(一番ありがちだが最もつまらない)。

結局、意図したところは分からないけど、ウィンウッドが歌うこの曲を聴くと何かの救いを切実に求める人の心を感じます。

 


Blind Faith ☮ Sea of Joy

 

今回の「押し」にはいれませんでしたが、2曲目のウィンウッド作の「Can't Find My Way Home(マイ・ウェイ・ホーム)」も非常に有名な曲です。

哀愁がただよう英国調のフォークが入った曲で、多くのミュージシャン・グループがカヴァーしています。

ウィキペディアに載っているだけで30数アーティストがカヴァーを出しており、その中には日本のジャズ・シンガー阿川泰子さんや「ジーザス・クライスト・スーパースター」のマグダラのマリア役のイヴォンヌ・エリマンジョー・コッカーなども入っています。

巨人、ドラキュラ、中世の村-空想旅行が楽しめる正統派プログレ『ジェントル・ジャイアント』

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さて今回はイギリスのプログレ・バンドGentle Giant (ジェントル・ジャイアント)で、1970年のリリースの1枚目『Gentle Giant』です。

バンド名は物語の登場人物で、旅の楽団に出会いその音楽に魅了される巨人に由来しているとのこと。

当時のメンバーはフィル(トランペット、サックス)、デレク(v)、レイ(b)のシャルマン3兄弟ケリー・ミリア(kb)、マーティン・スミス(d)、ゲイリー・グリーン(g)。

ジャイアント(Giant)

パイプ・オルガンを思わせるハモンドの荘厳な響きで始まる1曲目。

うねって動きまくる硬いベースの音はシャルマン兄弟の末弟レイ

この曲、ベースもスミスのドラムも圧巻です。

オルガンのメロディはこれぞプログレ、というコード展開。

メロトロンが入る後半は映画音楽を思わせる壮大さがあります。

巨人というのは何かの比喩のようで、新しい世界観、期待の高まり、成功、傲慢といった要素(パーツ)でジャイアントができている、彼の掌に乗って世界を見よう、と歌っています。

このブログで60年−70年代初頭の音楽を集中的に聞いているせいか、あ、またドラッグの比喩かと想像してしまいますが実際のところは分かりません。


Gentle Giant - Giant


続く2曲目の「Funny Ways(ファニー・ウェイズ)」

英国フォークというかトラッドというか、12弦のアコギ、チェロ、レイのヴァイオリンの奏でる旋律がもの悲しく、寂寥とした中世の村の景色を想起させます。
中途でジャジーな部分が入り、ゲイリーのギターソロが聞かれます。

「Alucard」(アルカードまたはドラキュラ)

重いリズムにミニ・ムーグを効かせたヘヴィーなプログレ

不穏な旋律のハーモニーも決まっているし、この曲のオルガン・ソロがすごくいい。
一度聞いたら忘れないフレーズの繰り返しです。

金縛りにあっているような状態で、邪悪な指、とか生ける屍、死にいく人々の叫び、という不吉な夢想をしているような歌詞ですが、タイトルのAlucardはドラキュラ(Dracula)を後ろから綴り直したアナグラム

確かに嵐のドラキュラ城で恐怖が押し寄せてくるようなイメージの曲です。

 


Alucard - Live in Paris


4曲目は「Isn’t it Quiet and Cold (イズンティト・クワイエット・アンド・コールド)」

3曲目のおどろおどろしさから打って変わって、「バスに乗り遅れて一人歩くことになった。今までは一緒に歩く人がいたのに、今はたった一人」という日常の憂鬱(メランコリー)を歌った曲。

レイのヴァイオリン、ゲイリーの12弦、客演のクレア・デンツのチェロ。

ホンキートンク・チューニングのピアノが物悲しい音色を奏で、ヴァイオリンのピチカート、シロフォンの可憐な音色が花を添えています。

発表当時は「ビートルズのよう」と評されたようですが、タートルズのような、あるいは古いイギリスの民謡のようにも聞こえます。

Nothing at All (ナッシング・アット・オール)

アルバム中最も人気のある曲ではないでしょうか。

アコギのアルペジオとベースに乗せて歌われる旋律とハーモニーがとにかく美しい。
正統派イギリスのフォークといったメロディですが、もちろん美しいだけでは終わるわけもなく、左右のギターの巧妙な絡みから中盤はドラム・ソロに入っていく。
スミスの渾身のドラミングにかぶさってミリアーピアノのソロが入っていく様はまるで嵐の中でピアノが鳴っているかのよう。
クラシカルな旋律を奏でていたピアノがドラムの嵐の中で徐々に乱れていって不協和音の洪水に。
予想通りに最後は冒頭の穏やかなハーモニーに戻っていきます。

 


Gentle Giant Nothing At All


次の「Why Not (ホワイ・ノット)」は楽しい曲です。

冒頭部分はヴォーカルをグレッグ・レイクに変えたらELPかクリムゾンの1枚目でも行けそうな感じ。

短いオルガン・ソロに続き、おそらくメロトロンであろうフルートにのせてイギリスというより中世西欧の田舎を思わせる旋律のヴォーカル。

さらに二転三転して最後はギターがビンビン飛ばしてハードロックに突入。
キーボードもなにやらジョン・ロードの様相を呈してきます。

 


Gentle Giant Why Not


最後はThe Queen(ザ・クイーン)」と題されたイギリス国歌(God Save the Queen)のアレンジ。

ドラム・ロールから始まり、トランペット、キーボード、ファズを効かせたギター、大きくアレンジしている訳ではなくオーソドックスな国歌ですが、終わったと思ったら小さな虫が歩いているようなおまけが付いていて笑えます。

女王陛下にもお気に召していただけるのではないでしょうか。

 

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よく技能的に優れていると言われるジェントル・ジャイアントですが、とにかく面白い。

キーボード、ギター、ベース、ドラムのみならずヴァイオリン、チェロ、シンセサイザー、ブラスなど多様な楽器などを駆使して、ドラキュラ城から中世の村、バスに乗り遅れて一人歩くしょぼくれた男などを脳裏に浮かび上がらせてくれます。

何度か聞けば次々に新たな面白さが発見できそうなアルバムです。


また「Nothing at All」をはじめ要所要所のハーモニーの美しさは特質に値するでしょう。

ビートルズとストーンズの好きな曲3曲 [R. ストーンズ編]

1960年代前半から半世紀以上やっていてスタジオ・アルバムだけでも30枚、ヒット曲数知れず、今なお現役というローリング・ストーンズ

全曲を聴き込んでいるファンも数多いと思われる中で、部外者が言うのもおこがましいとは承知の上ですが、ストーンズが一番面白かったのは60年代、アメリカ的商業化にどっぷり浸かる以前ではなかったかと。

言ってしまえば今かりにストーンズのチケットを人からもらったとしてもそれほど熱は入らないかもしれないけれど(多分行きますが)、ブライアン・ジョーンズが存命していた頃のストーンズだったら何に替えても見たかったという気がします。

 

さて、毎日のように聞いても飽きない曲といえばまずこれです。

Paint It Black(黒く塗れ)

英シングル・チャートで1位、ビルボードのHot100の1位。 米国版の「Aftermath アフターマス)」に一曲目として収録。

キースのギターブライアンのシタールのイントロ、ドスドスと入ってくる重くもアップテンポなリズムの心地よさ。

ビル・ワイマンはベースの音にハモンド・オルガンのペダルの音をダブらせて演奏したと言っています。

ヴォーカルのバックに付かず離れずメロディラインを奏でるシタール。


超ヒット曲には動画を貼らないつもりでしたが、こ時代のストーンズがとにかくカッコいいので白黒動画を貼ります。

 


Rolling Stones Paint It Black HD

 

「Salt of Earth (地の塩)」

アルバム『Beggar's Banquet(ベガーズ・バンケット)』収録。

初めて聞いた時に心をわし掴みにされました。

名もない人々、「生まれの賤しい」人々、額に汗をして働く人たちへの讃歌で、階級社会のイギリスらしい曲です。

彼らが集まるようなバーで歌っているような雰囲気がいい。

歌詞が「何かを変えよう」と言うような運動喚起になっていないことから、所詮金持ちロック・スターの戯言という批判もあったようですが、社会的なメッセージソングをストーンズに期待する方が野暮というものでしょう。(ちなみにキースの父は工場労働者で祖父母は社会運動家だったとウィキにある)

曲の途中から入ってくる力強いピアノはもちろんニッキー・ホプキンス

後半のゴスペル・クワイヤーによる合唱に心を洗われます。

 


The Rolling Stones - Salt Of The Earth (Official Lyric Video)

 

「Lady Jane(レディ・ジェーン)」

収録は『Aftermath(アフターマス
ジャガー&リチャーズによるヒット曲。

短い曲ですが、キースのアコギの重録にブライアンのダルシマージャック・ニッチェハープシコードが被さっていく様は得も言われぬ美しさです。

ジャック・ニッチェは作曲者として愛と青春の旅だちカッコーの巣の上でをはじめとする映画音楽で知られています。

「As Tears Go By」でもそうですがミック・ジャガーの訥々の語りかけるようなヴォーカルが本当にいい。

ライブの映像ではハープシコードではなくシロフォンが入っていますが、やはりスタジオ・バージョンのようが好きです。

 


1966 lady jane-rolling stones.mpg


3曲のつもりでしたがもう一曲。

「Sitting on a Fence(シッティン・オン・ア・フェンス)」

米国版のコンピレーション・アルバム『フラワー』の最終曲。

人生の様々なことの決定ができずにどっちつかずの男の歌です。

左スピーカーのブライアンと右スピーカーのキースのアコギ、ミックとキースのハモリ、最後にちらりと入ってくるブライアンのハープシコード、いいなー。

ストーンズらしい曲ではないですが、定期的に聞きたくなります。


若き日のストーンズのTVショーの動画

このマイク・ダグラス・ショーは、かなり気に入っている動画です。


 


Rolling Stones Mike Dougles Show 1964

 

結成後1年半というストーンズが「Carol」、「Tell Me」(日本のGS オックスでは何故か失神ソング(笑))」、「Not Fade Away 」を演奏していますが、面白いのは6:00あたりで入っているインタビュー

(英語が多少できたら面白いので見てみてください。冒頭のおじさん達の会話は飛ばしてOK)

メンバーの名前も知らないトーク・ホストがキース・リチャーズに向かって「こちらのあなたのお名前は?」と訊いていたり。

ここ数年ロンドンでは長髪が流行っているという話題で
「で、ロンドンの床屋はどうしてる」

受けを狙ったマイク・ダグラスの質問に、

「飢えてるだろ(Starving)」といかにもヤラセで言わされてます感アリアリのミックとブライアンの投げやりな返事。

 

さらにメンバー達と対面させてもらえた女性達のテンションの高さ。
キャーキャーと悲鳴。あー、どうしよう!もうダメ、ダメと顔を覆ってジタバタ。
(こらこら落ち着け)
当時らしく装いやメイクは老けているけど10代か20代の初めでしょうか。

「この中で女性に人気のある人は?」との司会の質問に

「いや、特にいないよ」とチャーリー・ワッツ

(いやチャーリーさん、何であなたが答えるの?確かに55年後の未来では一番渋くて素敵だけど)

「ミックは女性より男性に人気があるし」とおそらく一番もてていたと思われるブライアン。

 

今やミックもキースも70代半ば、チャーリーは70代後半。
バンドから離れているがビルは80歳代。

不健全な生活で有名だったキース等が、高齢者になっても生存しているばかりか現役バリバリでやっているとは当時のファンも想像しなかったでしょう。

一方この番組を半世紀後の未来人がこのような形で見るなどとは本人達も想像もできなかったに違いありません。

 

ビートルズとストーンズの好きな曲3曲選んでみました [ビートルズ編]

突然ですが、一番好きなビートルズの曲は何ですか?

多すぎて選べないという方が多いかもしれません。

話が逸れますが、NHKの連ドラひよっこを最近になってDVDでまとめ見しました。

ご存知の方も多いと思いますが、1960年代が舞台のドラマでビートルズの来日公演がエピソードとして出てきます。


多くの熱狂的ファンが武道館公演のチケットが取れずに失意にくれる中、主人公と同じアパートに下宿するお坊っちゃま学生が、親のツテで切符を受け取ります。

彼いわく「僕はああいう音楽は苦手なんだけど、一曲だけいいなと思う曲があるんだ」

これを見ていた視聴者で、種明かしされる前に「ああ、これはあの曲に違いない」と思った方は多いのではないかと思います。はたしてその曲は「エスタデイ」でした。

結局その切符はチケットが取れずに傷心脱力している若い女性ファンの手に渡ります。


さて今回は3曲、個人的に好きなビートルズの曲を選んで見ます。

While My Guitar Gently Weeps (ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス)

The Beatles(ホワイト・アルバム)収録で、ジョージ・ハリソンによる名曲です。
テーマは恋愛というよりも全人類に対する愛と嘆き。

ポールのピアノ、ドラムのシンバルのイントロから入っていく切ないメロディー、それを表現するジョージの重録によるヴォーカルの美しさ。

が、何と言っても圧巻は客演のエリック・クラプトンのギター。
美しい哭きの入ったギター・ソロにぞくっとさせられます。

Penny Lane(ペニー・レイン)

この曲が好きな理由な単純明快。
曲全体で「英国!!」と主張しているためです。

女王陛下の写真を懐に持っている消防士。

雨なのにMac(レインコート)を着ない変な銀行家。

フィッシュ&フィンガー・パイ(Fish & Chips)とか、ラウンダバウト(Roundabout)とか。
この曲のイメージはイギリスの電話ボックスに使われているような鮮やかな赤です。

この曲のポールのベース好き。

管楽器はD・メイソンのピッコロ・トランペットを始め、フルートもピッコロも実に効果的。

最後のシャラシャラというハンドベルも可愛い。

Here Comes the Sun (ヒア・カムズ・ザ・サン

言わずと知れた『アビー・ロード』の収録曲。これもジョージによる名曲ですね。
いつ聞いても清々しい気持ちになれる曲です。

ジョージはこの曲を親友エリック・クラプトンの邸に滞在中作曲したと言います。

イギリスの長い冬の後の暖かな春の陽射しと、ビートルズ内のトラブルからのひと時の解放がこの曲に込められています。

ジョージのアコギとエレキ、ポールのベース、リンゴのドラムに加えて弦楽器(ヴィオラダブルベース)、フルートなどが綺麗に構成されています。

途中から入ってくるリード・オルガン(ハルモニウム)の音色も心地いい。

この曲、ジョージはムーグ・シンセサイザーを用いているようですが、どこがシンセサイザーなのか今一つぴんときません。

 

ピックアップしたのはベタなほど有名な曲ばかりで音源もネットに多々あると思うので今回動画は貼らないことにします。

上記の3曲のほかでは、レゲエのリズムが楽しい「オブラディ・オブラダ」、縦ノリのリズムにのれる「Maxwell's Silver Hummer」(歌詞がエグすぎる)、「Twist and Shout」あたりが次点です。

不思議なことに男性だと「A Day in the Life」が好きという人が周りに多い気がします。

アビーロードといえば

ロンドンに住んでいた頃、アビーロードは住居から目と鼻の先の距離にありました。

最寄りのセント・ジョンズウッドからチューブ(地下鉄)に乗って通勤していたので、駅の近くではしょっ中、あらゆる国からの観光客に「アビーロード、どこですか」と声をかけられました。

「まっすぐ行って右側が、あのゼブラ・クロッシングですよ」とお教えしましたが、ゼブラという表現もあまりアメリカでは聞きませんね。

本当に本当に懐かしいです。

下の写真はある日、通りかかったら人だかりがしていたので見ると‥‥リンゴ役の背が高すぎるし、なぜ緑色のストール?


 

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ピンク・フロイド『ウマグマ』の2枚目

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前回の『ウマグマ』の1枚目ライブ録音に続き、今回は2枚目、アビーロード・スタジオでの録音です。

この2枚目、リック・ライト、ロジャー・ウォーターズ、デイヴ・ギルモア、ニック・メイソンの順に4人のメンバーが一人ずつ書いて演じた曲が収録されています。

リック・ライトの「シシフォス組曲(Sysyphus)」

シシフォス(シーシュポス)はギリシャ神話の登場人物で、死を免れるために神々を欺き、その罰として巨大な岩を山頂に押し上げる苦役を与えられます。もう少しで山頂に届くという瞬間に、岩は重みのために麓まで転がり落ちてしまう。これが永久に続くという話です。

フランスの文学者カミュがこの神話の不条理をテーマにした「シシフォスの神話」という作品を書いており、ライトの曲はカミュの著作にヒントを得て曲を作ったとか。

 

リック・ライトは メロトロンオルガンピアノ電子ハープシコードエレキギタービブラフォンチューブラ・ベルズスネア・ドラムシンバルを担当。

アルバム・プロデューサーのノーマン・スミスティンパニゴングで入っています。 

パート1は短い序章で、これから始まる古代神話の始まりを告げるかのように、ライトのメロトロンによる弦と管楽器のオーケストラに加え、スミスのティンパニの音が物々しくとどろきます。

パート2はグランドピアノによる繊細でもの悲しい旋律から始まり、シンバルとともに前衛ジャズの様相を呈し、ドロドロという効果音とともに、シシフォスの救われない状況を表すかのような不協和音の洪水になっています。

パート3はパート2を受けて電子ハープシコードの不協和音と打楽器を中心に混沌とした塊です。後ろでファルフィッサなのかメロトロンなのか、しきりに不気味な音がします。

この辺り、例えるならばヒエロニムス・ボス(ボッシュ)のゴチャゴチャした絵画を見ているかのような不快感があります。

前のパートとは打って変わって静謐なストリングス(メロトロン)の牧歌的旋律と鳥の啼き声、せせらぎの音で始まるパート4。シシフォスの絶望的な世界にも明るい朝が訪れたかと思いきや、空を漂う暗雲。

たちまち暗転して不協和音で混乱した世界へ。

あたかも山頂へ到達したと思ったせつなに岩が瞬く間に奈落の底に転がり落ちるかのように。

最後はパート1のテーマに戻り、再び絶望的な物語は繰り返されます。

 

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ロジャー・ウォーターズの「グランチェスターの牧場(Grantchester Meadows)」

ピンク・フロイドの一つの特徴と言えるイギリスの田園風景を歌った曲、無条件に好きです。

ランチェスターはギルモアが生まれ育ち、ウォーターズも少年時代に過ごしたことがあるケンブリッジ市の郊外。

凍てついた風が吹く夜がさって、鳥が啼き霞みがかった朝が訪れる。
雲雀(ヒバリ)の声、雄狐の鳴き声。
カワセミ(Kingfisher)が水中に飛び込む様子。
緑色の川は木々の間を縫い、笑い声を立てながら終わりのない夏を、海に向かって流れていく。

イントロでは鳥の囀りと虻のような羽虫の音の効果音が使われ、続いてウォーターズの囁くヴォーカルが牧歌的な美しい詩を歌います。

ヴォーカルの重録でエコーがかかっているような効果。

クラシックギターはダブル録音で、一台はメロディを奏で、もう一台は装飾を被せている。ギターのフィンガリング・ノイズが心地いい。

途中川の流れる音や水鳥の羽ばたく音、遠くで吠えている狐らしい声が効果的に使われています。

最後にイントロで出てきた虻かハエのうるさい羽音が再び現れ、続いて人間の足音とハエ叩きを振り回す音、ついにバシッと命中した音と共に曲が終わるあたり、ユーモアのセンスが感じられます。

 

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カワセミの雄は派手な羽根色

 

続く「毛のふさふさした動物の不思議な歌(Several Species of Small Furry Animals `Gathered Together in a Cave and Grooming with a Pict)」もウォーターズの作。

これは曲というよりも効果音と音声の集合で、小鳥の囀り、アヒルのような家禽、ウシガエル、ネズミがたてるような音が聞こえますが、全てウォーターズが声とマイク、録音スピードの速度で作った音らしい。

「カムバック・アフー(多分違う)」のように聞こえる音声の繰り返しは洞窟の原人の祈祷のようです。当時としては前衛的で実験的な作品だったのでしょう。

タイトルのPictはスコットランドの原住民のこと。

後半はウォーターズの友人のスコットランド人ロン・ギーシンのスコットランド方言によるスピーチらしきものが入っていますが、最後の「Thank you」以外何を言っているのか全く分かりません。

 

デイヴ・ギルモアの「ナロウ・ウェイ(Narrow Way)」

それまで一人で曲を作ったことがなかったギルモアは自信がなく、ウォーターズに「せめて作詞ぐらいは手伝ってくれ」と頼んだところ、「それぐらい自分でやれ」とにべもなく断わられたという逸話が残っています。

そのギルモアはこの自作でヴォーカルアコギ、エレキギターベース、キーボード、ドラム、パーカッション、マウスハープ(Jew’s Harp)を一人でこなすという多彩さを見せています。

パート1ではブルースがかったカントリー調の曲。

アコースティック・ギターの重録で3本のアコギの演奏のように聞こえますが、そのうち1台がスティールギターがかった音を出しているのはボトルネックによるスライドでしょう。


このアコギをバックにエレキのスライド音やファズで歪んだ音が流星のように飛んできては消える。シンセサイザーのように聞こえる音はファルフィッサ・オルガンでしょうか。

軽いパート1に対してパート2は歪ませたギター、キーボード、ベース、パーカッションがユニゾンで重苦しいフレーズを繰り返すというイントロで始まります。

このフレーズが曲全体を覆う中、これもファルフィッサ・オルガンなのか、なんとも神秘的な音を出し始めます。


暗黒の宇宙空間に浮遊しているというイメージのピースで、結構好きです。

パート3のイントロのお経のようなコーラスはどうやらメロトロンらしい。

アコギをバックにけだるい囁きヴォーカルが心地いい。

これも重録でセルフでハモっていて、声にエコーがかかっているようです。


まさにピンク・フロイド、という曲で、この曲とグランチェスターはいきなり聞かされてもピンク・フロイドの曲だとわかるメロディと曲調です。

ちなみにギルモアとウォーターズは声質も歌い方も似ていますが、ニック・メイソンに寄れば両者のヴォーカルの判別は「音程が合っていればギルモア」だとか。(出典:市川哲史著「どうしてプログレを好きになってしまったんだろう」)

途中からベース、ドラムを入れてますが、器用だなと思います。

何重にも重ねて入れていってよくバンドが演奏しているように聞こえるものだと。

 


Pink Floyd - The Narrow Way

 

ニック・メイソンの「統領のガーデン・パーティ(The Grand Vizier's Garden Party)

パート1は当時の夫人リンディー・メイソンの美しいフルート・ソロとそれに続くドラム・ロールだけの短い曲。

これがガーデン・パーティの入口ということらしい。


パート2の冒頭は和太鼓に聞こえるティンパニのバチ打ち、雅楽を思わせる吹奏楽器(フルートに聞こえない)、おそらくテンプル・ブロックと思われるパーカッションで東洋的な印象。

やがてくぐもった途切れ途切れのドラム音と聖歌のようなメロディを奏でるこれもくぐもったフルートの音。

なんかガーデン・パーティというよりも冥界の亡者の饗宴のような。

地の底から響くドラムは収録事故のようにいきなり切れたり始まったり。
最後部はドラム・ソロでパーティのクライマックスとなります。

パート3はパート1と同じ旋律のフルートのみで、これがパーティの出口のようです。


終わりに

このスタジオ版についてはメンバー自身があまり満足していなかったようです。

レコード・コレクターズ誌には「(ウマグマが神秘の次のステップとして機能し得ず)一回休憩の印象がこのアルバムにはつきまとう」(2016年12月号)とまで言われています。

確かに寄せ集め的な印象はあるものの、この時代ならではの前衛的というか、それぞれ出せる音の限界を試しているような面白さとまだ若かったピンク・フロイドというバンドの可能性を感じさせるアルバムで自分的には悪くないのではと思います。


「グランチェスター」と「ナロウ・ウェイ」のウォーターズとギルモアのぼそぼそ囁くヴォーカルも一興で。

 

さて1970年のアントニオーニの映画砂丘(Zabriskie Point) 』ピンク・フロイド「51号の幻想」「若者の鼓動」「崩れゆく大地」の3曲を提供しています。

これも深夜映画で見た記憶だけはあるのですが、ピンク・フロイドの曲を待っているうちに映画がつまらなくて寝てしまったような。

この3曲は飛ばしてピンク・フロイドには次回は「原子心母」でお目にかかりたいと思います。

ピンク・フロイド『ウマグマ』のライブ録音は一押し

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『夜明けのパイパー』『神秘』『モア』とのろのろと歩を進めてきましたピンク・フロイド関連。

この記事進行のタラタラぶりでは『狂気』ザ・ウォールははおろか原子心母』に達する以前にブログに飽きて放り出してしまう恐れもありますので、今回はウマグマ』で行ってみたいと思います。

ご承知の方も多いと思いますが、2枚組の『ウマグマ』は1枚目がライブ、2枚めがスタジオ録音という構成になっています。 

ライブ盤は全4曲。

『夜明けのパイパー』に収録された「天の支配、シングルとして発表された「ユージン斧に気をつけろ(Careful with that Axe, Eugene)」『神秘』から「太陽讃歌」「神秘」

 

londonvixen.hateblo.jp

 

ちなみに『ウマグマ(Ummagumma)』という奇妙キテレツなタイトルですが、性的隠喩を含むスラングという説、SF小説デューン』に出てくる呪文ウマーが語源、という諸説があるようですが、ニック・メイソンの「特に深い意味はない。響きがカッコ良かっただけ」という身も蓋もないコメントが一番ピンク・フロイドっぽい。

天の支配(Astronomy Domine)

スタジオ録音の方は比較的淡々としていますが、こちらのライヴ・バージョンは迫力があります。
ロジャー・ウォーターズのうねるベースのかっこよさ。
デイヴ・ギルモアのファズのかかったギター・ソロ。
シド・バレットに代わってヴォーカルはウォーターズギルモアのユニゾン
ニック・メイソンのドラムもシンバル使いもかなり好き。
リック・ライトのオルガンの音色の美しさ。
やはりピンク・フロイド好きだ、と改めて感じます。

 


Astronomy Domine - 01 - Ummagumma - Pink Floyd

 

ユージン斧に気をつけろ(Careful with that Axe, Eugene)

個人的にはこのライヴ録音で一番好きな曲です。

ベースのリズムの繰り返しにオルガンの不穏なメロディーが入っていくイントロ。
「あれ、『モア』に似た曲はなかった?」という気がしますが、この時期のピンク・フロイドの特徴的な曲調と言えます。

この曲では有名なウォーターズ「叫び」が聞かれます。

プライマル・スクリーム(退行療法で行われる大声で叫ぶ手法でかのスティーヴ・ジョブズも青年期に試したらしい)らしいとされていますが、もっと原始的な太古の人類の絶叫のように聞こえます。

そのあとのスキャットー歌うベーシストは結構いますがベース弾きながら歌うのはかなり難しいです。

終盤のギルモアのギターとライトのオルガンの絡みも絶妙。

 

 


Careful with That Axe, Eugene - 02 - Ummagumma - Pink Floyd


太陽讃歌(Set the Controls for the Heart of the Sun)

和太鼓を思わせるドラムのバチ打ちとドラの力強さ。
パーカッションをバックに例によって呟くようなヴォーカル。

晩唐の詩人の詩をベースにした詞を意識してかパーカッションとキーボードがオリエンタル趣味を覗かせます。

後半のインスト部分のシンセサイザーにはぞくっとさせられます。

スタジオ録音と比べて残念なのはスタジオ盤で入っていたシドのギターによる海鳥の鳴き声がないことでしょうか。


Set the Controls for the Heart of the Sun - 03 - Ummagumma - Pink Floyd

 

神秘 (Saucerful of Secrets)

うねるベースと不穏なメロディを奏でるキーボード。

この時期のピンク・フロイドこの組み合わせが多いような気がしますが、これ結構好きです。

中盤のドラム・ソロに入ってくるキーボードのヒュルヒュル、キュルキュル音の禍々しさ。
ひとしきり魔と闇に支配されたような混沌を抜けた後に、全てを包み込んで天に昇っていくような崇高なオルガンとスキャットの美しい調べには思わず手を合わせたくなります。


Pink Floyd - A Saucerful Of Secrets (Ummagumma)


終わりに

スタジオ録音を忠実に再現したライヴを誉めるコメントを聞いたことがあります。
しかし優れたライヴにはそれを遥かに凌駕するエネルギーを感じさせるということをこのアルバムが実証しています。
ピンク・フロイドのこのライヴをじかに聞けた人たちは本当にラッキーです。
ウォーターズとギルモアはフロントマンですが、ニック・メイソンのドラムもリック・ライトのキーボードも素晴らしい。
収録の4曲は比較的に似通っているのですが、何度繰り返し聞いても飽きるということがありません。

 

見開きの紙ジャケで小冊子付きというのが何となく得した感じ。

 

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590ページに及ぶ分厚い「ピンク・フロイドの全曲とその背景(Pink Floyd All the Songs -The Story Behind Every Track)」という本をゲット。ピンク・フロイドの攻略本です。

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超超初心者、ジャズを聴く

私はサンフランシスコのベイ・エリアのある町から隣の町の職場まで片道約30分運転して通っているのですが、この通勤時間の最大の楽しみは音楽を聴くことなのです。

この1ヶ月ほど「ベイ・エリア・ジャズ・ステーション」なる局にチューンインして毎日1時間ひたすらジャズを聴いています。

黄昏時から夜にかけて、前に連なる車のテールランプを眺めてアンニュイな気分に浸りたい時の音楽はずばりジャズ。これに勝るものはありません。

これがマンハッタンの夜景だったらさらに気分が盛り上がるかもしれませんが、そこは致し方ありません。

と言ってもジャズの入門者の門にすらたどり着いてない状態の自分がいます。

分る曲といえば「テイク・ファイヴ」、ヘレン・メリルの「You’d be so nice
to come home to」ぐらいで、どちらも昔日本のCMソングで使われていたから知っていた、という笑えるレベルです。

とはいえ、ジャズもいろんなジャンルの音楽を取り入れているようですね。

昨日など、「え、どっかで聞いたようなフレーズ」としばらく考えて「これツェッペリンの?あの窓がたくさんついてるアルバムに入っている例の」(←とっさにフィジカル・グラフィティも曲名のカシミールも浮かばず)というサプライズ。

今日は今日で、「チャッチャッチャー、チャッチャッチャッチャー」というイントロで、「いくら何でもジャズ・ステーションでスモーク・オン・ザ・ウォーターなんかやらないよねー。ひょっとしてパープルが古いジャズの曲をパクったのか?」と思ったらDJがしれっと「曲目Smoke on the Waterでした」と。

濡れ衣のディープ・パープル

そのあとはJ.S.バッハの「タタン、タタン、タ、タタタタタタタタ、タンタン」(これで曲目が分る方はまず居られるまい)をピアノでやっていて「あり?なんで普通にクラッシック演る?」と思っていたらドラムが入って立派にジャズのアレンジ。

ロックやクラシック音楽のアレンジも十分楽しめるのですが。

何と言っても黄昏時にアンニュイな気分に浸るのは、ゆったりとしたベースとドラムとピアノ、あるいはピアノの代わりにフルートかサックス

ウッドベースの音がとても好きなので、ベースが利いているのがいいし、ヴォーカルはできれば無しのほうが。

 

なにせ入門の入り口にたどり着いてないので、こういう雰囲気の曲を誰がやっていて何というアルバムの何という曲目を聞けばいいのかは皆目わかりません。

このブログをたまたま見たジャズ好きの方が「まず、XXから聴いて見たら」みたいなレコメンをくださったりしたらいいな、と思ったりします。